【彼女の憧れは】(臨也→夢主←静雄)

「マリアちゃん」
「あ、臨也さん………」

彼女――マリアは掛けられた声に振り返った。後ろでは笑みを浮かべている新宿の情報屋――折原 臨也が手に1輪の花を持って立っていた。

「今、ちょっと時間ある?」
「え。は、はい。大丈夫です。少しなら…」

マリアは臨也が苦手だ。理由は時には無いのだが、感覚的に彼が苦手だった。

「はい。マリアちゃん。あげるよ」
「あ、ありがとうございます」

臨也はマリアの隣に立ち、手に持っていた花を##NAME1##に握らせた。
マリアはきょとんと首を傾げ、その1輪の小さな黄色い花を受け取った。

指先ほどしかないその小さな花の、仄かな香を楽しみながら、マリアは臨也を見上げた。

「でも池袋まで来てどうしたんですか? 可愛い花なんですけど……」
「君、今日、誕生日じゃないか」
「えっ?」

マリアは携帯を取り出し、日付を確認する。そして「あ」と小さく声を零した。
臨也はニコニコと微笑む。

「自分の誕生日を忘れるとは……。マリアちゃんはそんなに忙しかったのかな?」
「いえ。そんなに忙しかった記憶はないんですけど……私はただ後ろにいるだけなんです」
「……へぇ。後ろにって事は一緒にいるんでしょう? あの『魔神』と」

臨也の表情が変わったのをマリアは確認する。やっぱり話を出さない方が良かったか。と悩む。

マリアは彼の天敵、バーテン服の平和島 静雄と同じ職場(出会い系サイト関連)にいた。
最初は事務の仕事をしていたが、静雄の上司、田中トムが静雄を呼びこんでから、マリアも一緒に取り立ての方に回っていた。

「シズちゃんもマリアちゃんみたいな可愛い子を取り立てに回すなんて最低だね」
「あ、でも…静雄さんが私の配属を決めた訳ではないですよ?」
「……。
 へえ、マリアちゃんはシズちゃんの肩を持つんだー」
「い、いえ。そういう訳ではないんですけど」

不機嫌そうな臨也を見て、マリアは困ったように肩を竦ませる。臨也は不機嫌そうなまま、近くの喫茶店を指差した。

「まぁ…今日はマリアちゃんの誕生日だし、怒らないよ。
 何か奢るよ。おいで」
「え、あ、えっ? あの、待って下さい、私―――」

マリアの返事など聞かずに、臨也はマリアの手を握った。
そこで、臨也にとって1番聞きたくない声が池袋の街中に響いた。

「いーーざーーーやーーくーーんーーっ」

臨也の表情に微かな怒りが浮かび、マリアの顔は青ざめた。

(ど、どうしてこんなタイミングで…!?)

臨也がマリアの手を握ったまま動き、彼女は臨也に引かれるままに臨也の胸に収まった。
数瞬まで彼のいた場所に近くのコンビニのゴミ箱がぶち当たった。

マリアは臨也の腕の中で困ったように現れた同僚を見つめる。

「静雄さん……」

「シズちゃん…。どうしてこんな良い日に君に出会うんだろうねぇ。
 折角、マリアちゃんとお茶しようと思ったのに」
「俺もてめぇがいなかったら良い日だったのによぉ……。なんで池袋にいやがるんだ」

青筋を浮かべる静雄に、臨也は見せつけるようにマリアを抱き寄せた。

「言っただろう? 彼女とデートだよ」
(あれ? お茶でしたよねっ? ついでに私行くとは言ってない……)

思った事を口には出さずに、爆発的な殺気を生み出した静雄にマリアは目を向けられない。

「あー? どういう事だ、いーざーやーくーんー?
 俺のとこの社員になにしてやがんだー?」
「別にシズちゃんのじゃないでしょ」
「マリアは今日、俺と約束してたんだよ!!」

静雄の発言に今度は臨也がマリアを驚いた顔で見た。マリアは頬を膨らませて臨也を見つめる。

「ホント?」
「はい。一昨日ぐらいから。静雄さん、遊園地とか行った事無いって言うので、私が案内しますって言ったんです」
「え。でも、マリアちゃん、自分の誕生日も忘れてたじゃん」
「はぁ!? ……………マリアの誕生日を指定するから…てっきり…」

一気に黙り込む男2人を見て、間でマリアはおろおろと震える。
そこで、「とにかく」と静雄がマリアの手を軽く引いた。

「マリアは俺と遊ぶんだ。今回は見逃してやるから早く俺の前から消えろ、ノミ蟲」
「駄目だね。マリアちゃんは俺とデートなんだから」

白熱し始めた静雄と臨也。マリアは1瞬止めようとしたが「口喧嘩だからまだいいか」となんとなく悟りの境地で傍観していた。
何時の間にか離された手をふらふらとさせながら、マリアは見知った姿がこちらを見ている事に気付いた。

「門田さんに遊馬崎さん、狩沢さんっ」

静雄や臨也と同窓生の門田 京平。重度のオタクコンビの遊馬崎ウォーカーと狩沢絵理華がこちらを窺うように見ていた。
マリアはぴょこぴょこと3人に近付く。

「いいのか? あいつ等放って置いて」
「でも、もう私がいなくても気付かなそうなくらい白熱してるんで」

マリアは本当に困ったように臨也と静雄を見る。そこで遊馬崎と狩沢がマリアの左右から顔を出した。

「ねね、これが噂の逆ハーってやつ?」
「マリアちゃんはどっちがタイプなんスか?」
「あー、それ、気になるーっ。で、どっち? どっち?」

遊馬崎と狩沢の言葉にマリアの頬が微かに染まる。困ったような顔のマリアに門田が呆れたような溜め息をつく。

マリアがいない事にようやく男2人も気付いたらしいで、門田達の周りに集まった。

「もう、シズちゃん我が儘すぎる。こうなったらマリアに決めてもらうから!!」

結局、話は纏まらなかったようだ。マリアは困ったようにまた争いの間に放り込まれた。
が、さっきとは違って、遊馬崎と狩沢も加わっていた。

「ねー、マリアちゃん。(もう面倒臭いし)ここで、選んだほうがタイプって事でいい?」
「「はぁ!?」」
「えーっ?」

狩沢の提案に男2人が声を上げる。マリアは真っ赤の顔できょろきょろと周りの顔を見比べた。

「ほらほら、タイプってだけで、告白したって事じゃないんスから。
 マリアちゃん、さて、どっちッスか!?」

遊馬崎も話に乗ってきて、門田はマリアの運の無さに空を仰いだ。

「え、えと、あのっ、えぇ?」
「マリアちゃん。もうこの際、はっきり言って」
「マリア。どうなんだ?」

臨也も静雄も真剣にマリアを見つめる。マリアは顔を真っ赤にして人差し指を立てた。
門田以外の視線が集まる。マリアは真っ赤の顔をしたままに彼女は指を動かした。

その先には―――

「「「「え?」」」」

驚いた声が揃う。マリアは尊敬の瞳をその人に向ける。

「門田さんです!」
「はぁっ?」

全く話に加わっていなかった門田が驚きの声を上げる。マリアは赤い顔で門田を見上げていた。

「私、門田さんって結構タイプです」
「ん、そ、そうか…。それは嬉しいんだが…」

浮かび上がるじわじわとした殺気に耐える門田。
遊馬崎と狩沢も意外だったのか、そして殺気の発信場所を理解しているのか、徐々に離れていく。
もじもじとしているマリアを置いていける訳もなく、門田は黙り込む。マリアは紅くなった頬をパタパタと手で煽ぎ、静雄を見上げた。

「静雄さん、もう、遊園地に行きましょ!
 臨也さん…、今日はもう静雄さんと約束しているので、また今度」
「……………………マリア……。俺は今1人潰したい気持ちが抑えられそうにないんだが……」
「臨也さんとの喧嘩はストップして下さいね」
「いや、潰したいのはノミ蟲じゃねぇんだけど…」
「今回だけはシズちゃんに協力したい俺がいる」

珍しく意見のあった2人が門田へと目線を向ける。門田達は慌ててマリアに顔を向ける。

「マリア! 今、用事を思い出したからまた今度な」
「そうそう、これからアニメイトに行ってくるッスから!」
「マリアちゃん、じゃあねー」

去っていく門田達の背を見ながらマリアは何かブツブツと呟いている静雄と臨也へと振り返る。

「? お2人とも、どうしたんですか?」

「「何でもない」」

不機嫌そうな2人の声が重なり。マリアは首を傾げて2人の間に立った。
そして爆弾と化している2人の導火線に火を灯す。

「うん、本当、門田さんって格好良いと思うんです」

((…………門田、潰す!!))


数日後、空を飛ぶ自販機から全速力で逃げるワゴン車が街中で見られた。


(彼女の憧れは)


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