クリスマスの朝になって、私はリーマスさんの身体に顔を埋めながら、欠伸を零しました。
私のベッドの横にはクリスマスプレゼントが積み上げられていました。私の表情が緩みます。

もごもごとベッドの上で身を起こし、未だ眠っているリーマスさんの肩を揺すりました。

「リーマスさーん、メリークリスマスですよー」

リーマスさんから何かくぐもった声が聞こえ、リーマスさんが少し目を開いて私を確認し、頭を優しく撫でたあと、また眠たそうに瞳を閉じてしまいました。
私は苦笑を零して、リーマスさんのその腕から出て、冷たい床に足をおろしました。

鞄を持ち、フェインを肩に乗せ、屋敷の中を歩いていて、誰もいない部屋を見つけて、入っていきました。
そして鞄の中から黒い日記と羽ペンを取り出しました。返事はすぐに帰ってきました。

「メリークリスマス、リドルくん」
『メリークリスマス。今は人がいないのかい?』
「はい。あ、でも出てきちゃ駄目ですよ?」
『本当に君はそればかりだな。さすがに僕も騎士団本部の中で実体化しようとは思わない』

私は日記に浮かび上がる文字を見て、笑みを浮かべます。不服そうなリドルくんが目に浮かんだからです。

『今日の予定は?』
「朝食を取ったらアーサーさんの所に行ってきます。大分調子も良くなってきているそうですから」
『ナギニに噛まれたのに、丈夫だねぇ』
「本当に無事でよかったです…」
『………ほら、もう、行きなよ』

黒い、達筆な文字が浮かび上がり、そして、日記は元の白紙に戻りました。私は表情を和らげながら、日記を鞄の中に戻します。

そして朝食を取り、アーサーさんのお見舞いに行くために準備をした私達は、マンダンガスさんが「借りて」きた車に乗って、聖マンゴの入口に辿り付きました。
私はリーマスさんと手を繋ぎながら、アーサーさんの病室に顔を出します。アーサーさんはクリスマスの七面鳥を食べていたところでした。

「あなた、お加減はいかがです?」
「あぁ、とてもいい」

アーサーさんはにっこりと微笑みましたが、モリーさんはアーサーさんが巻いている包帯が新しいものになっているのに気がつき、表情を険しくさせました。

「アーサー。1日早く包帯を変えたのはどうしてなの? 明日までは買える必要がないって聞いていましたよ」
「えっ? いや、その…なんでもない、私は、ただ――」

しどろもどろになるアーサーさんが、やがて白状するように話し始めました。主治医と話し合ってマグルの方法である『縫合』をしてみたのだと。

「これが非常に効果があるんだよ。…マグルの傷には…」

モリーさんが悲鳴とも唸り声ともつかない声を出しました。

リーマスさんがゆっくりと立ち上がって私の手を引き、アーサーさんと同室の病室を使っている、1番隅の方の入院患者さんの元に歩いて行きました。
首を傾げる私が振り返ると、ビルさんも「お茶を飲みに行ってくる」と行って、席を外し、ジョージ先輩、フレッド先輩も病室から離れていきます。

モリーさんは徐々にみんなが避難しているのには気がついていないようで、アーサーさんを問いただす声が一語一語大きくなっていました。

苦笑を零すリーマスさんが、私の頭をゆっくりと撫でます。
私は改めて、逃げ込んだ患者さんにぺこりと頭を下げました。リーマスさんも同じくぺこりと頭を下げます。

その患者さんは側に来た私達を見て、とっても不機嫌そうでした。顔を包帯でぐるぐる巻きにしたその男の人は何も言わずに私達を一瞥するだけでした。
リーマスさんが話し出します。

「失礼。初めまして。リーマス・ルーピンと申します。 
 アーサーから少し話を聞いておりまして…。狼人間に噛まれた、と」

リーマスさんの言葉を聞いて、私は改めて、目の前の男の人を見つめました。男の人は機嫌が悪そうに低く唸りました。

「余計なお世話だ。黙らないと噛み付くぞ」
「私も、狼人間です」

リーマスさんがそう言うと、男の人は驚いたようにじとと私達を見ました。リーマスさんは微笑みを浮かべていました。

「子供の頃に、噛まれてね。それ以来ずっと悩まされている。でも」

微笑みを浮かべたリーマスさんが私の頭を撫でながら、男の人を見ていました。

「この子は私の娘のリクです。他にも素晴らしき友人がいる。
 貴方に考えを押し付けるつもりはないし、狼人間であることが不利益になるということも重々承知しています。
 ですが、それでも。同じ病気を持つ者として、貴方も普通の生活を送るべきだと思います」

そう、説得するように男の人に言ったリーマスさん。男の人は困惑するように視線を彷徨わせたあと、今度は私を見ました。

「父親が狼人間だぞ…? 怖いと思ったことはないのか?」
「私はリーマスさんが大好きですから」

照れたようにはにかむと、隣にいたリーマスさんが幸せそうに微笑みを浮かべてくれました。私はリーマスさんのその傷だらけの手を握っていました。
男の人はそんな私達をしげしげと眺めたあと、ほんの僅かに微笑みを零しました。

「……羨ましい限りだよ。…よく、検討してみる」
「はい…! ありがとうございます」

私が思わず立ち上がって、頭を下げます。すると、リーマスさんとその男の人が顔を見合わせて、クスクスと笑みを零し、顔を真っ赤にした私はまた席につきました。


†††


クリスマスが終わり、ホグワーツに戻らなくてはいけない日が近づくにつれ、シリウスはまたどんよりと重い空気を零していました。
バックビークの部屋にこもることが多くなったシリウス。リーマスさんもこればかりは苦笑を零していました。

私達もホグワーツに戻ればアンブリッジ先生の圧政が待っています。試験もどんどん近づいて来ていますし。

「憂鬱です」

休暇の最後の日に、厨房で溜め息をつく私。隣に座ったリーマスさんが、困惑した表情を浮かべつつ、私の肩を抱き寄せました。

「……ごめんね。手助けが出来なくって」
「リーマスさんのせいじゃありませんよ!」

アンブリッジ先生のせいですもん。そう言い切った私を、リーマスさんはぎゅうと抱きしめます。

その時、玄関の方から誰かが入ってくる音がしました。
玄関のベルを鳴らすと、シリウスのお母様の肖像画が起きてしまうので、玄関ノベルは鳴らさないように言ってあるのです。

私はリーマスさんの腕を離れ、すくっと立ち上がり、微笑みを浮かべました。

「どなたでしょう。お出迎えに行きますね」
「うん。いってらっしゃい」

ココアに手を伸ばしていたリーマスさんを横目に、私は玄関に向かっていきました。玄関には黒い人影。私は目を丸くしました。


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