【性格の悪い恋】(臨也)

「今日、新羅んとこで鍋すんだけど…来るか?」

最初にマリアをそう誘ったのは同級生だった平和島静雄。

しかもマリアは岸谷新羅とも友人だったため、2つ返事で静雄について行った。

で。彼女は今の状況になっている。

数人が鍋に向かいがっつきまくっているこの状況に。

どちらかと言えば小食であるマリアは最初の内、鍋のまわりにいたが、後は少し後ろで傍観者になっていた。

1人で黙っているのも飽きたのか、マリアはたたたと友人2人の間に向かった。

ちゃっかりと間に座り、静雄の皿に野菜を盛る。

「平和島、門田。固まってるけど?」
「マリアか。いや固まってる訳じゃねぇよ。
 つか、勝手に野菜増やすなっ」
「あたしが食べるからいいの。
 男2人が黙々と鍋突いてたら怖いからお姉様が来てあげたのでしょうに。
 というか平和島は誘っといてあたしを放置しないでよ」

マリアは静雄に愚痴。静雄は軽くマリアにたじたじだ。だが、マリアはたいして気にしている様子はなく門田へと視線を向ける。

「というか久しぶりよね。平和島に門田に岸谷が集まるのは」

マリアはあえて1人の名を伏せたが、静雄が暴れださないためにも必要な事だった。
門田は肉を口に運びながら答える。

「まぁ…そうだな。
池袋で会うには会うが、集まって鍋。とまではいかないしな」
「岸谷も知り合いが増えたわねぇ…。
 来神の時はあたし達以外に友達いるのか不安だったのに。
 なぁーんかライダーさんと遂にいい関係だし」

マリアはソファで話し込んでいる新羅と、隣にいる「首なしライダー」を見た。

「なんか岸谷だけリア充ね。
 門田も平和島も彼女いないみたいだし。あたしもいないし。
 あ、平和島は未来永劫いなそうよねー」

と門田に向くマリア。静雄はムスとしてマリアの額に無理矢理デコピン。それをマリアは必死に避ける。

「止めてよ。死んじゃうわ」
「デコピンで死ぬわけないだろ」
「それが平和島以外ならね。
 平和島だったら、か弱いあたしは死ぬ。ばったりよ」
「はぁ?」
「いや、静雄…。マリアの言い分の方が正しい」

門田が呟き、静雄は首を傾げた。

マリアは懐かしいこの会話を楽しみながら、鍋を突く事を再開した。


†††


知り合いに誘われたチャットルーム。

鍋集会の後、マリアはそこに『はなちゃん』というハンドルネームで入っていた。


田中太郎【そういえば今日、知り合いと鍋を囲んだんですよ】

セットン【偶然ですねー、私もですよ】

はなちゃん【あら奇遇。あたしもですわ】

甘楽【ええっ!? お鍋? こんな時期にですか!?】

狂【あら、偶然ですわね! 私達も本日はしゃぶしゃぶを楽しませて頂きましたの!】

参【美味しかった】

はなちゃん【あらあら。今日は池袋の鍋日でしょうかw】

参【内緒】

田中太郎【?】

バキュラ【俺も女の子と、二人きりでスキヤキを食いに行ったんですよ】
  【ほら、知りませんか?】
  【1500円ぐらいで食べ放題になるスキヤキのお店】

田中太郎【あー、チェーン店でありますよね!】

はなちゃん【あたしも好きですよ】

罪歌【おなべ、せっとんさんとたべました。おいしかったです】

甘楽【まったくもー、みんな季節感なさ過ぎですよッ?】

甘楽【鍋物なんて、冬にだけ食べてればいいんですから!】


そのまま【今日は寝ます☆】と出ていってしまった管理人。

マリアは苦笑しながら、ある場所へと電話をかけた。


「んーー。『折原』? 元気?」

鍋に呼ばれなかった来神の余った1人、折原臨也に。

〈元気…ってさっきチャットルームに来てたじゃん、はなちゃんさん?〉
「いや、甘楽ちゃんがさっさと寝ちゃうから、風邪かと思って」

マリアは笑いながら自室のベットにダイブ。
お腹はいっぱい。鍋がまだ残っている。

電話越しの臨也は明らか不機嫌そうだ。

〈……鍋。したんだって?〉
「えぇ。岸谷の家でね。平和島と門田とかも呼んで。15人ぐらいで」
〈………〉

黙る情報屋。マリアは喉の奥で笑った。

「来たかったんだ?」
〈さっきも言ったけど鍋なんて冬にすればいいじゃないか。季節外れもいいとこだよ。暑いじゃないか。ゴールデンウイークに鍋なんて〉
「はいはい。
 貴方、鍋の準備してるなら片付けなさいよ」

マリアは微笑みながら言う。電話越しに何か重いものを置く音。

〈じゅ、準備なんてしてないってば〉
「はいはい。わかったって。
 1人鍋したいなら別だけど、明日折原の家に行ってあげるから、迎えに来なさい」
〈……どういう意味?〉

マリアは聞こえるように溜め息。臨也が黙った。

「このマリアちゃんが2日連続鍋に付き合ってあげるってゆーの。
 ただし安い肉だったら許さないから。牛用意しなさいよ、牛。
 あとお酒。学生がいて飲めなかったの」
〈……いやいや、鍋なんてしたくないもんねっ?〉
「意地張るのはいいけどバレバレよ?
 じゃあ明日。夕方5時ぐらいに駅前にいるから。
 あたし、お金持っていかないから。地下鉄代は折原が出しなよ」
〈いやいやいやどんなお嬢様だよっ〉


「切りやがった…ッ!」

ちゃっかり準備していたカセットコンロの前で、臨也は自分の携帯を睨んだ。

助手の波江に用意させた、野菜や肉達と携帯を交互に睨む。

考えたようで、実際は余り考えずに、臨也は折角準備した鍋達を片付けた。


†††


「………あいつ、迎えに来るかなぁ…?」

マリアが呟く。

「あーあ。あたしも優しいわねぇーっ」

ごまかすようにマリアはベットに潜り込み、目を閉じる。

ごまかしたのは、赤くなった自分の耳。


†††


5時。正確には16時58分。マリアは駅前で突っ立っていた。

(……来んのかな。折原)

マリアはちょっぴり不安。がその不安はすぐに解消された。

「会うのは久しぶりだね、マリア」
「折原。………あんた…暑苦しいコート着てるのね」

やって来たのは黒ふわもこコートを着た臨也。
マリアは呆れたように言い返した。

「会っていきなりそれ?
 鍋奢らないよ?」
「別にいいわよ。このまま帰るから」
「………準備だけは済ましてる。家に着いたらすぐ出来る」
「いい子ね、折原」

クスクスと笑うマリアに、臨也は呆れたようにマリアの手を引いた。

「ホントどこのお嬢様だって」
「いいじゃない。20越えの1人鍋を阻止してあげてるんだから。
 お酒は?」
「チューハイを買ってきました。満足?」
「上出来」

マリアは心底満足そうに臨也の腕に自身の腕を絡めた。臨也は驚いたようにマリアを見る。

「何す」
「行くわよ、折原! お酒が私を待ってる!」
「ちょっ」

臨也の声を遮り、マリアはたたたと走り出す。


†††


「うん。いい肉ね。さすが折原」
「黒毛和牛を準備いたしましたよ」
「いいね」

マリアは楽しそうにジャケットを脱ぎながら鍋の前のソファに座る。
用意されていたグラス2つにチューハイを注ぐ。

「折原、早く。乾杯するよ」
「鍋の前で?」
「冷めてんじゃないわよ。はいカンパーイ」

まだ立ったままの臨也にグラスを握らせ、なかば強引に乾杯をすませる。
マリアは鍋に野菜を入れはじめた。そしてまだ座らない臨也に視線を向ける。

「? 早く座んなさいよ。
 それとも、実はもう夕食食べてました女の1人鍋をどうぞ。ってゆーなら、顔面ぐーで殴るけど」
「マリアって手が早いとこはシズちゃんに似てるよね…。
 じゃなくて。そこ、俺の定位置なんだけど」

そういって臨也はマリアの座る場所へと指を向ける。
マリアは顔をしかめた。

「細かい男ね。どこでもいいじゃない」
「……客人のくせに!」
「客人だからよ。第一、あたしをどこに座らす予定だったのよ」
「反対側」
「もう1度言うわ。細かい男ね!」

ちなみに反対側には同じソファが置いてあるだけで、マリアには何が違うのかわからない。
大人しく移動しようとしたマリアを止めて、臨也は座った。

マリアの足元。つまりはソファとテーブルの間のフローリングに。

「そんなにこっち側がいいのか!」
「うるさいなぁ。俺の定位置だって言ってるでしょ。
 あ、もう肉の入れ時かなぁ?」

と、野菜に手を付けずに肉を投下する臨也。
呆れたマリアは黙って彼が手を付けない野菜を口に運んだ。

「そこに座るのはいいけど………あたしの方見ないでよ」
「誰も見ないよ」
「うっさい、折原うっさい!」

げしげしと臨也を蹴るマリア。臨也は、はいはいと呟きながら無視。

「で、聞きたくないけど聞いてあげる。
 何で振り返っちゃ駄目な訳?」
「……――から…」
「? 聞こえないんだけど」
「だからっ…私、スカートだって…だから…」

臨也はふーんと楽しそうに相槌を打った。臨也からは見えないが、彼女の顔はきっと深紅だと思う。

「で。下着は見られたくないと」
「馬鹿死ね! ハゲろ!」
「ちょっと待って。そんなに言われなきゃいけない訳?」
「デリカシーないのよ、あんたは!」

苛々しながらはマリアは鍋に手を伸ばす。
間に臨也がいるから邪魔っていうか邪魔だ。

「……なんであたし、こいつの家まで来て、こいつの頭見ながら2日連続鍋やってるんだろ…」
「そういう定めなんじゃない?」
「とりあえず折原は黙れ」

もうこうなったら飲むしかない。

マリアは何時もより早いスピードでチューハイに手を伸ばしていた。


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