【たとえ犠牲を生んだとしても】(ファルコナー)(Pre主)

『所詮人間。と油断するからだ』

マリアは言葉と共に溜め息をついた。彼女は治療道具を片付け、自身のリーダーであるスピナーを見る。

彼の足の数箇所には銃弾が被弾したあとが見られた。

緑色の体液が溢れている。マリアの手がそれを塞いだ。
彼女はプレデター用の治療具がちゃんと機能しているかを確かめつつ、再び溜め息をついた。

『この程度の狩りで失敗するなんて本当、信じられない』

スピナーは部下に軽く叱咤されつつも苦笑を零すだけであった。

『相も変わらず手厳しいな。マリアは。
 それに、あれは失敗ではない』
『…へぇ。結局あの人間を狩ったのは誰だったかな』
『や、まぁ、それは、お前だが…』

苦笑を零すスピナー。マリアは冷たい視線を向けてから、長に報告に行く。と立ち上がった。

実際のところマリアはリーダーであるスピナーよりも強い。
それでも彼女がリーダー格ではないのは、マリアがあくまで「女性体」だったからだ。

劣っている訳ではない。むしろ他よりも優れているはずのマリアだが、まわりの意見はそう優しくはなかった。

マリアにはどうすることもできないこと。

諦めた訳ではないが、実力的に劣るスピナーの下についている今は悲しくはなかった。
なにせ頭脳戦ではスピナーに勝てたことがないのだから。

下に見られないために、けなされぬようにただ強くなり、あぁそして愛する彼と肩を並べられる程の強さを求めて。

『……ファルコナー』

戦艦の中を歩みながら小さく愛する者の名を呼ぶ。

報告が終わったら彼に会いに行こうと思いながら。


†††


『ファルコナーならあっちにいたぞ』
『あぁ、ついさっきまでそこにいたが…』
『ファルコナー? …見ていないな』

『……どこに行ったのよ、馬鹿』

すれ違う者にファルコナーの居場所を聞いてまわっているが、中々マリアはファルコナーに巡り会わなかった。

きっと忙しく走り回っているのだろうが、せっかく会おうと思っていたマリアの気分はいい勢いで急降下中だ。

『………柄ではないことは、考えるものではないな』
『どうした? マリア』

溜め息をついたマリアの目の前に、スピナーが立っていた。

マリアは再び溜め息。

『おい。俺は上司だが? 俺を見て溜め息をつくな』
『自分より弱い奴が上司とは認めたくない』
『お前は本当に手厳しい…。
 ファルコナーには会えたのか?』

スピナーの出した名前に、マリアは苦笑すら浮かべながら静かに首を左右に振った。

『まだだ。今日は諦める』
『ならこれから少し出ないか?』
『何処に』
『何処かへ。
 足の具合を確かめたい』

スピナーはそう言って、つい先程マリアに治療してもらった足を指した。
再生した傷口が少し張るのか、僅かにぎこちない動きをするスピナー。

マリアは溜め息をつきながらも『わかった』と頷いた。

ファルコナーはまたあとで探せばいい。特に用事もなく、ただ会いたかっただけなのだから。

歩き出した2人。スピナーは足の具合を確かめるように床を踏み締める。
隣のマリアはスピナーに歩幅を合わせつつ、時たま上司の様子を伺っていた。

『明日には出れそうだな』
『心配してくれているのか?』
『お前抜きでは狩りに出られないというだけだ。立場上、ね』
『すぐに周りもお前を認めるさ』

強さは確かなのだから。

そう言ってくれるスピナーにマリアの気も緩む。強さではマリアの方が優っているが、やはりスピナーの存在は友人として残っていた。

呆れつつも自然と笑みが溢れる。

マリアとスピナーで歩いているその姿を見られていたことに、2体は気がつかなかった。


†††


『マリア、少しいいか』

声がかけられ、振り返るとそこにはブラックの姿があった。
ファルコナーと同じ班のプレデターにマリアはこくんと頷いた。

『無理はするなよ、スピナー』
『あぁ、わかっている』

スピナーと別れ、マリアはブラックの前に立つ。用事を聞いてみると『少し話があるだけだ』と言われた。

『広間に行こう』
『話だけなら、私の部屋の方が近いが?』

マリアは首を傾げる。ブラックとはよく話もするし、部屋に上げることに抵抗はない。
だが、彼は苦笑を零して首を左右に振った。

『俺とマリアだけで、マリアの部屋にいたら「あいつ」になんと言われるかわからない。
 流石に俺だって自分の身は惜しい』
『?』

不思議そうにしていたマリアだが、深くは考えずにブラックの背についていった。
広間で食事を取りつつ、ブラックと些細な会話をする。

少し周りを見回していたが、ここにもファルコナーはいなかった。
自嘲にも似た苦笑を零すマリア。普段、何もしなくても会えるというのに、特別会おうとしたら巡り合わないものだ。

そこで突然、断末魔が響き渡った。

突如として聞こえたそれに、マリアは目の前にいたブラックと視線を合わせた。
他のプレデター達も困惑を見せている。バッとマリアが立ち上がった。

『……スピナーの声だ。
 ブラック、すまない。私は行く』
『いや、ここにいろ。マリア』

座ったままのブラックは強い視線でマリアを制した。
マリアは疑問の目を向けながら、視線を振り切る。

『この声は異常だ』
『異常なのはわかっている。…それにお前が行ったって何も出来ない』
『この原因がわかっているのか? ブラック』

意味深な言葉を零すブラックに、マリアは嫌悪に満ちた瞳を向ける。

そのままマリアは舌打ちをひとつすると声のする方へと駆け出した。

急がなければ、スピナーは。


†††


マリアが駆け、そしてついに見つけたのは2体のプレデターの姿だった。

裏切りか何かかとマリアの表情も険しくなる。
だが、優位に立っている方のプレデターが誰だかわかった瞬間、マリアは驚愕に体を硬直させた。

『ファル、コナー…?』

マリアの声が掠れる。振り返ったファルコナーの仮面には、独特の色をした彼らの血がついていた。

『あぁ、マリアか』

ファルコナーの穏やかな声。振り返るファルコナーの足元には血に塗れる「何か」が落ちている。

マリアは変に呼吸が乱れるのを感じていた。
愛するものの前ではあったが、自身が愛用の武器の位置を意識してしまっていた。

『ファル、コナー…、その足元のは、なんだ…?』
『……別になんだろうが構わないだろう。おいで、マリア』

僅かに微笑みを浮かべたファルコナー。
金縛りが解けたような感覚を受けたマリアが、ファルコナーに向かって駆け出した。

仮面の下でファルコナーの表情に柔らかさが生まれる。

が、マリアはファルコナーに触れることなく、彼の足元にしゃがみ込み、絶命しているスピナーの肩を揺すった。

『大丈夫か、スピナー。スピナー…、おい、スピナー!
 ファルコナー、何故――!? ッ!』

バッと見上げた先、見下ろすファルコナーは冷たく凍り付いた瞳をマリアに向けていた。
一瞬マリアは怯む。だが、視線をそらすことなく、彼と視線を合わせつづけた。

鷹を狩るような、その鋭い視線。
マリアの背筋が凍り、身動きが出来ない。

素早く動いたファルコナーの手がマリアの首を狙った。
マリアが反応するよりも先に、手は首を絞め、マリアの足が数センチ浮くほどに持ち上げられた。

『ッ、ファル…コナー…! 何を、する…!?』

息が苦しい。掠れる声で問うマリア。
マリアが本気で立ち向かえば、彼の腕から逃れることぐらいは出来るだろう。
だが、ファルコナーの瞳に捕われたマリアの身体は思うように動かない。

片手でマリアの首を締め上げるファルコナーが、マリアを見つめつづけていた。

『お前は誰のものだ?
 何故、お前は俺以外を見ている?
 何故お前は俺を見ない?
 何故なんだ!! 答えるんだ! マリア!!』
『ファル…、』

意識が落ちる一瞬手前。手の力が緩み、マリアの身体がぐしゃと床に落ちた。
咳込むマリアの側に膝をついて身を屈めるファルコナー。
プライドの高い彼が膝をついている。薄い意識の中、驚きを見せるマリアを、ファルコナーはその両腕で抱き寄せた。

『お前は俺のものだ、マリア』

抱きしめられ囁くファルコナー。マリアの意識が完全に闇に落ちた。


†††


『もう我慢ならない。いいだろう? ブラック』

ショートするかのように気絶してしまったマリアをベッドに寝かせ、愛おしそうに撫でながらファルコナーはそう言った。
ブラックは呆れてはいたが、自分に被害があっては堪らないとでも言うように肩をすくめた。

『あぁ、もう好きにすればいい。
 俺はどうだっていいが、これ以上同族を減らされると上が煩いだろうからな。
 同族を何体も狩るな』
『今回はスピナーが悪い。マリアを誘惑するような輩は早急に排除しなくてはいけない』

マリアを撫でながら笑みを浮かべているファルコナー。その手は眠ったマリアの手を優しく包んでいた。

『マリア、これからは一緒に狩りに行ける。
 お前の側を離れる必要などなくなる』

指先にキスを落としてから、首筋に残った手で締めた跡すら愛おしげに見つめ、ファルコナーはマリアを起こさぬように抱きしめた。

ブラックはそんな同僚を見つめ、呆れたように立ち去る。彼の独占欲の強さは、マリアが知らないだけで今に始まったわけではないのだから。

小さく声を零し身を目を開くマリア。ファルコナーは申し訳なさそうに、マリアの体を抱きしめる手を緩めた。

『起こしたか』
『……ファルコナー、?』

マリアは目を覚ましたあと、自身を抱きしめるファルコナーに苦笑を零した。

『…? マリア?』
『………探していた。私が会いたかっただけだが…』

短く答えるマリアに愛おしさが溢れ出るファルコナー。
ぎゅうとまた抱きしめると、マリアは苦しさを訴えるように彼の肩を数回撫ぜた。

ファルコナーがマリアに囁く。

『マリア、お前は今日から俺達と同じ班だ』
『……わかった』
『ずっと一緒にいれる』
『……そうだな』
『マリアは俺のものだ』
『ファルコナー』

小さな声でマリアはファルコナーの名を呼び、彼をぎゅうと抱きしめた。

『私は酷い女だよ。
 ファルコナーが何をしようが、たとえ私の周りを殺そうが、私は、私はファルコナーと共にいたいと思う』

微笑んだマリアはファルコナーと同質の狂気を内に潜めていた。

『愛してる、ファルコナー』


(たとえ犠牲を生んだとしても)

アイシテル。誰ヨリモ何ヨリモ、他ノ命ナド関係ナイクライニハ、オ前ヲアイシテイル


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