【綺麗な綺麗な】(メディックノックアウト)(prime)

そこは人気のない山奥だったし、日が落ちる前にはビーコン達が周りの橋などは落として交通路を減らしていたはずだったし、主君のメガトロンと珍しく2人でエネルゴン発掘所の視察に来ていただけで、まさかぱちぱちと驚きの瞬きをする女の子を見つけるとは思わなかった。

彼女を最初に見つけたのはメガトロンがガリと山肌に爪を立てて落とした岩を、つまらなそうに目で追っかけていたメディックノックアウトだった。
落ちた岩のすぐ隣にぺたんと座っている女の子。ノックアウトはメガトロンを呼び止め、指示を仰ぐことにした。

「いかがいたします? メガトロン様。
 生きている人間に見つかってしまいました」
「殺せ」

その単純な声にも女の子――マリアは2組の赤い瞳を見つめているだけだった。
恐怖もなく、涙もなく、彼女はただ赤と銀の機体を見上げているだけだった。

さっさと調査を終えて、メガトロンは先にトランスフォームして飛び去ってしまう。残されたノックアウトははぁと溜息をついて小さな人間を見下ろした。
邪魔者を殺すことに抵抗が有るはずもないノックアウトだったが、この星にいる人間という種族は、ぷちりと潰せばトランスフォーマーよりも多くの液体を溢れ出させて、ノックアウトの美しい機体を汚す可能性があって、面倒なことは面倒だった。

その面倒臭さを主がいなくなった瞬間から顔に溢れ出させていたが、そういえば当の人間からなんの声も発せられていないことに気が付いた。
マリアは異形であろう自身を見上げていても、とても静かだった。普通の人間ならば悲鳴を上げるなり、逃げるなりすればいいもののを。

少し興味が沸いたノックアウトは、指先をマリアに近づけて、小さな彼女の頬に触れさせた。金属の爪が頬を引っかき、細く傷がついて血が滲む。
ただそこまでされてもマリアは特に反応するわけでもなく、痛みだけは感じたのか片目を閉じて、こてりと首を傾げていた。

これにはノックアウトもつまらなそうに思わず声をかけてしまった。

「気絶でもしてしまいましたかねぇ」
「ちゃんと起きてますよ。赤いロボットさん」

だがマリアはノックアウトのブレインに反して、混乱もせずにしっかりと答えた。
ノックアウトもマリアに視線を向けて改めて言葉をかける。

「それなら、もう少し怖がってくださっていいんですよ? その方が私のテンションが上がるんですけれど」
「それは…、ご期待に添えなくてごめんなさい」

マリアはようやっとノックアウトから伏せるように視線を外して、ぺこりと頭を下げた。
再び顔を上げたマリアはまたじっとノックアウトを見つめる。相変わらず彼女の瞳には恐怖は浮かんでいない。

彼女は淡々とノックアウトに問いかけた。

「それで、私はいつ殺されてしまうのでしょう」
「随分と冷静ですね。人間の癖に」

マリアはノックアウトの言葉に、困ったように、でも確実に笑みを浮かべて、メガトロンが落とした瓦礫の下敷きになっている赤黒い肉塊を指さした。
そこには成人のものと思われる男の手が瓦礫の下からはみ出して見えていた。ノックアウトのカメラアイがそれを確認して、「あー」と興味の薄そうな声を出す。

「誰です? お友達?」
「私のパパ。私をこんな素敵なところに連れてきてくれて、さらには殺そうとしてくれたの」

素敵でしょ。と微笑んだ彼女に、素敵ですね。と彼も答えた。

そういえば辺りには人間の血液特有の匂いが漂っていたし、マリア自身の身体半分にも赤い液体がかかっていた。
マリアが生き残っていたのは本当にたまたまなのだろう。あと少しでも瓦礫が横にずれていれば、父親もろとも瓦礫の下だったろうに。

そんな血生臭い空間の中で、1機と1人はまるで天気の話でもするかのように、軽やかに会話をしていた。

彼女はまた真っ直ぐにノックアウトの赤いカメラアイを覗き込む。
彼女の目には、彼の赤いボディが反射してちらちらと映っていた。マリアは淡々と、でもどこか嬉しそうに言葉を続けた。

「どうせ殺されるのなら綺麗な方がいいわ」

にっこりと微笑みを浮かべるマリアに、ノックアウトのカメラアイがカシャカシャと音をたてて瞬きを繰り返す。

マリアは命乞いがしたくてノックアウトを綺麗と言った様子ではなかった。
ノックアウトにもそれがわかって、彼の表情に喜悦が混じる。

ノックアウトは顔のパーツを笑顔に変えて、マリアの小さな身体を摘んで掌に乗せて視線を合わせた。
バランスを取るために少しふらふらとしたマリアに、ノックアウトは酷く優しく声をかけた。

「もう少し生きる気は?」
「貴方が飽きるまで?」
「そうです。
 貴女は私の美しさを理解できるようでしたので」

下等な人間であっても、正しいことを正しいと理解できる人間は、少しばかりは優秀だ。
永遠に生かしてもらえるとも思っていないところも評価してやりたい。暇つぶしのペットとしては中々上々。

メガトロンの説得だけはもしかしたら手間がかかるかもしれないが、まぁ、飼えなかったらそれまでだし。

あぁ、でも、この子の瞳に反射して写った自分の姿は、鏡で見るよりもなによりも一層に美しいではないか!

マリアはノックアウトの掌に乗せられ、近くなったノックアウトの顔をしっかりと見つめて、瞳の中に赤色を写してにっこりと笑顔を返した。

「では、これからお願いします、ロボットさん」
「えぇ。よろしくお願いします。おチビさん」

にんまりと笑顔を浮かべたノックアウトはひょいをマリアを放り、トランスフォームして車内に彼女を閉じ込める。
急なことに驚いた様子のマリアだったが、次に自身が車内にいることに気がついて、心から楽しそうに笑っていた。

カーラジオからノックアウトの声が聞こえる。

「さて、餌はエネルゴンでもいいのか確かめてみないと」


(綺麗な綺麗な)

(どうです? 食べれます?)
(うーん…。舌がぴりぴりします…)
(ふむ。やめておいた方が賢明ですね)


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