「この学校のやり方を批判する訳ではありませんが、しかし、貴方達は大変無責任な魔法使い達に晒されてきました」

ハリーがちらりと振り返り、私を見たのを感じました。私はじととアンブリッジ先生を睨んでいました。

「中には非常に危険な半獣もいました」
「…それが、もしリーマスさんの事を言っているなら」

私の声は今までにないくらい冷たいものでした。立ち上がりそうな勢いの、私の震えた声。

「私の父親を侮辱しないでください…!」
「ルーピン先生は今までで最高の先生だった!!」
「手が上がっていません、Ms.ルーピン! Mr.トーマス!」

瞬間、私とトーマスくんの手が同時に挙がりました。ですが、その手の意味はもうありませんでした。

アンブリッジ先生は甲高く声を震わせた後、わざとらしいくらいに優しげな声をかけました。

「さて、試験に合格するためには理論的な知識で十分足りるというのが魔法省の見解です。
 結局、学校というものは試験に合格するためにあるのですから。
 それで、貴女のお名前は?」

アンブリッジ先生は今、手を挙げたばかりのパチルちゃんを見ていました。

「パーバティ・パチルです。それじゃ『DADA』の『O・W・L(フクロウ)』には実技はないんですか?」
「理論を十分に勉強すれば、試験という慎重に整えられた条件の下で、呪文がかけられないということはありえません」
「それまで1度も練習しなくても? 初めて呪文を使うのが試験場だとおっしゃるんですか?」

ぶっつけ本番もいいところです。クラス中に困惑の波が広がって言っていました。

「それで理論は現実世界でどんな役に立つんですか?」

既にハリーは拳を突き上げて、大声を出していました。アンブリッジ先生の猫撫で声。

「ここは学校です。Mr.ポッター。現実世界ではありません」
「では私達が卒業したあと、自衛の技を身につけなくてもいいというのですか?」

思わず私も声を発していました。ですが帰ってきたのはそっけない言葉。

「外の世界で貴女達を襲うものは何もありません。Ms.ルーピン」

ハリーはもう立ち上がりそうな勢いでした。
アンブリッジ先生がぞっとするような甘ったるい声でハリーに問い掛けました。

「それに、貴方達のような子供を誰が襲うと思っているの?」
「もしかしたら…ヴォルデモート卿?」

クラス中に恐怖が走りました。ロンは息をのみ、ブラウンちゃんは短い悲鳴をあげます。ロングボトムくんは椅子からずり落ちました。
アンブリッジ先生は、気味の悪い満足気な表情を浮かべたまま、ハリーを見つめていました。

「グリフィンドール、10点減点です。Mr.ポッター」

教室中がしんと沈黙に包まれました。

「さて。いくつかはっきりさせておきましょう。
 皆さんは、ある闇の魔法使いが戻って来たという話を聞かされてきました。ですが、これは嘘です」
「嘘じゃない!! 僕は蘇ったあいつを見たんだ! リクもだ! 僕はあいつと戦ったんだ!」
「罰則です。Mr.ポッター」

怒鳴るように反論したハリーにアンブリッジ先生は勝ち誇ったように言いました。

次にハリーは立ち上がっていました。クラス中が恐々とハリーを見つめます。
ハーマイオニーがハリーの袖を引いて、ハリーを止めようとしますが、ハリーは真っ直ぐにアンブリッジ先生を睨んでいました。

「それでは先生は、セドリック・ディゴリーが勝手に死んだというんですね?」

ハリーの声は震えていました。クラス中が一斉に息をのみ、私は少し俯きました。

ディゴリー先輩は、ヴォルデモートさんに…術を当てたのはピーター・ペティグリューでしたが、ディゴリー先輩は、そう、ヴォルデモートさんのせいで死んでしまったのです。

「セドリック・ディゴリーの死は悲しい事故です」
「っ!」

ディゴリー先輩の死を、事故だと言うなんて…!!
きゅっと口を噛み締め、アンブリッジ先生を睨みつけます。

「殺されたんだ。ヴォルデモートがセドリックを殺した。先生もそれを知っているはずだ」

ハリーの言葉を聞いたアンブリッジ先生は無表情でした。ですが、先生は次に、優しく甘ったるい女の子のような声を出しました。

「Mr.ポッター、いい子だからこっちへいらっしゃい」

アンブリッジ先生はハリーを教壇の前に呼ぶと、何か手紙を渡し、マクゴナガル先生の所へ行くことを指示しました。

クラス中が未だ静まる中、ハリーは誰を振り返る訳でもなく教室を出ていきました。
しんとした空気の中、アンブリッジ先生はまた微笑みました。

「では、次は教科書の次のページを読みましょうね」

何事もなかったかのように微笑みました。

ムッとした私がアンブリッジ先生を睨みつけます。
睨み続けているとアンブリッジ先生がにやーと笑って私を見上げました。

「どうしましたか? Ms.ルーピン?」
「なんでもありません」

素早く答えて私は教科書の指定された場所を開きました。開いただけで、内容は頭に入れていませんでした。


†††


その日の夜にはアンブリッジ先生との授業の話はもう大広間に広がっていました。
夕食の時間はみんなひそひそとハリーの方を見ていました。

みなさん、今度はハリーが大広間で怒り出せば何か話を聞けると思っているらしく、囁く声はどこからともなく、でもしっかりと届いていました。

そんないい気分には慣れない夕食は途中で止め、私は静かに大広間を抜けました。
階段を降り、見慣れた扉を押して入ると、鞄からすり抜けたフェインが前の教壇まで這っていきました。

大広間に姿は見えなかったし、もしかしたらまだ夕食を食べていないかも知れません。

そう思っていましたが、辿りついた地下牢教室で、スネイプ先生は教壇の横にサンドイッチを置きながら、何かレポートをまとめていました。
視線が上がり、私を捕らえます。

「Ms.?」
「こんばんは。スネイプ先生。また来ちゃいました」

少し驚いた先生の顔なんて新鮮です。そう思っているうちにいつもの無表情に戻ってしまいました。残念。

先生は1度羽ペンの動きを止めて、私を見ました。

「今の時期に、用もなくここに出入りをするのは感心しない」
「大丈夫です。アンブリッジ先生には見つかってませんよー」

私はさらっと答えて、以前のように教室の1番前に座ります。

落ち着いたと同時に一気に疲れが込み上げて来ました。
くたーっと机に伏せてぱたぱたと足を振るいました。

再び作業に戻るスネイプ先生。私はその姿を眺めながら頬杖をつきました。作業をするスネイプ先生の姿はいつ見ても飽きませんでした。

「先生、5年生って忙しいんですねぇ…。魔法薬学もそうでしたが、他の授業でもまだ初日なのに沢山宿題が出ました」
「『O・W・L(フクロウ)』の年は毎年そうだ」
「それに今日のDADAの授業は最悪でした。
 アンブリッジ先生は授業で呪文を唱えないって。使う必要がないって言うんですよ」

レポートを書いているスネイプ先生の手が止まりました。先生の視線が上がります。

「試験はどうすると?」
「理論を理解していれば、試験会場で呪文が成功しない訳はないそうです」
「……生徒を戦うことについて強化したくないのだ。
 魔法省は本気で、校長が魔法大臣の座を狙っていると思いのようですな」

騎士団としての情報交換もしながら、私はムスーと頬を膨らまします。

「それに、私のリーマスさんの事を「半獣」って呼んだんです。先生じゃなかったら『スコージファイ(清めよ)』ってやるところでした」
「罰則では済みませんな」
「退学になったら騎士団に篭ってるからいーですーっ」
「今、退学になればホグワーツの教師には到底なれませんぞ」

先生の言葉に私は振るっていた足をぴたりと止めました。

ゆっくり身を起こしてスネイプ先生をみます。
少しだけ首を傾げて先生を見つめました。

以前、ホグワーツの教師になるのもいい。と言っていたのを先生は覚えてくれていたのです。

「私はホグワーツの教師になれます?」

私の問いに先生は視線をあげることなく、いつもの声音で返しました。

「君がなろうと思うのならば」

疲れなんか忘れて、私はにっこりと微笑みました。とっても不安だった気持ちは既にどこかに放られたようでした。不思議です。
ニヤニヤとしている私をちらりとみたスネイプ先生が怪訝そうに私を見ていました。

「来たならば、ついでにバイアン草のエキスの搾りだしをしたまえ」
「あの、私、月長石のレポートをやる気で持ってきているんですけれど…」
「……ここで行うならば、30cmではなく1mに伸ばせますかな?」

容赦なく増やされた宿題に頬を膨らませていると「返事は? Ms.」とスネイプ先生の声がかけられてしまいました。

もう1度返事をしてから私は立ち上がって羊皮紙を取り出しました。


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