週末が訪れる頃には、誰も彼も疲れきっていました。

グリフィンドールのキーパー選抜は無事にロンに決まり、ハリーの罰則もやっと終わりました。
ちらりと見えるハリーの右手の甲には、なにやら赤いものが走っているような気もしましたが、今のハリーと私の距離では、それを深く問うことが出来ませんでした。

「今日も忙しそうだねぇ。リク」

誰もいない談話室で、私1人で騎士団からの手紙を読んでいると、ふいに、私の隣にリドルくんが座っていました。バッと慌てて周りを見る私。

「出てきちゃ駄目ですよ、リドルくん! 誰かが起きてきたらどうするんです?」
「別に。また日記に戻るだけさ。
 何か言われても「夢では?」の一言で片付く時間だろう?」

危機感ゼロのリドルくんが優雅に足を組みます。…暖炉の前のソファがよく似合いますね、貴方は。
私は頬をふくらませながらも、リドルくんが大人しく日記に戻ってくれる気もしながったので、諦めて手紙を読み直しました。

リドルくんが私の肩に頭を置くようにしつつ、横から私の手元をのぞき込みました。

「スタージス・ポドモア? 騎士団員じゃあなかったか?」
「はい…。ちょっと、大変なことになっているみたいです」

先日、騎士団員であるスタージス・ポドモアが魔法省の『最高機密の部屋』に入ろうとした所を見つかり、アズカバンに6ヶ月の収監となってしまったのです。
その知らせが、私の下まで届いていました。ちらりと覗き込んだリドルくんがにやにやと笑みを浮かべます。

「『最高機密の部屋』とは随分な書き方じゃあないか。任務の途中でしくじったか」
「………リドルくんにはこれ以上教えませーん」

リドルくんを信じていないわけではありませんが、ヴォルデモートさんにお話されても困りますし。

そんな私の考えはお見通しなのか、リドルくんはクスクスと笑ったまま私の肩で目を閉じました。

「僕はもうアレに協力しようとも、アレに何かを伝えるという気もない。
 まぁ、リクが言うなら仕方がないな。諦めよう」
「リドルくんが聡明でとっても助かりますよ」

ですが、私も手紙の内容を受けて、表情をしかめます。ポドモアさんがそんな失敗をするとは思えません。

確かハリーをキングス・グロス駅まで護衛する時にポドモアさんの姿は見えませんでした。

それからずっとポドモアさんの姿が見られていなかったとしたら?
魔法省はポドモアさんを騎士団のメンバーだと疑っていたのでしょうか。

手紙に書かれていたアーサーさんからの話では、近々アンブリッジ先生が高等尋問官?に任命されていると言いますし、発表がされると同時にホグワーツの教職員達に査察が入るでしょう。
あぁ、もう、騎士団の行動に魔法省の方が邪魔をするだなんて。魔法省もヴォルデモートさんが本当に復活したのだと信じてくだされば対応が変わると思うのですが…。

私は溜息をついて、読んでいた手紙に自分の名前を書き込むと、隣で蜷局を巻いていたフェインに持たせました。

フェインは3年前、バジリスクが通ったパイプの中を伝って、学校にいる騎士団の人達に手紙を渡す役割をしていました。
フクロウのように途中で捕まってしまうことはありませんし。フェインは本当に賢くていい子です。

「フェイン、これをマクゴナガル先生にお願いします。くれぐれもアンブリッジ先生には見つからないように」
「シャア」

短く返事をして、談話室を抜けていくフェイン。

去っていったフェインを見送ってから、私はもう1度溜息をつきます。こういう時、ヴォルデモートさん本人と話してみたくなりますねぇ。
でも「魔法省が信じてくれないんですよ!」ってヴォルデモートさんに言ってもどうしようもありませんけれど。

そんなことを考えながら、私はヴォルデモートさんと同じ存在である、リドルくんの肩に頭を凭れさせました。
微笑んだリドルくんは私を拒絶することはありませんでした。
それどころか、私の肩を改めて抱き寄せ、落ち着かせるように頭を撫でてくれました。

「うーん、寝ちゃいます…」
「眠ればいいさ。もう、夜なんだから」

心地よいリドルくんの声に、表情を和らげます。私はリドルくんの側で少しだけ眠ることにしました。

気が付いたときには寝室にいて、私は驚くと同時に、リドルくんの姿が誰にも見られなかったかどうか酷く心配になったのでした。


†††


「いつもありがとうございます」

私は『日刊予言者新聞』を運んできてくれた豆ふくろうにお礼を言いました。
新聞の一面大見出しとなっているその記事を見て、私は顔をしかめました。


魔法省、教育改革に乗り出す
ドローレス・アンブリッジ、初代高等尋問官に任命


はぁとついてしまった溜息を、傍にいたフェインが心配そうに見上げていました。
フェインの身体を撫でながら、私はサラッと記事を流し読みします。

そこには魔法省が新しい法令を出して、ホグワーツ改善のために強い統制力を与えたこと。
以前のDADAの教師であるムーディ先生やリーマスさん、そしてハグリッドさん達が危険な教師であったということなどが書かれていました。

リーマスさんの名前が書かれていたことに殺意すら抱きながら、私は新聞をたたんで鞄に詰めました。

これでアンブリッジ先生はこれから、ホグワーツの他の教師達を監視に入るのでしょう

朝ごはんを軽く食べて、私は立ち上がりました。今日も最後にはDADAの授業がありました。

「………リーマスさんに会いたいです」

小さく呟いてまた溜息を零した私。頭に登ったフェインが慰めるよう、私の頭を撫でてくれていました。


†††


そして、今日のDADAの授業も教科書を読むだけの授業でした。

私は既に教科書で隠すかのようにして、魔法薬学の教科書を出して読んでいました。絶対にこちらの方が役に立つと思いますし。

アンブリッジ先生がまた教科書を読むように指示した時、
またハーマイオニーが真っ直ぐに手を上げているのが見えました。
私はちらりとハリーの様子を見てから、静かにハーマイオニーを見ていました。

見るとハーマイオニーの前までアンブリッジ先生が寄り、他の生徒には聞こえないように小さな声で会話をしているようでした。
ですが、ハーマイオニーの声ははっきりとした通る声でしたので、今やクラス中が注目していました。

教科書を全て読んでしまったというハーマイオニーに、アンブリッジ先生は質問を投げかけます。

「それではスリンクハードが第十五章で逆呪いについてなんと書いてあるか言えるでしょうね」
「著者は、逆呪いという名前は正確ではないと述べています。著者は、逆呪いというのは自分自身がかけた呪いを受け入れやすくするためにそう呼んでいるだけだと書いています」

私はつい、ハーマイオニーが答えた章がある部分を開いていました。
そこにはハーマイオニーが答えてものと同じものが記載されています。流石はハーマイオニーですね。

アンブリッジ先生も感心してしまったのか、まゆが上がりました。そこで、ハーマイオニーが続けました。

「ですが、私はそう思いません。私は防衛のために使えば、呪いはとても役に立つ可能性があると思います」

アンブリッジ先生は既に囁くことを忘れているようでした。

「あなたはそう思うわけ? ですが、残念ながらこの授業で大切なのはあなたの意見ではなくて、スリンクハード先生のご意見です」
「でも」
「もう結構。Ms.グレジャー。グリフィンドールから5点減点」

ハーマイオニーが減点させられてしまうところなど初めて見ました。とたんに騒然となるクラス。ハリーが怒って立ち上がりました。

「理由は?」
「埒もない事で私の授業を中断し、乱したからです。
私は魔法省の指導要領で教えるために来ています。ほとんどわかりもしないことに関して自分の意見を述べさせることは要領に入っていません。
これまでこの学科を教えた先生方は好き勝手にやらせていましたが、年齢に相応しい教材だけを教えようと自己犠牲をしていたクィレル先生以外は、魔法省の査察をパスした先生はいなかったでしょう」
「ああ、クィレル先生は素晴らしい先生でしたとも!
ただ、ちょっとだけ欠点があって、ヴォルデモート卿が後頭部から飛び出していたけども」

ハリーの切り返しに教室が一気にしんと沈まりました。そしてやがて、

「あなたにはもう1週間罰則を科した方がよさそうね。Mr.ポッター」

滑らかに言い放ったアンブリッジ先生に、私は思わずガタンと立ち上がりました。一気に集まる視線。

にやーっと笑うアンブリッジ先生が私を見ていました。

「どうしましたか? Ms.ルーピン」
「…………いえ、アンブリッジ先生に言うことは、何もありません」

ただ底冷えするような瞳を向けてから、私はまたゆっくりと静かに席につきました。

今はまだ、まだ、反論しても、潰されるだけです。

反撃はまだまだ、あと。


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