【6月の結婚式】(ファイ)

「マリアちゃん、ジューンブライドって知ってる?」
「ファイさん、それどころじゃないですってば」

とある世界。騒がしい都市の中。

マリアとファイは、はぐれた小狼達を探し回っていた。

右も左もビルか人しか見えない。

皆、それぞれスーツに身を包み、忙しそうに、足早に去って行く。
以前いた阪神共和国に似ているが、また違った忙しそうな雰囲気が溢れている。

そんな中でファイが真剣に探し回っているマリアに話し掛けていた。

ファイの視線はショーケースの中の純白のドレスに注がれている。

マリアは不思議そうにファイの隣でショーケースを見つめた。

「ファイさん着たいんですか?」
「うーん、女装の趣味はないかなぁ」
「じょ、冗談ですから笑顔が黒いですから!」

マリアはきゅうと肩を竦めて、自身を抱きしめる。
そして改めてファイを見る。

「ところで。
 どうしていきなりジューンブライドなんですか?」
「マリアちゃんもこういうのに憧れたりするのかなーって思って」

マリアは極度と言ってもいいほど男性のみに人見知りを発揮する。

そんなマリアが「ファイ=女の子っぽい」という式が彼女の中に出来ているのは暫く前に発覚していた。

マリアはニコニコ笑いながらも、少しだけ困ったように眉を下げた。

「私は結婚の前に好きな人とかいないですから」
「……ふーん」
「何ですかそのつまらなそうな顔」

マリアは微かに膨れたファイの腕に絡む。
機嫌を損ねたようなファイは絡まれた腕を掴み返し、マリアを引いて歩きだした。

「ファイさん?」

問うマリアを見つめて、街の真ん中、行き交う人々の中でファイは囁いた。

「マリアちゃん、結婚しようか」

「え? どなたとですか?」

素で聞き返したマリアにファイは重いため息をついた。


†††


真っ白だ。

「ど、どうですか?」
「!」

初めの感想

ファイは改めてマリアが綺麗だということを認識させられた。

白い肌に溶け込む白いフリルのついたワンピース。
白いベールからのぞくのは、どことなく不安そうにしたマリア。

頬辺りに飾られた淡い桃色の薔薇が照れ臭そうに揺れた。

唐突に思い立ったファイは、近くの衣料店で「結婚式のような服」を探し、マリアへの試着を済ませていた。

「うん、綺麗だよー」

あえて何時ものように答えるファイにマリアはぷぅと頬を膨らませた。

「いきなり花嫁さんみたいな服だなんてびっくりです…」

そうは言いながらもマリアは頬を赤らめていた。
ファイはニコニコと笑いながらマリアの手をとる。

背中から包むように鏡の前に立ち、優しくマリアの髪を梳いた。

鏡には本当に結婚式に出ていそうな2人がいた。

「マリアちゃんもこーゆーの着る時が来るんだよねぇ」
「ファイさん、お父さんみたいな感想ですね、それ」
「なんか複雑ー」

笑うファイを鏡越しに見ながらマリアは優しく笑う。

「これからもずっとずっとこんな風に静かな旅をしていきたいですね。
 もちろん黒鋼さん達も一緒に」

マリアは探さねばならないはずの名を出し、少し頬を膨らませた。

ファイは苦笑を返しながらマリアの背中を抱きしめる。

「でもたまには2人きりもいいでしょー?」
「………たまには。ですよ?」

「幸せにしてあげるよ、マリアちゃんのこと」

マリアの背に顔を埋めたファイが唐突にそういった。
くすぐったそうにしていたマリアの頬が深紅に染め上がる。
だが何も言わず照れたように身をよじっていた。

「ずっと、みんな、一緒ですよ」

それが幸せだから。

マリアとファイは2人で微笑んでいた。
暫くして小狼達に発見されるまで。

優しく2人で幸せに。


(6月の結婚式)


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