【Love your enemies】(アイアンハイド)(TF主)(サイバトロン星)

槍状の、この武器は私の手によく馴染んでいる。

それもそうだ。何年も、何百年も、何千年も何万年も。私と共に戦ってきた優秀なる武器だ。私と共に数々のオートボットの連中を屠ってきた。

だから、コイツのスパークも早く貫いてしまえ。

私は目の前で対峙している黒いボディカラーのオートボット技術兵を殺り損ねていた。
彼の名はアイアンハイド。
私の、憎き、忌々しい敵。幾千年も対峙する度に火花を散らす、宿敵。

吠えたのはアイアンハイドが先だった。

「今日こそお前を鉄屑に変えてやる!」
「やれるものならばやってみろ」

アイアンハイドの両腕についたキャノン砲が私に向いた。弾が発射される前に私は後方に飛び上がり、回避。一瞬前まで私がいたところには大穴が出来上がる。
飛び上がった私は柄を長く持ち、穂先を相手に向けて払う。アイアンハイドの肩のボディパーツに刃が当たったが、刃は不愉快な音を立てて火花を散らして流れるだけだった。
私の舌打ちとアイアンハイドの憎々しい笑み。
私の着地点を狙ってアイアンハイドがその重たいボディで突進してくる。私は空中で身を翻し、地面に槍をついて着地点を伸ばす。ボディを掠めはしたが致命傷には至らない。

互いに踏み込みが足りないと判断した私とアイアンハイドは1歩踏み込み合う。

私達の実力はほぼ互角。さすがにボディは女性体の私の方が一回り小さいが、その分瞬発力は私の方が上だ。
重たい攻撃では私を捉えることは難しい。対して、私の攻撃ではその重たいボディに致命傷を与えるのには時間がかかる。
互いのボディに細やかな傷がついていくが、どちらもスパークに届くことはない。決定打はまだまだ無い。

柄の中程を握り締めた私と、再びキャノン砲を構えるアイアンハイド。
一気に縮まった距離にアイアンハイドの青い瞳と、私の赤い瞳が映り合い、時折紫が視界の端でチラつく。混ざり合うことのないはずの瞳が交差する。

コイツと戦っていると今この場には私達しかいないような錯覚に陥る。

実際には私達の周りには数々の我らがディセプティコンと、憎きオートボットがいるハズなのに、殺し合う音が響きあうというのに、周りの音が消え、視界には黒いボディと青い瞳しか映らなくなる。

世界はここだけで完結する。そして今日こそ、この世界を屠る。この高揚を。こいつを先に破壊するのは私だ。

突然、私達とは全く関係ないところで爆発音が鳴り響いた。
無粋なその音は私達の戦いにまで侵入してくる。

揺れ動いた地面に互いに一瞬の隙が生まれた。
先に動いたのは私の方が先だった。

瞬時に構え直した槍がアイアンハイドの左腕を貫く。中の配線コードが露出した。
だが、アイアンハイドもただではくたばってはくれない。
私とほぼ同時にその左のキャノン砲から放たれた弾が私の右腕を貫いていった。粉砕したボディパーツが飛び散る。

怯んだ私のすぐ真横に拳が落ちてくる。私は負傷した右腕を確認する前に、左腕をついてアイアンハイドから距離を置く。
そう簡単に距離をあけさせてはくれないが、俊敏性は私の方が優れている。

体制を立て直すためには十分な距離をあけて、アイアンハイドを睨みつける。
と、その時、ガシャンと耳障りな音を立てて右腕が落ちる。右腕を動かしていた神経回路が焼き切れたのだ。

私の口から短い悪態。

アイアンハイドの左腕にも私が空けた風穴が空いているが、相手の方はまだ両腕が起動するようだ。丈夫な奴だ。忌々しい。

このままでは私のスパークがアイアンハイドに破壊されてしまう。それだけは避けたい。
いつか散るスパークだとしても、コイツにだけは渡さない。私のスパークは崇高なるメガトロン様だけのものなのだから。

動かなくなった右腕を下げたまま、片手で愛槍を構える。アイアンハイドも既に両腕のキャノン砲を構え直していた。
短く息を整え、相手の気配を感じ取る。視界にはアイアンハイドのカメラアイの青。

勝負は一瞬。片腕がガラクタになった私の方が圧倒的に不利。失敗は許されない。

「マリア、一時撤退だ」

だが、私達の勝負を引き裂いたのは、私が崇拝するメガトロン様の声だった。

私とアイアンハイドの間に降り立ったその銀色のボディに私は恐縮する。

メガトロン様の白銀のボディは私なんかよりも何倍も大きく、私の姿はメガトロン様の影に隠れてしまう。
メガトロン様はアイアンハイドにキャノン砲の銃口を突きつけたまま、私の動かない右腕を掴んだ。
痛覚回路は既に切ってあるが、その失態を隠したくなって、つい身を縮めてしまう。

「メガトロン様…」
「メガトロン…!!」

口汚いアイアンハイドがメガトロン様を睨みつける。本当に忌々しい存在だ。思わず牙をむくが、私の動きはメガトロン様に止められてしまう。
メガトロン様は素早く変形し、飛行形態に移る。私も飛行形態に移ろうとしたが、右腕の違和感に変形が遅れる。

その数瞬の間すらも許されない。メガトロン様の腕が小さな私のボディを捉えた。メガトロン様の機体に抱えられ、飛び上がる。
私達の真横を弾が飛んでいくが、それら全ては当たることなく、メガトロン様は私を連れ、遥か上空に飛び去る。
遠く地面でアイアンハイドの声が響いていた。

「ッ、待て!! 逃げるな…! マリア――!!!」
「戦いはお預けよ。アイアンハイド」

私は小さく呟く。アイアンハイドに届くことはないだろうが、実際に私が次に対峙するまでアイアンハイドのスパークが消えることはないだろう。アイアンハイドとまともに戦えるディセプティコンは限られているのだから。
アイツのスパークを消し去るのは私しかいないのだ。私しか。

少し飛んだところで、メガトロン様が再び形態を変える。私は片膝をついて深々と頭を下げた。
失態を見られてしまった。身体中のオイル圧が下がるような思いがした。

「申し訳ございません。あのオートボットを屠り損ねてしまいました」
「腕を見せてみろ。痛覚回路も戻せ」

メガトロン様の声は酷く優しく聞こえる。私は恐縮しながら左腕で支えながら、ガラクタとなった右腕を抱え上げる。彼の言う通り、痛覚回路は戻してある。全身に響くような痛みを堪え、私は同じ赤い瞳を見つめていた。
じっくりと腕を観察したあと、メガトロン様が私の顔の下に指を入れて、顔を上げさせる。

メガトロン様の美しい瞳を見つめていると、メガトロン様は私の顔を見つめたまま言葉を零した。

「貴様はディセプティコンだ。理解しているな?」
「もちろんです。メガトロン様」

何故、そんなことをおっしゃるのだろう。
私はこのスパークに誓ってメガトロン様へ永遠の忠誠を誓っているというのに、メガトロン様には伝わっていないのだろうか。まだまだ足りないというのだろうか。
今更ながらメガトロン様に失態を見られてしまったことが悔やまれる。

一抹の不安を抱える私に、メガトロン様は言い放った。

「ならば、あのオートボットを本気で殺せ、マリア」
「…私は本気でしたが」
「無自覚か。……なお悪い」

私から手を離したメガトロン様が、立ち上がり、私の壊れた右腕を掴み上げた。壊れたボディパーツから覗いた神経回路が火花を打ち上げ、正常に機能している痛覚回路に思わず呻き声を上げる。
持ち上がった私はメガトロン様の顔の前に吊るされていた。痛みを堪えながらもメガトロン様を見る。彼の白銀のボディと赤い瞳が私に映る。

「本気にしては随分と長引いているな。我が軍でも飛び抜けている実力を持つお前が、だ」
「私が、手を抜いている、と…? そんな筈は…。ありえません…!」
「それにしては、」

メガトロン様の指先が私の頬をなぞった。そのまま私の頬に爪を立てて傷をつけるメガトロン様。
その美しい赤い瞳の奥に、見えるはずのない青が見えて、私のブレインに困惑が広がる。

「殺し合いにしては随分と色のついた目をする」

一瞬黙り込んだ私に、メガトロン様の手が私の首を掴んだ。声は私の聴覚センサーを震わせる。

「貴様は俺の所有物だ。他に目移りなどするな」
「……………もちろんです。メガトロン様」

生き残っている片腕で私は胸元を強く掻き毟る。この奥に潜んでいるスパークが唸り声を上げているような錯覚に陥っていた。
胸元のボディパーツに傷がつく。そのままにしている痛覚センサーが悲鳴を上げるが、それでも私の手は止まることはない。

あいつを屠るまでは、この忠誠心が絶対だということを主君にどうして伝えられないのだ。

「私のスパークはメガトロン様だけのものです」
「……行くぞ」

メガトロン様は短く私を一蔑しただけだった。私は短い返事をして、今度こそ完全に飛行形態に変形する。痛覚回路は気まぐれにそのままにしておいた。
そろそろショックウェーブのリペアを受けないと右腕の神経回路が本当に破壊されるだろう。再び戦うためにもそれだけは避けたい。

(何故あいつの瞳は青いのだろうな)

突然、そんな思いがスパークの片隅に浮かび上がる。

そしてメガトロン様の背中を追いかけながら、この戦いが、アイアンハイドとの戦いが、とても不毛なものなのだということに気付いた私がいた。

揺らぐことはない忠誠心。メガトロン様を崇拝する思いは変わらない。

それだというのに、記憶の端でバグのように映り込む青い瞳が忌々しかった。


†††


「アイアンハイド。こちらにメガトロンが向かっていたが…、無事だったか」

聞こえてきたオプティマスの安堵の声に、俺は振り返る。
敵は逃してしまった。両腕のキャノン砲をしまい、肩を竦める。

「マリアと戦っていた。そしたら破壊大帝のお迎えが来た。噂は本当かもしれん」

女性体でありながら戦力的に幹部に位置しているマリアは、敵の主であるメガトロンの寵愛を受けているという噂が、オートボットの中で密かに流れていた。
破壊大帝であるメガトロンは部下を庇ったりなどしない。それなのに毎度マリアだけはわざわざ回収しにくるのだ。執拗な程に。

マリアのメガトロンに対する忠誠心は本物だ。そして、その忠誠心を受けているメガトロンもマリアを寵愛しているのだとしたら。

「またアイツを破壊し損ねた」

思わず悪態が溢れる。俺のスパークは先程の戦いを思い出し、今でもざわめきたっていた。
今日も、あの赤い瞳の、そのスパークをかき消すことが出来なかった。

空けられた左腕の穴を見つめ、思わずその左腕を右腕で抱えた。オプティマスの視線が俺の行動を捉えていた。

「痛むのか。ラチェットを呼ぼう」
「……いや、俺は最後でいい。他の負傷兵を先に診てやってくれ」

オプティマスの声を俺は遮る。静かに俺を見ていたオプティマスだったが、俺の様子を見て判断したのだろう。
素早くラチェットへの通信を済ませると、変形し、先にオートボットの基地へと戻っていった。

残された俺は腕の傷を見つめる。マリアがつけた傷口だが、リペアをすればすぐに塞がるだろう。
そして俺がマリアにつけた傷も、次にアイツに会った時には元通りになっているのだろう。そしてお互いまたゼロから戦いを始める。

こんなことをもう何回も繰り返してきた。
何度か俺がアイツを破壊するタイミングが合った。その逆も然り、何度か破壊されかけた。

それでも、今も、俺とアイツのスパークは消えていない。

こんなことをあと何回、繰り返すのだろうか。

「………どうしてあいつの瞳は赤いんだろうな」

俺から零れた独り言は誰にも聞かれることなく落ちていった。
傷付いた腕を抱き上げ、らしくもなく下を向いてしまう。

いつからだろう。アイツと刃を交わえる度にざわつくスパークが指し示すものが、純粋な敵意だけではないことに気付いたのは。
刃が触れる度に高揚するスパーク。いつからか、あの赤い瞳が美しいと思った時には、自分が、この俺が、欺瞞の民であるディセプティコンの幹部に惚れてしまったことに気が付いてしまった。

戦う度に、震えるスパークを、誰にも気付かれる訳にはいかない。

俺はオートボットで、アイツは憎きディセプティコン。

いつか破壊しなければいけない相手だというのに、一瞬でも迷ってしまったキャノン砲。
相手の腕を貫いた時、スパークをよぎったのは喜びよりも恐怖。

「…ハッ」

自嘲が溢れる。こんな女々しい姿を弟子のサイドスワイプに見られるわけには行かない。
素早く変形を済ませると、俺は痛覚回路を切ってオートボットの基地へと向かった。

ブレインで勝手に再生される赤い瞳は、それでも美しかった。


あくまでも敵。

自身の忠誠心が強すぎて、自身の味方への情が強すぎて、裏切りなど出来やしない。

ならば、せめて、相手を破壊するのは自分であれと願い、傷つけ、滅ぼし合う。

つけられない決着を望んで、次も本気で殺し合うだけ。

殺し合うしか、選択肢はない。


(Love your enemies(自分の敵を愛せ))

お題サイト 睡恋 様よりタイトルお借りしました。


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