【ふたり】(ソーマ)
欠伸が溢れる。目元をこするコウタやアリサの姿が見えた。
「アラガミってのは時間も場所も選ばないのが常だけど……」
転がった空の配給ビールの山。第一部隊以外のメンバーはまだエントランスのそこらで眠っていた。
「新年早々、騒がしいヤツらだね」
リンドウのぼやきが聞こえる。隣のサクヤはただ苦笑を零した。
時刻は1月1日。4:58。
外は暗く、アナグラの中は年越しのパーティの片付けどころか、まだ眠っている最中だった。
そんな中現れたアラガミ。グボロ・グボロという空気を読めないヤツを倒すためにたたき起こされた第一部隊は、ツバキの前でぶーぶーと文句を言っていた。
ツバキ自身も寝起きのため、その文句は一刀両断されてしまうのだが。
「コウタ! お前はアニメなんぞで年を越すからだ!」
「バガラリーの特番だったんスよ!? 見ないわけにはいかないでしょ! 録画もした!」
「これだから子供は」
「同い年じゃねーか!」
アリサが出した発言に、コウタが食いつく。
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すアリサとコウタの頭を、ツバキが叩き落とした。
はぁ。溜め息が付かれる。声を出したのはソーマだった。
「俺が出る。リンドウみたく酒も入っていない。体力的には申し分ない」
「! ソーマ! お前最高!」
腕に飛びついたコウタをソーマは払いのける。
それを微笑ましく見ながら小さく手を挙げたのは第一部隊現リーダーのマリアだった。
「私も出れます。私、カウントダウンする前に寝ちゃって…とっても元気です!」
「……あの騒がしい中で寝たのか」
「えへへ」
ソーマの呟きにマリアは照れ笑いを零す。リンドウが欠伸を噛み殺しながら声をかけた。
「じゃあ、ソーマとマリア! あと誰が行く?」
「前衛と後衛。2人もいれば十分だ。
準備しろ、出るぞ」
「は、はい! リッカちゃんに連絡を入れてください。神機の用意を」
自動昇降機に向かったソーマの背中をマリアがぱたぱたと追いかける。
グボロ・グボロ程度ならば2人も入れば確かに十分だ。
それもリーダーのマリアと、ずば抜けた身体能力を持つソーマのペアならば尚更だ。
「………もう一眠りすっか」
「さんせーいッス」
心配などするよしもなく、それぞれに部屋に戻りだした第一部隊に、ツバキは諦めに似た溜め息をついた。
†††
神機をバギーに積み込んで、マリアは運転席に座ったソーマを見た。
「先輩、私が運転しますよ?」
「お前は前に半分寝たまま運転してオウガテイルに突っ込んだから駄目だ」
「あ、あの日はちょっと寝不足で……今日は元気ですってば」
「どうだか」
むーと頬を膨らましたマリア。神機を完全に固定してからサッと後部座席に飛び乗った。
すると突然、急発車し始めたバギーにマリアが悲鳴を上げる。
ぎゅっと助手席を掴んだマリアがソーマを睨む。
「ソーマ先輩の方が運転荒いです!!」
「さっさといって、さっさと狩って帰るぞ」
またがだんと揺れた車内で、マリアの悲鳴がまた響いた。
†††贖罪の街
「前方約800m先に標的を確認。……少し気分が悪いです」
「元気じゃなかったのか?」
「これは車酔いですからね」
岩陰に隠れたままソーマとマリアはこそこそと会話を繰り返していた。
緊張感の欠片も見当たらない。
「グボロ・グボロ堕天、タイプは氷ですね。
まず、私が気を引きます。そのあとはソーマ先輩がお好きなように。あとの援護は任せてください。
まだ暗いので気をつけてくださいね」
軽い作戦を立てていると、グボロ・グボロがこちらに近づいてきていた。
マリアはソーマに一瞬目配せをしたあと、バッと岩陰から飛び出し、脳天直撃弾を放った。
砲台に直撃した弾と、グボロ・グボロの悲鳴。ソーマが合わせて岩陰から出て、神機を振り上げた。
エイムモードに入ったマリアがソーマの動きを見ながら、グボロ・グボロへと銃弾を叩き込んでいく。
振り下ろしたソーマの神機を援護するマリアの攻撃。ソーマの口元に微かに笑みが浮かんだ。
そして、ものの数分でぐだっと伸びきったグボロ・グボロの姿が2人の前にあった。
エイムを解除したマリアがソーマに駆け寄り、ニッコリと微笑む。
「お疲れ様です。ソーマ先輩」
コアを取り出し、マリアに手渡しするソーマ。
受け取ったマリアが鞄にそれをしまいこみ、神機を両手で抱え直して、ぐっと伸びをした。
「動いたらお腹減ってきました。
サクヤさんが年越しそばを作ってくれたみたいなんですけど、私、食べ損ねましたし……」
「確かまだ残っていた」
「本当ですか? わぁ、楽しみです」
「帰るまでに起き出した奴らに食われてなくなってるだろうがな」
「えー」
マリアが入った頃とは考えられないぐらいにソーマはマリアと話してくれるようになった。
ソーマの隣に立ちながら、マリアは微笑む。
(新年早々、ソーマ先輩と2人で任務だなんて。今年もいい年になりそう)
「マリア、見ろ」
贖罪の街の壊れた廃ビルの隙間から。一筋、明かりがこぼれ始めていた。
初日の出だ。
サッと岩に飛び乗るソーマ。彼が振り返り、差し出した手をマリアは笑顔で掴んだ。
自然と手を繋いだままの2人を照らす光にマリアは目を細める。
「……眩しいです」
「色気がないな。お前は」
「ソーマ先輩、酷いです……」
不思議と、手は離れないまま。
マリアは眩しいから。と呟きながら照れたように隣のソーマを見た。
「ソーマ先輩。今年もよろしくお願いしますね」
(ふたり)
ソーマ先輩はすぐに手を離してしまうかと思っていましたが、
初日の出を見たあとも、バギーの場所に戻るまで繋いでいてくれました。