【病名不明症状胸痛時々甘味】(ソーマ)

いつしか世界はアラガミと言う特殊変異の生き物達によって覆われていた。
人間達はアラガミと争いつつ、神機を操るゴッドイーター達を生み出した。

「新しく第一部隊に配属になったマリアです!
 未熟者ですがよろしくお願いいたします!」

薄暗いアナグラの中でもマリアは楽しそうにニコニコしていた。

「3人同時に配属なんて珍しいわね。しかも1人は新型」

黒い短髪のサクヤが微笑むように新入り達を見る。
マリアはちらりと横の新型とコウタを見た。
2人と目が合うとニコと笑う。

「あー、まぁとりあえず、ここでの命令は死ぬな。必ず生きて帰れ。だ。
 それだけ守ってくれよ。よろしく」

部隊長であるリンドウが気楽そうに3人を歓迎した。
隅に立っているソーマは興味がなさそうにしている。

「よろしくお願いします!」

マリアはニコニコしながら先輩達に頭を下げた。


†††


軽い自己紹介が済んだ後、コウタはマリアの方にくると身体を向けた。表情は親しげだ。

「マリア、一緒に頑張ろーな!」
「あ、コウタくん。
 うん、頑張ろ! 回復は任せて!
 新型くんもね」

マリアの言葉に新型は微笑みながら頷いた。

「じゃあ私、そろそろ部屋に戻るねー。
 確かコウタくんの向かい、新型くんの斜めの部屋だから。遊びに来てね」

区画移動用のエレベーターに乗り込み、マリアは小さくコウタ達に手を振った。

「………マリアちゃん可愛い!
 サクヤさんみたいな人も捨て難いけど、マリアちゃんみたいなのもいいなぁ」

何だか熱いコウタに新型は苦笑を零していた。


†††


「えっと…ここかなぁ?」

マリアはエレベーターの中で迷う。
まだ部屋を覚えていなく何階か乗り降りを繰り返していた。

カチンと小さな音がなり、扉が開く。
すると扉の前で待っていた彼と鉢合わせてしまった。

「っ」
「きゃ」

マリアは降りようとしていたし、彼は乗ろうとしていた。2人軽くぶつかる。

「ご、ごめんなさいっ! っ…と、ソーマさん?」
「………」

ムスとした表情のソーマがそこにいた。マリアは慌てて頭を下げる。
ソーマは特に何も言うことなくエレベーターに乗り込む。

マリアは困ったようにソーマを見ていた。
すれ違う瞬間にソーマは思い出したかのように呟く。

「………新人区画はもう1階上だ」
「え?」

パチンと扉が閉まり、エレベーターは上がっていった。

マリアは自分のスカートを両手で握りしめた。
わなわなと震えている。

「な、なんで先に上がっちゃうのよー!
 一緒に乗ってもいいじゃない!」

今この瞬間、彼女はソーマが苦手になった。


†††


サクヤ、ソーマ、コウタ、マリア。
リンドウは自分の前に臨戦準備になっている仲間達を見た。

「5人か。まぁ多いに越したことはないな。
 今日も死ぬな。全員生きて帰れ」
「頑張ります!」

元気よくマリアが答える。リンドウはニコと笑いかけた。

「今回のターゲットはシユウが1体。油断はするなよ」
「マリアは私と一緒に行動ね」

リンドウの指示。サクヤは微笑みながらマリアに向いた。マリアも微笑みを返す。

「足手まといにならないよう頑張ります」
「……邪魔くせぇ」

マリアがぴょんと後ろを見ると無表情なソーマが立っていた。
早速邪魔になっていたようだ。

マリアはあわあわと焦りつつも頭を下げる。
ソーマが少しだけ眉を歪めてリンドウを見た。

「こいつ大丈夫なのか?」
「ここに来た時点でマリアは十分役に立てる筈だ。
 まぁ、今日の頑張りによるからなー」
「は、はい…」

微かにソーマから離れるようにして、マリアはコウタの後ろに隠れた。
サクヤがマリアの肩に触れる。

「無愛想だけど、ソーマは悪い子じゃないからね」
「……………はぃ」

マリアはどこかソーマを睨みながら、サクヤの言葉に頷いた。

緩んだ空気を纏めるようにリンドウが声をかける。

「あー、おしゃべりはここまで。
 行くぞ」


†††


任務は比較的簡単であった。
シユウは1体単独であったし、5人も集まれば簡単であった。
両羽を手のように扱う人型に似たシユウが倒れている。
その隣でマリアはニコニコとリンドウを眺めていた。

「帰るまでが任務だぞー」
「♪」
「? 楽しそうだな、マリア」
「リンドウさん、学校のセンセみたいです」

何やら楽しそうなマリア。
ソーマは呆れたようにマリアから目を背けた。

楽しそうなマリアに感化されたコウタが、一緒になって笑っている。
その中の一瞬、マリアがフラリと揺れた。

リンドウがそれをきちんと見つける。

「マリア?」
「はい」
「足見せてみろ」
「…………」

リンドウの真剣な目からマリアは体ごと背ける。
コウタがマリアの肩を掴む。

「怪我してんだったら無理しちゃ駄目だ」
「無理じゃないです、大丈夫です」
「はい、ちょっと失礼するよ」
「ひゃっ」

油断していたマリアの靴を取り、リンドウはマリアの足元をサクヤに見せる。

彼女の足は大きく青痣が残っていた。

「ぅー……」
「これは病室で冷やすものを貰った方がいいわね。
 あまり回復錠を使わない方がいいわ」

ションボリと肩を落とすマリア。
サクヤは慰めるようにマリアの頭を撫でる。

「コウタの言う通り、無理は駄目よ?
 今、また襲撃を受けたらどうするの?」
「………はい。ごめんなさい…」

素直に謝り、マリアは顔を伏せる。
リンドウが今まで黙っていたソーマを呼び掛けた。

「ソーマ、マリアを背負ってやれ」
「………なんで」
「大丈夫です! 歩けます!」
ソーマが苦手なのか嫌なのか、マリアはブンブンと手を振る。

「大丈夫です! 足手まといには―――」
「十分なってる」
「うみゃっ!?」

奇声を上げるマリアはいつの間にかソーマに背負われていて。
マリアはバタバタと足を振る。

「キャーキャーっ」
「…うるせぇ」
「だって…うぅ…」
「マリア、足動かしちゃ駄目」

サクヤに怒られ、マリアは降りられないと分かると自分のスカートを気にしながらもソーマの背中に顔を埋めた。


†††


「大丈夫だった!?」
「は、はい。ただの打撲みたいなので…ありがとうございます」

病室からエントランスに戻ってきたマリアがぺこりと頭を下げた。
足には軽く包帯が巻かれており何処か痛々しい。

「これからは怪我はしないこと。しても無理はしない。
 わかったな?」

リンドウがそういいながらマリアの頭を撫でる。
マリアはションボリとしながらもソーマに向いた。

「あの…、ありがとうございます」
「……」

ソーマはふいと顔を逸らすとふて腐れたようにマリアから遠ざかった。
「うー」と怒ったように唸ったマリアがサクヤの腕に抱きつきながらソーマを睨む。

「ソーマが苦手?」
「凄く」
「結構正直ね、マリア」

サクヤが微笑みながらマリアを見る。

そこで1階のエントランスで囁きが聞こえた。

「…リンドウさんの隊に新入りが入ったの知ってるか?」
「リンドウさんのって、死神と一緒かよ」
「また死ぬ奴が出るかもな」
「早速、新入りの女が怪我してきたってよ」

「女、死神のせいで死んじまうんじゃね?」

軽率な声は2階のマリアやソーマにも聞こえる。
リンドウが睨むように下を見ていた。

「気にするなよ、ソーマ、マリア」
「………」

ソーマは何時ものこととでもいいたげに無視をしている。

が、

気付くとマリアは1階にいた。

「あら」
「マリア、俺の話聞いてないな…」

サクヤとリンドウが顔を見合わせる。
心配性のコウタが慌ててマリアの側に降りて行ったが、その時、マリアの清んだ声がエントランスに響いた。

「謝ってください」

胸を張り、堂々と立ったマリアは前の男達を圧倒している。
が、男達は負けずにムスとしたように睨んでいた。

「な、なんだよ」
「謝ってください。失礼ですよ!」

確かに誰かが死ぬなど失礼窮まりない。
しかも本人が聞いているのであればなおさらであろう。

男達は微かに目を伏せたが、次のマリアの言葉に男達は驚く。

「『ソーマさん』に謝ってください!」
「は?」

エントランス2階にいたソーマすら、上からマリアを見た。
マリアはいたって真剣だ。
コウタはポカンとマリアを見ていた。

サクヤとリンドウはまた顔を見合わせる。

「死神さんなんて酷いです、ソーマさんは優しいんですよ!
 この前、新人区画の場所教えてくれたり、リングエイトには真っ先に来てくれたりするんです!
 だから謝ってください!」

どうやら彼女の中には自分が死ぬかもと言われた事に怒りはないようだ。

そしてソーマを庇うという地雷を踏んだにも関わらず、今度はそれを爆発させた。

「わ、悪かったよ」
「私じゃなくソーマさんに謝ってください」

疾風迅雷。

気付けばマリアは後ろからソーマが首根を掴んで持ち上げていた。
コウタが驚きながらマリアから1歩離れる。

「そ、ソーマ、マリアは猫じゃねって!」
「にゃーっ……ってどういう状況ですか、コレ」
「黙れ」

低く呟いた後、ソーマはマリアを持ち上げたままエレベーターに向かった。

乱暴に乗り込み閉めてしまった。

堪えられなかったリンドウがくくと笑う。

「見たかサクヤ、ソーマの奴、顔真っ赤だったぞ」
「しっかりと目に焼き付けたわ」

そしてコウタが意味ありげに笑い、それぞれににやにやとしていた。


†††


マリアはというと。

ソーマに捕まれぶら下がったまま、何故かベテラン区画にいた。

「なんでここにいるんでしょ、私」
「………新人区画に戻る」
「なんでベテラン区画まで降りたんですか」

ソーマは黙る。

彼は最初から新人区画に向かうつもりだったが、慌てていたのか、慣れたベテラン区画のボタンを押してしまったのだ。

ぷぅと顔を膨らませたマリアは不機嫌そうだが、大人しくソーマにぶら下がっている。

「………関係ないだろ」
「へ?」
「さっき。…お前は関係ないだろ」

悪口の件だったのだが、マリアはそんなことよく覚えていないようだ。
ソーマは苛々としながらマリアを持ち上げて顔を見る。

「俺に関わるな」
「? 喜んで」

にっこりと笑うマリア。
ソーマは黙ってマリアを見ていた。

「だって、……ソーマさん…怖いなぁって言ってみたり…」
「勝手にしろ」

エレベーターの前で待っていたソーマだったが、扉が開くと同時にマリアを放り込み、自分は自室に戻って行った。
軽く眩暈のするマリアはくらくらと立ち上がりながらソーマに教えて貰った階を押す。

ぽつりと呟く。

「お、怒らせちゃいました、か?
 面と向かって怖いって言っちゃったし…謝らなきゃ…な…」

マリアは呟きながらとぼとぼと自室に戻った。


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