【愛情チョコ融解】(ソーマ)
2月14日。
マリアはチョコを両手に、そしてそのチョコを溶かしそうな程に顔を赤くほてらせていた。
(そ、ソーマ先輩にチョコ渡すんだからー!!)
憧れて、そして大好きなソーマへ日頃の感謝を込めてチョコを渡す。
たったそれだけのための行動がマリアには酷く難しい。
兄的存在のリンドウや、普段から仲の良いコウタには笑顔で義理チョコを渡すことが出来た。
タツミにはヒバリと一緒にチョコを渡しに行った。
何故かチョコの数を競っていたカレルとシュンにもチョコを渡した。
ブレンダンにチョコを渡した時は照れたブレンダンにつられマリアも照れていたが、何とか渡せた。
チョコ作りを手伝って貰ったアリサやサクヤにも友チョコを渡したし、ジーナとカノンにも既に渡している。
残すはソーマのみ。
なのだが、特別に作った甘さ控えめチョコを握りしめ、マリアはエントランスをふらふらしていた。
(簡単じゃないのマリア! ソーマ先輩を呼び止めて、チョコを渡して、少しお話出来たらなぁ…ってそれだけよ!)
ソーマはエントランス2階のソファに座っている。
何か資料を読んでいる所を見ると、ブリーフィングが終わったばかりなんだろう。
マリアはきょどきょどと遠めにソーマを見つめる。
ソーマはいつも通り変わらない筈のに、今日ばかりは何故か不機嫌そうにも見える。
溜め息が一つ。深呼吸ももう一つ。
またマリアは口を開いた。
「そ、ソーマ先ぱ…」
『煉獄の地下街にてアラガミ発生。
直ちに第1部隊は討伐に向かって下さい。
煉獄の地下街にて―――』
エントランス内に響く放送にマリアははっと今まで見ていたソーマを見る。
彼は既に行動にうつしていたようで、マリアを見つけると近寄ってきた。
「今、聞いてたな。 誰が行く?」
ソーマが『リーダー』としてのマリアに聞く。
突然話し掛けられた事にマリアは既にいっぱいいっぱいだったが、自身の携帯を開き、それぞれ隊員の様子を確認した。
「え、えと、今、第1部隊は…サクヤさんが出払ってますね…。
あ、ヒバリちゃんからアラガミは『クアドリガ』という報告が入っています。
では、ソーマ先輩、リンドウさん、コウタくん、私でいいですか?」
「……俺は構わない。準備してくる」
「はい! お願いします!
コウタくんとリンドウさんには連絡しておきますね」
出撃ゲートに向かうソーマの背中にマリアは声を掛け、同時にリンドウとコウタに連絡をとった。
マリアの頭からはチョコの事などさっぱり忘れ去られていた。
†††
それぞれの神機を手に持ち、マリアは軍用バギーを運転しながら簡易ブリーフィングを行っていた。
「アラガミはクアドリガさんですね。
弱点属性は氷。
基本はリンドウさんとソーマ先輩が攻撃。私とコウタくんが援護にまわります。
回復は私がつとめます。ですが極力、怪我しないで下さいね」
「マリアも、ちと俺がいない間に頼もしくなったなぁー」
元リーダーが助手席でぼやくが、マリアが困ったように苦笑しただけで、後ろのソーマとコウタは呆れ顔を拭い切れていなかった。
「……未だに誤射率は下がってないがな」
「う…。…面目ないです、ソーマ先輩……」
「で、でもマリアの回復弾めっちゃ頼れるよ! 落ち込むなって!」
すかさずコウタのフォロー。マリアはうううと泣きそうになりながらも、ハンドルをきった。
ガタンとバギーが跳ねる。
煉獄の地下街まではあと少しだ。
「あ!!」
「(ビクッ)…どうした、マリア?」
「な、なんでもないです、リンドウさん!」
驚き煙草の灰を落としたリンドウがマリアの顔を覗くが、マリアはぶんぶんと首を振った。
気になるのはウェストポーチに入ったままの…。
(ソーマ先輩へのチョコー!!)
あまりに急いで駆け出してきたせいで、部屋に置いて来る事すら忘れてきたそのチョコ。
マグマの溢れる煉獄の地下街では速攻で溶ける。
「さ、い、あ、く…!!」
「…本当に大丈夫かマリア?」
隣のリンドウが怪しいマリアの様子を疑うがマリアはそれどころではない。
自然とハンドルも荒くきれる。
(バギーに置いてく? ううん。食べ物はバギーに置いてっちゃ駄目駄目。オウガテイルとかが湧いちゃう。
持ってったら…溶けちゃう…!? 冷却弾使いまくる!? いやいや駄目だよね!)
ソーマへの大切なチョコを綺麗なまま渡すには…。
「……クアドリガさんを2分で片付けます…!!」
「お、おぅ。
…本当に頼もしくなったなー」
微かに殺気立つマリアを見ながらリンドウは居心地悪そうに、煙草にまた火をつけた。
†††
現場到着。そして数分後。
本当にクアドリガが切なく倒れていた。
「た、倒しましたーッ」
「お疲れ様ー、マリアー帰ったらバガラリー見ようぜー」
「コウタくんっていつもバガラリーですねぇ」
「面白いんだからいーだろっ」
いーと牙を向くコウタにマリアは笑顔を返す。
あとはチョコを溶かさぬように持ち帰り、今度こそソーマにチョコを渡すだけだ。
バギーに乗り込み、マリアはふぅと息をつく。
帰りはコウタが運転で、マリアは後ろに座っていた。
リンドウは変わらず助手席で、ソーマは神機を抱えながら、ぼんやりと手元を見ている。
(ソーマ先輩と後ろ…!)
恋する乙女はどんな些細な事でも幸せだ。
隣に座るソーマを意識しつつ、あとはチョコを渡すだけだ。と、マリアは上機嫌だった。
「あ、マリア! さっきはチョコありがとな。すげぇ美味かった」
コウタが余計な事を言うまでは。
ハンドルを握りながらニッと笑っているコウタ、リンドウは、後ろのマリアが気まずそうなのに気付いていない。
「あぁ、俺も食べた。ありがとな」
「は、はい…っ」
アナグラ内でまだチョコを渡していないのはソーマだけだ。
マリアはちらりとソーマを見るが、マリアの方を見る事なく、変わらず手元を見ていた。
(まだソーマ先輩に渡してないのにチョコの話しないでぇぇぇぇっ!!)
コウタにもリンドウにもチョコを渡していて、まだソーマにチョコを渡していない。
ソーマに渡す気は満々だし、実際今直ぐにでも渡したいのだが……、何も言わないソーマは、何を思っているのだろうか。
「そういや、ソーマも食った?」
「!! こ、コウタくんッ!!」
リンドウと話すそのノリでソーマにまで話をふるコウタ。
マリアはパタパタと両手を振りながら、ソーマとコウタを交互に見ていた。
そこでソーマは一瞬だけマリアを見た。
ドキリと胸を高鳴らせたマリアだが、ソーマの瞳がどこか近寄り難い雰囲気を醸し出していて、マリアははっと息を止めてしまった。
「………受け取ってはいない」
「え。ま、まじか」
バックミラーでマリアの顔を見るコウタ。
コウタは日頃マリアがソーマに憧れを抱いているのを知っていたので、既にソーマにはチョコを渡したと思っていたのだ。
しょんぼりと肩を縮ませるマリア。ソーマはふいとマリアから顔を背け、窓の外を見ているし。
一気に気まずくなる車内で、年長者リンドウだけが苦笑ばかりを零していた。