気になる。
何が気になるかって?
昨日会った静雄さんだ。
気になる。というか気にかかる。
家にいるときも、授業中も、登下校中も、静雄さんの事を考えてしまう。
そんなもやもやとする思いをいつも通っている掲示板に書いてみると、ある1人から返事がありました。
――『えっ、それって恋っすか!?』
バキュラさんに言われた(書かれた)言葉を気にしてしまう。
ないない。それはない。
あの人みたいに「人LOVE!!」ではあるが、個人をLOVEになることなんてない。
しかも自販機を素手で投げるような魔人を。
ないない。ホントに。
そうは考えつつも、ぼんやりとした気持ちのまま、重たい学校鞄を掲げていた。
今は学校からの帰り道。
たまには兄の家にでも行こうと思って、兄に電話をしたら上機嫌で「迎えに行く」と言われたので歩かせる事にした。
兄の家なんて何年ぶりだろう。もしかしたら10年近く兄の家に入っていない。そう思うと派手な喧嘩をしたものだ。
いや、兄と喧嘩したというよりは……。
まぁ置いといて。
待ち合わせ場所はハンズ前。向かうとそこには、何やら大きな騒ぎが起きていた。
「いーざーやーくーん!!」
「うわっ。だから何でこういう日にいるのさ。
せっかくあの子に会えるのに…」
「君達が喧嘩するのを見るなんて久しぶりだなぁ…」
…まぁ、随分と賑やか。
バーテン服の平和島静雄。
ふわもこコートの折原臨也。
んで、眼鏡で白衣の岸谷新羅。
知り合いというか。私の顔見知りのパレードだった。
ついつい静雄さんを見てしまう事に、小さく反省しながら、兄に向いた。
すると向こうも私に気づいたようだ。静雄さんが私を呼ぶ。
「マリア!? なんで?」
いや。なんでと言われましても。ここ待ち合わせ場所ですしねぇ。
臨也が静雄さんに向かってイライラとした声を向ける。
「俺はマリアに会いに来たんだから、構わないでよ」
「はぁっ!?
臨也、マリアの知り合いなのかッ!?」
静雄さんが驚き、臨也に問いただす。私は溜め息をついて、遠くから兄に声をかけた。
「兄貴、知り合いならどうにかしなさいよ?」
「はぁ!?」
静雄がまたまた驚き、今度は私に向いた。無意識だろうが、近づいてきて、私の頬が染まった。
「な、なんッ…?」
「マリア、臨也の妹なのか!?」
「え」
空気が静まる。
「シズちゃん、何言ってんのさ」
臨也が薄く笑いながら、静雄さんを見る。
あぁ。そっか。私、苗字まで言ってなかったか。
じゃあ『間違うのも仕方がない』。
私は静雄さんの前まで兄の腕を引いて指し示した。
「違う、違う。静雄さん。
こっちが私の兄貴」
「こっちとか言わないの」
私が引っ張ってきた人物に静雄さんがさらに驚く。
「私の名前は『岸谷マリア』
――岸谷新羅は私の兄貴よ」
「し、新羅の妹!?」
「というか知らなかったの? 静雄」
兄――新羅も呆れたように静雄さんを見る。
まぁ、私は兄の家に住んでいる訳ではないし、仕方がないか。
「静雄も小さい時に何回か会ってる筈だよ?
小学生の時、よくお見舞いとかマリアと行ってたし」
「え。ホント?」
兄の言葉に驚いたのは、私の方だ。絶対に会ったことないと思っていたのに。
そっか。それで静雄さん「会ったことないか?」って聞いたんだ。私はすっかり覚えてないんだけど。
「ごめんなさい、静雄さん。
会ったことあるみたいです…ね」
「や、俺も新羅に妹がいるなんて知らなかったし」
「知らなかったんじゃなくて、覚えてないんでしょ」
「兄貴は黙ってて」
私は兄を見上げ、その眼鏡を見た。
「全く古今東西どこにいてもマリアのために駆け付けてあげるのに、酷いなぁ」
「うざい。ホントにうざい」
ホントうざいよ。このバカ兄。
この兄は私が何かするたびに世話を焼きたがる。世話好きか過保護かと言われたら、ただの過保護だ。ホントに気持ち悪い。
「やっぱり、兄貴の家に行きたくないし…」
「だから何で? そんなに嫌われるような事したかなぁ?」
「まずうざいんだって。
あと、私の事『観察』とか言って解剖しかけたのは誰?」
「妹という貴重な実験台だったんだもの。至極当然でしょ」
「いっぺん死ねばいいのに」
この兄、嫌いだ。
見ると静雄さんも呆れた顔をしている。
兄の性格をそれなりに知っているからだろう。
兄はそんな周りの目など気にせず、私に向いていた。
「あと僕も今日はマリアに会いたかったんだから」
「なんで? 私はバカ兄に用事はないんだけど」
「いや。マリアが『恋した』って話を臨也に聞いて、いてもたっても…つか本当な訳?」
私は音速で臨也を睨む。また変な話を兄に伝えて。
「臨也、どゆこと?」
「昨日のチャットでそんな話をしてたでしょ?」
「昨日いなかったでしょ? 『甘楽ちゃん』?」
「ROMって見てたんだよw」
臨也は悪趣味にも甘楽というHNでネカマをやっている。
私も最初言われた時はがっかりしたが、相手が臨也なら。と諦めた。
そんなネカマが兄に何を余計な話を。
ちらりと静雄さんを見る。
臨也が昨日のチャットを見ていたなら、相手も誰か知っている筈だ。
いや、いや、『恋愛』とかじゃないってば!!
「兄貴、そんなんじゃないよ。ホント、まぢで。
あとで臨也はぶん殴る!」
軽く決意表明。
静雄さんがまた不思議そうに私を見ていた。私は彼を見上げる。
「どうかしましたか?」
「あ? い、いや。なんでもねぇよ」
わかりやすい人だ。なんでこんな人、気になるんだろ…?
臨也が横から出てきて私の肩を掴んだ静雄さんの顔に青筋が浮かぶ。
「で、マリアちゃん、どうなの?」
「臨也、喧嘩売ってる?」
「俺の大好きなマリアちゃんだ。喧嘩なんか売らないさ」
嘘ばっか。
臨也とは『趣味』は似てるけど全くの別物だ。
だから私は臨也が嫌いなんだけど。
まぁ、凄く嫌いな訳でもないけど。
あ。喧嘩友達みたいな?
そして、どうなのと聞かれても…。
臨也がコソと私に耳打ちをした。
「…シズちゃんの事、気になるんでしょ」
コイツ殴る。
私もコソコソと返答する。
「なんでそんなに静雄さんを推薦してんの?」
「いいじゃないか。
『君の趣味の対象』としてもね」
……趣味…の。
改めて静雄さんを見つめる。
長身で金髪。細身だけど貧弱とかじゃなくて、筋肉質。
今はサングラスを外していた。顔も整ってるし…芸能人で言えば羽島幽平に似てる。
…………うん。実は凄くタイプ…だ。
普通にカッコイイし。
や。でも、そんな。
ねぇ…?
「マリア、お兄ちゃんに教えなさい」
「黙れやお兄ちゃんv」
横から出てきた兄を飛ばし、私はまたチラと静雄さんをみた。
静雄さんと目が合う。
うわ。…恥ずかしいかも…。
兄が不機嫌そうに私を見ている。
身内が近くで見てるのって嫌だなぁ…。
私は…。私はどうなんだろう。
「好き、なんでしょ」
背後の臨也に今度こそパンチを入れる。
まぁ、かわされたけど。
私……。
「ちなみにシズちゃんは彼女いないもんねーw」
「てめぇもだろうが!!」
この人、すぐ切れるし。
でも見ていたら、なんだろう。
緊張…する?
顔が赤いのも、胸がドキドキするのも、全部全部気のせい!!
気の…せい?
「静雄さん…?」
「あ?」
臨也と話していて不機嫌な静雄さんが私に向く。
でも喧嘩していても私が呼べばこっちを向いてくれる。
やばい…ドキドキする。
――そっか、私。
「あの……私…静雄さんの事――」
兄が飛び出そうとするのを横に近寄った臨也が止める。
「なんで止めんの! 妹が筋骨隆々な静雄に…!」
「マリアちゃんの初恋でも応援したげなよ」
会話が聞こえてっぞ。まぁ、無視。無視。
静雄さんを見上げると彼の顔も赤い気がする。私の顔もきっと、赤い。
でもわかったんだ。この想いがなんなのか。
「私…静雄さんの事――――『解剖』したいです!!」
「…………は?」
静雄さんの呆けた顔。もう…それすら愛しい『観察対象』だ。
「自販機を投げられるくらいの筋力の筈なのに、そんな細身だなんて。
常に火事場の馬鹿力が働いているんでしょうか? でも筋肉の損傷もあるでしょうし。
――もう、なんていうか、私のタイプな『実験台』なんです!」
「はぁッ!? 知るか!!」
切れるタイミングがわからなかったのか、中途半端に怒鳴る静雄さん。臨也が嘲笑いながら私に向いた。
「いいよ、マリアちゃん!! これだから人Love!
マリアちゃんがシズちゃんを解剖してくれれば俺も幸せ、マリアちゃんも満足!」
「………だから妙に積極的だったんだね、臨也」
兄が私と静雄さんを見比べながら呟く。
私はドキドキしながらも静雄さんの腕に絡み付いた。
「静雄さん! 私と付き合ってください!!
よかったら、私の家に来て、観察させてください」
「なんで観察とか実験台とか何だよ!?」
「俺の妹に文句あるわけ? そんなのは言語道断、許さないから。
ちなみに言うと静雄に拒否権ないから。
マリアが一緒に住みたいと言うなら同棲を兄は認める」
「ホント? 兄貴が今だけ好きになった!」
「認めんなー!!」
叫ぶ静雄さんに腕を絡めたまま、彼を見上げ笑う。
「私も静雄さんのタイプな女の子になれるように頑張ります!」
「頑張る…って」
悩むように静雄さん。
少し黙ったあと、静雄さんの手が私の頭に乗った。
「頑張んなくていい。
ただ『実験台』じゃなくて『恋人』だと思ってくれんならな」
「うっわ、静雄、甘い!」
「てめぇに言われたかねぇよ、新羅!!」
怒鳴ってはいるが怒ってはいない。顔の赤い静雄さん。
でも臨也が出て来るとまぢで切れちゃう。
「ちょっ、静雄さん!!」
私がまだくっついてるのに暴れないでよ!
私は兄を睨み「どうにかしてオーラ」を飛ばす。
すると兄は笑いながら静雄さんに声をかけた。
「僕の妹に怪我させたら今度から治療しないからね。
あと俺の家で壊した物も全部支払ってもらうから!」
「…う」
静雄さんが1度止まる。
どれだけ兄の家を破壊してるのか気になる。
「静雄さん、ご飯食べに行きませんか?
兄貴と臨也も」
「マリアちゃんとのご飯は凄く魅力的だけど、メンバーがねぇ…」
「マリア、コイツだけは呼ぶな。ぜってぇ呼ぶな」
「マリア、店を破壊させるつもりかい?」
「何? 文句あんの?」
大の大人3人が情けない。
「もちろん兄貴の奢りね」
「しかも勝手に! 誰に似たの!?」
「兄貴に決まってんでしょ。自業自得ね」
「マリアの事は順風満帆に育てたでしょ」
「自意識過剰よ。私だってただ不満不平を言ってるわけじゃないの」
「……ホント、兄妹だよね。君ら。話し方がそっくりだ」
臨也が呟く。静雄さんも私達の会話を聞いていた。私は兄の腕を引く。
「とにかく! ご飯食べよ?」
「………わかったよ。ただし、僕だけが外食なんてできない。セルティも呼ぶから」
「セルティさんと知り合いなの?」
ライダースーツの格好のいい男の人だった。そんな人が兄と知り合いだなんて。
「セルティ? 彼女、俺の家に住んでるだよ」
「ッはぁ? 何で?」
「何でって…。うん、『夫婦』だからね☆」
「はぁッ!?」
何ソレ!? 兄が男の人と!?
「セルティは女の子だよ?」
私の心でも読んだのか兄が首を傾げる。
でも、え? えぇ?
「彼女いないって言ってたじゃん!!」
「彼女はいない。嫁はいる」
「ば、ばかぁー!!」
頭がショートしそうだ…。
いつのまにかお義姉さんがいたなんて…?
「マリア、大丈夫か?」
私の顔を覗き込む静雄さん。心配そうに、呆れたように。
「……駄目かも知れません」
「しっかりしろよ?」
私の頭に手を置いて、にやと笑う。
――今日からこの人が私の恋人。
「じゃあ露西亜寿司に行こー?」
「気に入ったのか? あそこ」
「はいッ。凄く美味しかったですから」
「俺は遠慮。シズちゃんがいるなんて最悪」
「さっさと死ね、ノミ蟲」
「臨也も行こうよ。また人間ついて話そうよ」
「そうだ、なんでノミ蟲と知り合いなんだ?」
「痛い痛い痛いシズちゃん痛いって!! 手首曲がってる! 曲がってる!」
「趣味が同じなんです。
私も臨也も『人間』が大好きですから。
ただ、臨也は内面的な部分が好きで、私は肉体的な部分が好きなんです」
「……」
「…ッ痛いなぁ…もう」
「あ。静雄が聞かなきゃよかったって顔してる。
俺の妹なんだからこういう趣味があっても矛盾はないしょ?」
「てめぇが教え込んだのか?」
「怒らないでよ。僕じゃなくて『父さん』が悪いんだって」
「「…あぁ〜」」
「………森厳の話しなんかしないでよ。あいつ…ッ」
「マリア、父さんが嫌いでずっと住んでたネブラから抜けて一人暮らし始めたんだ」
「森厳の話しなんかいいって! 早く行こう!」
私は静雄さんの手を握って走る。
「静雄さん、あとでいっぱいお話しますから」
「ん。おう」
彼が私の恋人。恋人であってやっと手に入れた『実験台』。
私は笑って静雄さんの右頬に精一杯背伸びをして軽くキスをした。
真っ赤に染まる静雄さんと、真っ青に変わる兄。
2方向からの騒ぎを笑い飛ばしながら私は静雄さんに絡んでいた。
これは恋の物語。歪んだ恋の物語。
――――――歪んだ私の、歪んだ恋物語。
(あいつの妹)