ホグワーツ内でのハリーと私に向けられる視線は、疑惑と軽蔑と恐怖のどちらかでした。
ハリーは同じ部屋のフィネガンくんと喧嘩してしまったらしく、1日目から苛々とした空気を放っていました。
私と同室のブラウンちゃんも私をよく思っていないようでした。
ですが、他の誰に何を言われようが、私は私のやることをしなくてはいけないのです。
寂しいものは、やっぱり寂しいですけれど。
『そんなに淋しいものかい?』
「淋しいですよ。みなさん、お友達なんですから」
私は学校にこっそりと持ってきていた黒い日記に羽ペンを走らせていました。
リドルくんは今、フェインの次に私の話をよく聞いてくれる人?でした。
ヴォルデモートさんと違ってリドルくんはハリーを倒そう。という気はもう無いようで、ハリーへの嫌悪感は相も変わらずそのままでしたが、私の相談にはよく乗ってくれていました。
『ほら、そろそろ寝なよ。明日も早いだろう?』
「はーい。おやすみなさい、リドルくん」
『……おやすみ』
照れているかのようにすぐ消えてしまった文字に表情を緩めながら、私はフェインを抱きしめながらベットに潜り込みました。
次の日、始まった授業に、私は困惑を見せました。
5年生は『O・W・L(フクロウ)』の試験がある年なのでした。
1番最初にあった魔法史の授業でも『O・W・L』の話が出て、私は苦笑を零しました。試験は好きではありません。
そして久しぶりの『魔法薬学』の授業の時間になりました。
久しぶりに入る地下牢教室で、私は前の方の席を1人で独占していました。と、その時「静まれ」とスネイプ先生の冷たい声が聞こえました。
ですが、スネイプ先生が入ってきた時点で、既にクラスは静まり返っていました。スネイプ先生がいるだけでクラスは静かになること請け合いです。
「本日の授業を始める前に、忘れぬようにはっきりと言っておこう」
そう言ったスネイプ先生も、6月に来る『O・W・L』の説明をしました。
魔法薬学では、『O・W・L』の試験で「可」以上の評価を取らなくては、来年の受講はできないのだといいます。
毎年「優」をとっていた私ですが、不安になります。来年も、この授業は受けたいと思っていたのですから。
そう言った説明を終わらせたスネイプ先生は、前と変わらず、黒板や薬棚に杖を向けました。
「今日は普通魔法使いレベル試験にしばしば出てくる魔法薬の調合をする。
『安らぎの水薬』。不安を鎮め、動揺を和らげる。注意事項。成分が強すぎると、飲んだものは深い眠りに落ち、ときにはそのままとなる。
故に、調合には細心の注意を払いたまえ」
あぁ、久しぶりの魔法薬学です。うまくできるのでしょうか。といった不安もありましたが、私はここ最近の中で1番張り切っていたのも事実でした。
ドキドキと高鳴る胸を抑えて。久しぶりの調合を張り切って始めました。
そして、1時間後、薬から軽い銀色の湯気が立ち上っていたのは、私とハーマイオニーだけでした。
うまくいった調合に、私は表情を和らげます。和らげていた私でしたが、スネイプ先生がハリーの大鍋の前に立っているのを見て、すぐに表情を険しくさせました。
よく見ると、どうやらハリーは1つ手順を飛ばしてしまったらしく、大鍋から灰黒色の湯気を立ち上らせていました。
スネイプ先生は、ハリーに黒板を読むように言ったあと、『エバネスコ(消えよ)』の呪文で、ハリーの大鍋の中を消してしまいました。酷いです。
「課題をなんとか読むことができた者は、自分の作った薬のサンプルを細口瓶に入れ、名前をはっきり書いたラベルを貼り、我輩がテストできるよう、教壇の机に提出したまえ」
そして、それに加えて、羊皮紙30cmに月長石の特性と、魔法薬学に関するその用途をまとめる宿題を出しました。
私は自分の安らぎの水薬を提出しつつも、不機嫌なハリーをちらみして、それをものともしないスネイプ先生をじーっと見ていました。
あんまり、ハリーに酷いことばかりしないで欲しいものです。
チャイムがなると、ハリー達は真っ先に地下牢教室を出ていってしまいました。
私は未だのんびりと片付けをしています。そして教室には私だけが残っていました。
教壇の椅子に座って、さっそく採点を始めているスネイプ先生が、のろのろと片付けをする私に声をかけました。
「次の授業は?」
「……。午後1番にDADAです…。憂鬱ですー」
「さっさと行きたまえ」
「とりあえずお昼なんで、もう少しゆっくりしたいでーす」
そして私は自分の大鍋をてててと運び『スコージファイ(清めよ)』と大鍋を洗い始めました。
ちらりとスネイプ先生を確認すると、視線で、地下牢教室の隅にあった試験管を示されます。私は苦笑を零しながらも、そちらの洗浄も始めました。
「今回はあまり多くないですねぇ」
休みを挟んだのに。とそう思った私でしたが、スネイプ先生がびっくりするくらい多忙だった事を思い出して、口を閉じました。
スネイプ先生は何も言わないまま、採点を続けています。
あっさりと洗い終わってしまった私は、数瞬迷ってから、薬棚を覗き込み、足りなくなっている薬草の補充を始めます。
いつの間にか這い出してきたフェインが棚の上でくつろいでいます。私は笑みを零しながら、新しく瓶を追加しました。既に手馴れたものです。
それでもやれることが終わってしまったあと、スネイプ先生に振り返ると、先生は「Ms.」と短く私を呼びました。
素直に駆け寄る私。先生は、私に試験管を手渡しました。首を傾げます。
「先生?」
「飲みたまえ」
「え。これをですか?」
試験管をよく見なおします。そこには私の名前が書かれたラベルが貼ってありました。仄かに銀色なそれを見て、これが先程、私が作った『安らぎの水薬』であることに気がつきました。
「あ…、あの…、流石に、自分で作ったものを飲むのはちょっと…。
成分が強すぎると、そのまま寝ちゃうんでしたよね、これ…」
「人に使えぬものを作ったと?」
頬杖をついたスネイプ先生は静かに私を見ていました。うぅ。そう言われると、複雑です。
私は顔をしかめて逡巡します。スネイプ先生は未だに私を見ていました。
「Ms.の様子を見て、その薬品の採点をする」
「え。じゃあ、私がこれを飲まなかったら?」
「採点はなし。初回から0点ですな」
「スネイプ先生って、とっても、とっても意地悪です」
……死んじゃったりは、しません、よね?
スネイプ先生は意地悪だとしても、悪い人ではありませんよね…?
私はスネイプ先生とフェインが見守る中、おずおずとその『安らぎの水薬』に口をつけました。
一口飲むと、すぐに頭がぼーっとしてきました。ですが、眠気とはまた違った感覚で、私は長く息をつきました。
先生が片手で近くの椅子を示します。私は、ゆっくりと腰掛けました。フェインが心配そうな声を出しました。
椅子に座った私のすぐ横に、スネイプ先生がいました。私の腕を取って、手首を出し、脈を図るように青白い肌が合わされました。
私はぼんやりとスネイプ先生の姿を目で追っていました。
「どうです?」
「……。…我輩が調合した薬でも今と同じ症状が出るでしょうな」
「じゃあ、成功してたんですね!」
にっこりと微笑む私でしたが、私から見えるスネイプ先生の横顔はいつもの無表情のままでした。
ふわふわとした感覚に包まれている私の側で、スネイプ先生は立ち上がり、軽く杖を振るいました。
生徒用のテーブルに現れたのは、サンドイッチなどの軽食でした。私は、首を傾げます。
「先生は昼食を大広間で取らないんですか?」
「やるべきことは山程ある」
先生はまた教壇に戻り、沢山の、様々な色をした試験管を見ていました。
シュルシュルと、サンドイッチの側に寄って行ったフェインを捕まえて、私は立ち上がり、教科書類を持ち直しました。
「では、私もそろそろいい加減、昼食を取りに行きますね」
「は?」
私がそう言うと、スネイプ先生の、本当に珍しい困惑した声を聞くことが出来ました。
驚き、スネイプ先生の表情を見ましたが、先生は何故か苦々しい視線を私に向けていました。
私が腕に登らせたフェインが、また机の上へと戻っていきます。私はフェインを覗き込むようにしゃがみ、彼を見つめました。
「フェイン? お昼ご飯食べに行きますよ?」
「……………………………。…シュ」
長いこと沈黙を守ったフェインが、1度スネイプ先生を見たあと、何故か諦めるように一声鳴いて、私の腕に戻ってきました。
私は先生に振り返って、ぺこりと頭を下げました。
「それでは、先生。また」
「……………グリフィンドール5点減点」
「えっ!? 何でです!?」
「授業中に減点し忘れていた」
「ええええ????」
久しぶりの理不尽に肩を落としながら、私はしょぼんと地下牢教室の扉を閉めました。ぱたん。