隠れ穴の暖炉に出て、暖炉の灰でごほごほと咳をしていると、駆け寄ってきた笑顔のモリーさんに迎えられました。
「お邪魔します、モリーさん」
「こんにちは、リク! あら? リーマスは?」
私は部屋にはモリーさんとアーサーさん、それにビルさんしかないことをちらりと確認して、控えめに話し出しました。
「あの…闇の印が上がったみたいで…」
「なんだって? どこで?」
新聞を読んでいたアーサーさんが慌てて視線をあげます。ビルさんとモリーさんも険しい顔になりました。私はフェインを撫でながら言葉を零します。
「ムーディ先生が言うには北の方にある小屋ということでしたが…、誰が犠牲になってしまったのかまではわかりません。
今、リーマスさんとムーディ先生、あと、シャックルボルトさんが向かっているみたいです。
私は、リーマスさんに止められてしまって」
「その方がいいわ」
モリーさんが優しく私の髪を撫でてくださいました。安心するその手に表情を和らげます。
暫く、私を撫でてくれていたモリーさんが明るい声を出しました。
「さぁ、リーマス達は後から来るでしょうから、今はパーティの準備を進めましょう。これからバースデーケーキを焼こうと思うの。
リクはお菓子作りが得意だったでしょう? 手伝ってくれる?」
「…はい!」
私も笑顔を浮かべて、モリーさんのあとを追いかけて奥のキッチンに向かいます。キッチンにはなんと、フラー・デラクールさんがいました。
「デラクールさん?」
「リク? おひさしぶーりでーすね!」
相も変わらずの美貌を輝かせているデラクールさんがにっこりと微笑みを浮かべました。何故かモリーさんが表情をしかめています。
私は驚きつつ、4年生時にあった三校対抗試合以来、久しぶりに見るデラクールさんに笑みを向けました。
「でも、どうしてデラクールさんがここに?」
「わたし、ビルと結婚しまーす!」
「わぁ、そうだったんですか! 素敵ですねぇ。おめでとうございます」
美しいデラクールさんと、格好いいビルさんが並ぶだなんて。美男美女が並ぶのを見ることが出来るんですね。
私はにこにこと微笑みながら、何故か不機嫌になってしまったモリーさんのお手伝いをします。
それでは、モリーさんとデラクールさんは姑さんとお嫁さんの関係になるのでしょうか。
雰囲気から察するにモリーさんはデラクールさんがあまり得意な訳ではなさそうです。
でも結婚は素晴らしいことだと思います!
私もいつか誰かと結婚するのでしょうか?
……うーん。全く想像が出来ません。
デラクールさんとお話をしながらケーキを焼いていると、暫くして、外でクィディッチをしていたらしきハリー達が帰って来ました。その時には、隠れ穴中にケーキの甘い匂いが漂っていました。
箒を持ったままのハリーが私の姿を見て、驚いた表情をしました。私ははにかみを浮かべます。
「お誕生日おめでとうございます、ハリー」
「……ありがとう。リク。
リクも来ていたなら、一緒にクィディッチしたら良かったのに」
「ほら。私は箒に乗るのが得意ではありませんから」
4年生の墓場で起こった事が原因で、今まで私達はちゃんとした会話をしていませんでした。
今、ハリーとちゃんとお話しているのが随分久しぶりなことな気がします。去年も、なんだかんだ言ってあまりお話しませんでしたもんね。
「あのさ、リク、」
箒を握ったハリーが私を見ながら、随分と悩んでいる表情をしました。私はハリーの言葉を待ちます。
ハリーと一緒に居たはずのロンやハーマイオニー、ジニーちゃんはいつの間にか側にいませんでした。
ハリーは言葉を零します。
「この前、シリウスの様子を見に行ったんだ」
「……………はい」
聖マンゴのあの白い病院で、シリウスは変わらず眠ったままでした。
いつ目覚めるのかもわからない状態だという話を私達は慰者から聞いていました。
一緒に住んでいるマグルさん達からの扱いもあり、ハリーは誰よりも名付け親であるシリウスを誰よりも慕っていました。
「シリウスが大人しくただ寝ているだけだなんて、なんか変だった」
「シリウスにはどうしようもなく白が似合わないんですね」
「みたいだね」
ハリーはそこで1度言葉を区切りました。私は次の言葉を想像して、少し怖くなって身構えます。シリウスを救えなかったのは、私なのですから。
でも、ハリーは少し寂しそうに、でもにっこりと笑顔を浮かべました。
「……ありがとう、ね。リク。
僕達を助けてくれて」
「え?」
「あの時、リクは僕達を助けてくれた。
リクが来てくれなかったら、僕達の誰かが死んでいたかもしれない…。シリウスも、あのまま死んでしまったかもしれない。
だから、ありがとう。僕、ずっと、言いたかったんだ。でも…言えなくて」
「…………ちゃんと、救えなかったのに…?」
私の声は不安で、か細く微かに震えていました。
「私は、シリウスを、救えたとは思っていません」
目覚めないシリウスを私は良しとは思っていませんでした。本当ならば、シリウスをちゃんと助けるはずだったのですから。
いつの間にか俯いていた私はハリーを見上げました。そして気がつきます。成長期のハリーと私とはどんどん身長差が開いていたのです。今までは対して差がなかったというのに、いつの間にか。
私は静かにハリーを見上げます。
「ハリー。ハリーはハリーが思うように行動してください。これからも、ずっと迷わないでください。
ハリーにはロンやハーマイオニーがいます。仲間を信じて」
「リクは?」
「私も…、私がしたいようにします。もしかしたら…、ハリーの行動を邪魔してしまうかもしれません。
でも、私はいつだってハリーやみんなの安全を願っています、から」
そう言い切ると、私はハリーにぺこりと頭を下げて、ハリーの元から離れます。
ハリーがまだ何か言いたそうに声を零しましたが、私はキッチンからパーティー用のお皿を持ってくるためにその場から離れました。
私は未来を変えようと思っています。それは1年生の時から変わりありません。
ですが、1年生の時から変わってしまったものもあります。
私はあの闇の帝王であるヴォルデモートさんと友人になったのです。
私は友人であるハリーも、同じく友人であるヴォルデモートさんも、どちらもとっても大切な人だったのです。
どちらも、失いたくはないのです。
それが例え綺麗事だとしても。