【巻き込まれてみました】(ハートの海賊団)

小さめの身長。よく、危なっかしいと言われているマリア。

高めの身長。クールビューティといった感じのサヤ。

それはトリップ。だと思う。
気付いたら彼女達は海賊船の目の前で呆然としていた。

本当、何事もなく船に乗せて貰いよかったとマリアは思う。

『ハートの海賊団』。これが彼女達が乗った海賊団。

最近ではこの海賊団にもかなり馴染み、戦力外でありながらも2人はハートの一味雑用として、活躍を見せていた。

ハートの海賊団、船長のトラファルガー・ローがマリアに淡い片思い中であるというのも、一部のクルー間では当たり前となっていた。


†††


陽射しは強く輝いている。

甲板にいたマリアはその陽射しの中を飛んできたニュース、クーから新聞を受け取り、代わりに数ベリーを渡した。

その中にはチラシのように手配書が何枚か入っている。

マリアはこの手配書を集めるのが好きだった。

以前からいる顔ぶれのうち、懸賞金が上がっているものだけを抜き取り、手配書を纏める。
そして丁度、1番上に乗った手配書をぎゅうと握りしめていた。

「マリア! どーかしたー?」

マリアの後ろから手元を覗き込んだのは親友のサヤだ。
2人お揃いのつなぎに身を包んでいる。

マリアは少し照れ臭そうに笑いながら手元の手配書をサヤに見せた。

そこには『DEAD OR ALIVE』『KILLER 126,000,000ベリー』の文字と、青い仮面を被った男の写真が写っていた。

「きらー? キッド海賊団…、
 こいつがどうした訳?」

覗き込むサヤに、マリアは少しばかり赤い顔で答える。

「えへへ…。この人格好良くない?」
「はぁ? 何? 顔? いやでも顔ってゆーか仮面?」

げんなりとした表情を向けるサヤだが、マリアには対して聞こえていないようだ。

「会った事ないけど、きっとこの人凄くイケメンさんだよ! 写真でもわかる!
 実をいうと前から好き」

トリップとかいう現象を引き起こした2人。
マリアは前々から、原作のONE PIECEでもキラーが好きだった。

そんなのわからないサヤは仮面を不思議そうに見ていた。

「うーん、イケメンってゆーか仮面だってば…。
 というか、マリア、あんまりキャプテンの前で誰が格好いいとか言っちゃ駄目だかんね?
 膨れて大変なんだか―――」
「あ、きゃぷてん!」
「うげ、タイミング悪ッ」

マリアがぱぁと笑顔を向けるのはこの船の船長であるローだ。
幾分、話が聞こえていたのか、些か膨れているように見える。

サヤの手から手配書を奪い取り、睨みつけていた。

「……こいつはユータス屋の…」
「うわ。何気ない殺気。怖ぇ…」
「きゃぷてん、具合悪いんですか?」
「別に。
 マリア、珈琲」

ふい。と背を向け、マリアに珈琲を頼むローは心底、機嫌が悪そうだ。
サヤははぁと溜め息をついて、自身の親友の鈍感さに呆れていた。

走り去るマリアの背中を見送り、サヤはローを見た。

「すっかりマリアは珈琲係じゃない」
「美味いからな」
「本人にもそう伝えられたらいーのにねーッ」
「うるさい」

その時、見張り台に立っていた船員が声を上げた。

また新しい島が見えたようだ。

珈琲を煎れて戻ってきたマリアもワクワクとローの顔を見る。

「きゃぷてん! 私、新しい髪留めが欲しいんです。サヤと一緒に選びに行ってもいいですか?」

少し伸びてきた前髪に触れ、ローに頼むマリア。
だが、その横でサヤが「あ」と思い出したように声を上げた。

「ごめんマリア! 今日用事あるからキャプテンと買い物行って欲しいな〜」
「サヤ、お前――」

口を開くローを半ば無理矢理黙らせながら、サヤはニヤリとマリアを見た。

マリアは首を傾げつつも嬉しそうにコクンと頷いていた。

「きゃぷてんは大丈夫ですか…?」
「……まぁ、暇だからな」
「暇にしたんでしょうけど」
「"ROOM"…」
「すぐシャンブルスするの反対!!」

きゃーきゃーとサークルから逃げるサヤに流石に苦笑を零すマリア。

だがすぐに笑顔になり「準備してきます!」と自室へと走ろうとするのをローが止めた。

「ついでに着替えてこい。つなぎ以外に、だ」
「? どうしました?」
「この島には海軍もいる。そのつなぎじゃあ目立つだろ」

億越えルーキーの方が目立つ気がするのだが、サヤは黙っておく。
マリアは自分のつなぎを見て可愛く頬を膨らませていた。

「つなぎ…好きなのにー…」
「せめてパーカーか何か羽織ってこい」
「そーしまーす」

すちゃっと片手を上げるマリア。
その楽しそうな姿にローの口元が微かに上がる。

サヤがまた口を開きかけたが、これ以上は本当にバラされそうなので黙っておくこととした。


†††


「………迷子った」

マリアは早速ローとはぐれていた。

つい先程まで側にいたローがいつのまにかいない。
マリアはふぅと溜め息を零した。

「…なんかベタだなぁ…。海軍さんには会わないようにしないと…」
「海賊だー!!」
「まじか」

マリアはびくりと肩を震わせた。
物影に隠れ、自身のハートの海賊団の海賊旗が描かれたつなぎをパーカーで隠す。

隠れたには隠れたが、どうやら騒ぎは違う場所からの様だ。

海軍達は物影に隠れたマリアには気付かず、通りすぎていく。
聞き耳を立てていると、かなり近い場所のようだ。
海軍の怒声が聞こえる。

「…!! 億越えルーキーか!!」
「必ず捕えろー!!」
「……もしかしてキャプテン!?」

海軍は続々と何処かへ向かっている。
マリアは不安になり、物影から飛び出し、海軍を見ながらも騒ぎに近付いて行った。

もう少し。という所で対向から人が飛び出し、マリアに体当たりしかけた。

「きゃっ!?」
「ッ! 邪魔だ、どけっ」

その男は固まったマリアを避けようとしたが、後ろから海軍が追いかけてきて、銃弾を打ち込んできた。

「ちっ。……てめぇらぁ!! こいつが見えねぇか!?」
「ぇ? え? へ?」

あれよあれよいつのまにか男の腕に捕まるマリア。
ぱちくりと大きな目をしばたき、自身を捕まえた男を見た。

赤い髪。額にはゴーグルのようなもの。上半身は裸でもこもことしたコートを羽織っていた。
マリアはその顔に見覚えがあり、小さく呟く。

「ユースタス…きゃぷてん…キッド…?」
「あ? 俺を知ってんのか?」

ローと同じ億越えのルーキー、3億のユースタス"キャプテン"キッドが、マリアを捕まえていた。

「あ、い、いえ。ん、んと手配書見てましたから」

海賊に捕まり人質役になる海賊。
マリアは大丈夫かなぁと不安げに海軍を見ていたが、海軍達は動けずにいた。

「わ、私って…」

海賊っぽくないのかしら…。

泣き出しそうなマリアだが、それが余計に人質に見えるのだろう。
がっくし肩を落とすマリアはじーっとキッドの様子を伺っていた。

(…リアルで見ると格好いいかも)

漫画で見ると閣下なのにね。

(それに……)
「マリア!!」

声と共に、海軍の一部がサークル内に入った。
マリアはぱぁと顔を輝かせ、キッドの腕の中からぶんぶんと腕を振る。

「きゃぷてーんっ」

騒ぎを聞き付けたローがマリア達の側まで来ていた。

キッドの隣に立つローからは滲み出る殺気。
マリアがキッドの腕の中にいるのが余程不満らしい。

「あぁ? てめぇ、何でいやがる」
「こっちの台詞だ。マリアを返せ」
「人質離しちゃ意味ねーだろ」
「人質? 海賊をか?」

鼻で笑うロー。キッドはマリアを見下ろした。
マリアは苦笑を零しながらパーカーの隙間から、ハートの海賊旗を見せた。

「私も海賊でしたっ」
「う、打てー!!」

海軍もやっと気付いたようだ。

キッドやロー達に銃弾を打ち込み始める。
億越え2人はものともしていなかったが、マリアは流石に悲鳴を上げつづける。

というか億越え2人はマリアを置いて口論中。

「ユースタス屋、それはうちの船員だぞ離しやがれ」
「はっ。俺ぁこいつが気に入った。持って帰る」
「はぁ!?」
「海賊は欲しいもんは奪う。当たり前だろ?」

キッドの言葉にローの何かが切れる音をマリアだけは確かに聞いた。

「マリアを奪うたぁいい度胸だなぁ…ッ」
「随分とこいつに執着してるじゃねぇか、トラファルガー?」
「黙りやがれ、ユースタス屋」

走りながら言い争いする億越え達。
マリアはぽかんとキッドに抱えられたままだ。

「あれ。海軍が走ってる」
「………というか、あれはうちのとこのキッドなのだが」
「あー、あたしのマリアと阿保なキャプテンもいるわー」

路地から呑気にサヤと、何故かキラーの姿が並んで出て来た。
船長達が走るのに混ざる部下達。

マリアが目を丸くしてサヤを見ていた。

「マリア!? 何で、えとキラーさんといるの…!?」
「いや、そこで会ったからマリアに持っていってあげようと思って」
「いや俺は物ではない」
「いやいやそこは十八番の『違いない』って言ってよ」

仲よさ気な2人にマリアが頬を膨らます。
ムッとしたローも頬を膨らます。

「……キッド、それはどうした?」
「そこで拾った」
「飼うならキッドが面倒を見ろよ」
「ちょっと、私は犬猫じゃありませんよ!?」

野良を拾ったかのような会話にマリアも抗議。
そのマリアの近くにも弾丸が打ち込まれた。ローの苛々がいつの間にかMAX。

「"ROOM" シャンブルス!!」
「おぉー流石キャプテン」

サヤの感嘆も走り流れ、後ろの方では海軍の悲鳴が響いていた。


†††


海軍を振り払い、落ち着いた海岸で、落ち着かない船長2人が未だにマリアを抱えて言い争っていた。

既にサヤ、キラーは蚊帳の外。呑気に言い争いを聞いていた。

サヤが時々、眉をひそめる。

「……うーん。もしかしなくても、そうかな…?」
「どうした」
「やー、こっちの話」

キッドに抱えられたままのマリアは仄かに頬を染めながら、キッドやローを見比べていた。

「……そうだ。てめぇ、マリアっていうのか」

思い出したかのように腕のマリアに向くキッド。
てか、名前すら知らなかったのですか?

マリアは余計に顔を深紅に染めて何度も頷いた。

「ふゃっ!? は、はい!! マリアです」
「……あいつ、何であんなに顔赤いんだ。…腹立つ」
「………あ、わかった」

サヤが核心を持って呟く。
嫌な予感がローを包む。が、無視。

「ねー、マリア!
 あのチューリップ頭ってもしかしてcv浪川でしょ」
「…!! サヤ!! サヤたんま!!」
「ナミカワって誰だ」
「マリアの好きな声」
「サヤたんまぁぁー!!」

真っ赤で涙目のマリアに、キッドはニヤニヤとマリアの耳元に口を寄せた。

「この声が好きなのか? …マリア?」
「………あぅ……!(照)」
「あ、マリア、落ちた」
「落ちてねぇよ!!」

ローがサヤにまぢ切れ。うわぁ大人気ない。

サヤはキラーとキッドを見ながら、腹立つ感じの笑顔でローに寄る。

「あーあ、マリアにとってはいい声の人いるし、キラーって人見てたし、ボイス的にもフェイス的にもキャプテン負けてるよー!?」
「あぁもうサヤが黙れ!」

柄にもなく怒鳴るローにキッドはにやにや。
本気でマリアが気に入っているのか何なのか、耳元に口を寄せたまま、もう1度囁いた。

「てめぇなら俺の船に歓迎してやるよ。なぁマリア?」
「……うー」

真っ赤なマリア。微かに不安そうなローをサヤがちらりと横目で見る。

全ての視線を受けながら、マリアはふるふると静かに首を振った。

「私…、私はハートの海賊団ですよっ! キッドさんの船には乗れません…!」

マリアのはっきりとした言葉に、ローの不安は拭い去られ、微笑みを浮かべた。
逆に不満そうなキッドがマリアに問う。

「んでだよ。あっちより俺の船の方がいいだろーよ」
「うう…だって、あの、キッドさん所にはサヤがいないですもん…。
 サヤがいなきゃやだ」
「……ん、それって」

サヤ>>(越えられない壁)>>>ロー

「って事か」
「…!!」
「違いない」
「……!!」

ローに突き刺さる何か2本の刺。
空気の読まないサヤが、キッドに抱えられたマリアに呟きかけた。

「……あたしがそのチューリップの所行ったらマリアは行くの?」
「え、あ、い、いかないよ!? 私はハートの海賊団!」
「うわー、どもっちゃダメだわー」
「……"ROOM"シャンブルス」

最初からこうすりゃよかった。とローが呟きながら、サークルが出現する。
キッドがばっと離れるものの、マリアだけがいつの間にか、ローが握った小石と場所を交換されていた。

キッドが膨れている。
また、今度はローに抱えられる事になったマリアが顔を染める。

「た、ただいまです、きゃぷてん! 降ろして下さい…! 重いですよ!?」
「黙れ」
ローがキッドを睨み殺す勢いで、殺気だっている。
マリアはしょぼんとしながらも成り行きを見ている。

「こいつは俺んだ。てめぇの出る幕はねぇよ、ユースタス屋」
「……はっ、どうかな。
 帰るぞ、キラー」
「あぁ」
「またねキラー」
「あぁ。サヤ」

気が合ったのか、サヤはキラーに手を振る。
キッド海賊団、トップ2人が立ち去るのをそれぞれの感情で見送った。

ローは未だマリア抱えたままだ。
はっとしたマリアがローの肩を叩く。

「きゃ、きゃぷてーんっ、降ろして下さいー重いですよね!? すみません…!!」

抱えられたままのマリアがローへと訴えかけるが、彼は完全に無視を決め込んでいる。

じたばたと暴れていたマリアが諦めたかのように動きをぴたんと止めた。

サヤも担がれたマリアの足を叩きながら苦笑を零した。

「暫くそーしてなさいよ、マリア」
「うー…、降ろして下さいきゃぷてん…」

些か恥ずかしさもあるのだろう。
繰り返すマリアにローがやっと小さく呟き返した。

「……降ろさせねぇからな。俺の船からは」
「船からは降りませんって!」
「まだ言ってたの!?」

ローの固執さにサヤは呆れ気味だ。
怒っているようなローにマリアがぷぅと囁きかけた。

「だって」

恥ずかしそうに、だがはっきりと言った。

「だって、きゃぷてんを海賊王にするって約束したじゃないですか!」
「!」
「あ、キャプテン顔がファイヤー」
「……"ROOM"」
「ごめんなさいごめんなさい見てないですからどうぞ2人の世界へ」
「シャンブルス」
「サヤー!?」

予想を裏切らずバラバラにされるサヤに、マリアは涙目。
ローはサヤをバラバラにしたままで、にやと笑った。

(取られたくないし、離したくないし、こいつの言葉に一喜一憂させられる。
 本当…、調子が狂う)

抱えたマリアを1度だけ抱えなおし、抱き寄せる。
マリアは首を傾げながらも、照れ臭そうにローの肩に顔を埋めた。

ローとマリアが小さく、お互いに聞こえないくらいに小さく呟いていた。

(そばにいられてよかった)


(好き知らず)

マリアのポケットの中に何時の間にかキッドの船につながる電々虫が入っており、それをローが叩き壊していたのは、のちのベポの話で知ったサヤだった。


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