結局、マリアが持っていたソーマへのチョコは溶けて、見た目には酷くグロテスクな物になっていた。
ベテラン区画の自販機前。
マリアは綺麗にラッピングした筈のチョコだったものを掌にのせ、呆然と肩を落としていた。
「……こんなんじゃ渡せないよ…」
ソーマは特別だった。だから、特別なものを渡したかった。
手間を掛けて作り、その中でも1番形の良いものをラッピングした。
早く受け取って欲しかった。早く渡したかった。
だが、自身がぐたぐたとしているうちに渡せる代物では無くなってしまった。
ぽた。ぽたぽた。
いつのまにかマリアの瞳から雫が溢れ出す。
「ふぇ……ひっく…うぅ…」
涙が溶けたチョコに落ちる。
視界がぼやけ、マリアは何度も片手で目元を拭っていた。
「誰にやるつもりだったんだ?」
「……ひっく…そ、ソーマ、先輩…に……、……え?」
マリアがバッと隣を向くといつのまにかソーマが、泣いているマリアを見下ろしながら立っていた。
慌ててチョコだったものを隠すマリアだが、その前にソーマがマリアの腕を掴んだ。
「何で隠す」
「ぇ、あ、だって…ぐちゃぐちゃ…、ですっ」
あぐあぐと泣きながらも近付いているソーマが恥ずかしいのだろう。
マリアは顔を真っ赤にしながら、後ろにチョコを隠そうと必死にソーマの手を振り切ろうとする。
だが、ソーマも黙ったまま、マリアに振りほどかれず、尚且つマリアに痛みを感じさせない力加減で、彼女の腕を掴んでいた。
「だ、駄目ですって先輩! ぐちゃぐちゃで…汚いし…!!」
「だが、それは俺に作ったもんなんだろ?」
「そ…うですけど…」
ぐっと腕を引いたソーマに、マリアはバランスを崩して、ソーマの胸元に手をついてしまった。
真っ赤に染まるマリアの顔と、真っ白になるマリアの頭の中。
泣いているマリアを落ち着かせるように頭を撫でるソーマにマリアはショート寸前だ。
「え、あ、う、えっ!?」
「落ち着け」
「は、はい!!」
「返事だけはいいのな」
口元に弧を描くソーマ。マリアは息を潜めながら、彼の胸元から、静かに見上げていた。
見えるのはネクタイと、黄色のYシャツと、小麦色の肌と、綺麗な白い髪。
(さらさら。綺麗…)
思わずマリアはその髪に触れてみた。
驚いたように、くすぐったそうに、ソーマがマリアを見下ろした。
目が合う。
「ふぎゃっ」
変な声が出た。
「……可愛くねぇやつ」
笑うソーマが伸ばされていたマリアの手を掴む。
マリアの白い手。小麦色の手がよく映えた。
「あ、あの、先輩…、私…」
ソーマから身を起こし、深呼吸するマリアは捕まれた手を離せないまま、1度目を閉じた。
それを遮るようにソーマが静かに話し出した。
「……俺だけ何か貰ってないんだが」
「あ。は…はい。でも、あの――」
「それは俺が未だ死神と呼ばれているからか?
…俺が怖いか?」
「違います!!」
即答するマリアはソーマの手を強く握り返した。
「ソーマ先輩は素敵です!!
私が足手まといでも待っていてくれて、助けてくれて、守ってくれて、大好きなんです!
だから特別なものをあげたくて……。だから、ソーマ先輩は死神さんじゃないんです。そんな酷いこと言わないで下さい…」
またぐすんと泣きはじめるマリアに、ソーマは微かに笑ったまま。
「そうか」
「はい…。死神さんじゃないです…」
「『大好き』。か…」
「……え!?」
自分の言葉を振り返ったマリアの体温が爆発したように跳ね上がった。
(「私が足手まといでも待っていてくれて、助けてくれて、守ってくれて、大好きなんです!」……大好きなんです!?)
あ、告白しちゃった!?
「ち、違…!! 違くないけど違くないです!!」
「俺もだ」
「私もです!! ……俺「も」?」
首を傾げたマリア。
手を引き寄せ、ソーマはまたマリアを胸元に埋めた。
そして呟くようにマリアに浴びせる。
「気付け、阿呆。早く寄越せ。他の男なんか見んな。渡すな。
好きでいてやる」
ソーマが黙ると空間は無言に包まれる。
不思議に思ったソーマがじっとマリアを見下ろした。
マリアは完全にショートしていたらしく、ぱくぱくと口を開き、閉じ、を繰り返していた。
ソーマがふっと吹き出す。
その口に自分の指をくわえさせてみた。
「グボロみてぇ」
「かあひくにゃい!?」
「何言ってんだか」
「あぐあぐあぐーっ」
笑うソーマがマリアと近い。
マリアの心音は近いソーマには伝わっている。
――ソーマの早い心音もマリアには伝わっている。
指を離されたマリアが、真っすぐにソーマを見上げながら、小さく呟いた。
「……好きです。ソーマ先輩…」
「聞こえない」
「えぇ!? いぢわる!?」
「もう1度」
「…だ、大好きです…!」
「あぁ。俺もだ」
ぐっとソーマの腕に力が入る。抱き寄せられたマリアが、幸せそうに、照れたように笑った。
「ソーマ先輩いぢわる」
「お前もな。他の男にだけ渡したんだろ」
「だ、だってチョコ…溶けちゃったんです…うわーん…っ」
「泣くなって。泣き虫。
………甘いもんより、お前が、マリアがいい。くれるんだろ? 『特別なもん』」
「……………溶けた…。主に私が…!」
真っ赤なマリアがソーマにはひどく愛しく思う。
くくと笑いながらその小さな体を離さぬように抱きしめていた。
マリアの後ろに置かれていた完全にチョコは溶けていた。
(愛情チョコ融解)
そりゃチョコなんか溶けちゃうさ
「…あー…自販機使っていいかー?」
「リンドウ!?」
「ここ自販機前でした!!」