【monochrome】(ソーマ)
世界が白くなった。
シオがいなくなった時に感じた『白さ』とは比べられないくらいに世界は白く染まり、息が詰まる。前が見えない。
リンドウからマリアがヴァジュラにやられ生死をさ迷っていると聞かされ、俺の脳は考えることを止めるところだった。
「……今、病室で回復班から手当を受けてる。だが、随分と容態が…」
ヴァジュラに飛び掛かられ、腕を喰われかけ、牙が頭を掠めた、と。
リンドウの話など耳に入るが理解は出来ない。
全く脳への害が出るのは俺の方だ。
先程から頭を縛りつけるような痛みに、息が出来ない手足が動かない、胸が、痛い。
気がつくと俺は病室がある階の自販機前で、リンドウに心配されながらいた。
「心配する相手が違うだろうが」
そう呟けばリンドウは「だが」と言葉を区切って、もう1度俺を見た。
「ソーマ、マリアの事、マリアが好きなんだろ…?」
煩い。煩い。煩い。
そんな事、今は関係ないだろう。
いつの間にか握りしめていた拳から赤いものが滲み出す。
病室の扉が開き、中からアリサが出て来た。
俺はアリサが何かを言う前に病室に押し入った。
「ソーマさん、待って下さ――」
「マリア」
中に入ると頭に包帯を巻いたマリアがベッドに横たわっていた。
横にいた回復班のカノンがはっと俺を見た。
そんな目で見るな。俺は大丈夫だ。俺は。
気遣うように後ろからサクヤが俺の腕を引いた。
「ソーマ、まだ駄目よ」
「サクヤさん、平気です」
マリアの声だ。マリアは無事。死んでいない。
「平気か」
「…ごめんなさい。油断しちゃって」
「馬鹿野郎が」
頭に巻かれた包帯で、マリアの顔の殆どが見えない。
ただ、血の気のない白い頬と首が見えていた。
「マリアさん、まだ寝てなきゃ…」
「カノン、出ましょう。
ソーマとマリアなら大丈夫よ」
カノンをサクヤが連れていき、病室は俺とマリアの2人になる。
気怠そうに投げ出された手を握る。
白い肌と黒い肌。まじわりなどしないその両極端。
「……暫く前線から離れてろよ」
「…はい。ご心配おかけしましたね」
「具合は」
「……まだ痛いけど、全然平気です。サクヤさんやカノンちゃんにお礼言わないと」
ふふと笑うマリア。
思っていたよりは大丈夫そうだ。
マリアは新型ゴッドイーターだ。旧型よりまだ丈夫な筈だ。
すぐ、治る。治り、また前線に戻れる。
そう思うと少し気が抜けた。
マリアから手を離し、腕組みをして病室の椅子に座った。
「ソーマ先輩…?」
目が隠れているマリアが少しばかり小さな声を出す。
体調が良くないと淋しくなると聞いた。仕方がない馬鹿野郎だ。
「暫くいる。寝ろ」
「………はい」
すぅと息が寝息に変わっていくのを見る。
俺も暫く寝るか。
白くなった世界にが、また少しずつ形づいていく。
†††
今回の怪我でマリアは目が見えなくなった。
前線には戻れず、腕輪にはラベルが貼られる事になった。
「まだまだ第一部隊にいたかったなぁー」
「……休めばいい。またすぐ新人が来て、お前は教育係になるだろ」
マリアと一緒に背中を合わす事は無くなった。
残念に思う反面、マリアは以前のように危険では無くなった為、それでもいいと思う。
「ソーマ先輩、次、ミッションですか?」
「あぁ。……面倒だな」
マリアは任務には行かない。以前とは違う事に微かな違和感。
不安そうなマリアの頭を軽く叩いて見た。
大袈裟に痛がるマリアに笑みが浮かぶ。
「すぐ帰る。待ってろ」
「…………はい。
戦場での援護は出来なくなりますが、…私、ここでソーマ先輩を応援していますから。
必ず無事で帰ってきてください」
心配しすぎだろう。そんなに不安そうにされると行きたくなくなる。
「ソーマ先輩がいないと世界が黒くなるんです。
前が真っ暗で見えなくなるんです」
そう言いながらマリアはフードを被った俺を覗き込んだ。(いや、目は見えていないが)
俺がいなくなるとマリアの世界は黒くなるのか。
俺はマリアがいなくなる気がした時、世界は白く染まった。と思ったのだが。
少しだけ共感が持てた事に、微かな喜びを感じていた。
「帰る。必ずな。
だからお前も無茶はするな」
「はい。わかりました。…約束ですよ」
俺の世界は白く、マリアの世界は黒い。
2人がいなければ世界は形づかない。
なら俺もすぐ帰って来てやるよ。
モノクロの世界は、こんな荒野でも綺麗に見える。
「心配性」
「笑わないで下さいよ。本当に心配なんですから」
「じゃあな、また後で」
単純だろうが、待っている奴がいるのは励みになる。
俺の背中を見送ったマリアが笑っている気がした。
(monochrome)
告白などしていないのに、両想いと確信した
……まだ告白出来てはいないが。