「鍋の〆はリゾットでしょ。てことで、折原、ご飯とチーズ」
「いやいや。まだ食べんの?
 マリアが予想外に食べないから、俺が2人前近く食べてるのわかって!?」
「ご飯とちーず! ちーずないなりゃ、きむちとかでもいいよ」

酔っているのか口の回らないマリア。
臨也は溜め息をついた。立ち上がり冷蔵庫をがさがさ。

「チーズってなんでもいいの? さけるチーズとかしかないんだけど」
「馬鹿! チーズ舐めんにゃ、ここはせめてとろけまくるチーズ!」
「とろけまくるって……マリア、お酒ストップ」

臨也はリゾットを中止し、先にマリアを止める事にした。
チューハイを取り上げ、顔の赤いマリアを寝かせようとする。

「はい終わり。今日はごちそうさま!
 一旦寝なよ、マリア。終電前には起こしてあげるから」
「まだリゾット…」
「リゾットは今度。寝なさい。つか寝ろ!」

バタバタと暴れるマリア。臨也は呆れながらマリアを抑える。

「大人しくしなって」
「やっ…折原、変態!」
「何の言い掛かりさッ!
 いや、もう変態でも何でもいいから寝ろ」

面倒臭くなって臨也はマリアを抱える。
素敵で無敵な情報屋さんだって細いけど男の子! マリアぐらいだったら抱えられた。

「やっ…、ぁ…ちょっ…降ろしなさい…っ!
 折原馬鹿っ! 変態! シスコン! 平和島に潰されろ…ぉ…」
「マリア、起きたら覚えときなよ?」

口元の引き攣る情報屋さん。

乱暴にマリアを寝室のベットに投げた。
ついでに黒ふわもこコートをマリアにかける。

「…? ベット…? 折原の?」
「そーだよ。1人暮らしだからね。
 はい、寝て。今すぐ寝て。黙って。片付けは俺がするから。酔いを覚まして。じゃあ俺は片付けてく」
「ヤダ」

畳み掛ける臨也をマリアが止めた。
ベットに寝転がりながら臨也の手を掴む。

捕まった手を見つつ、臨也はマリアに話し掛ける。

「ヤダって何? 俺はお嬢様が散らかした部屋を片付けたいんだけど?」
「……折原はここにいなきゃダメなの」
「いやだから何で…?」

臨也は怪訝そうにマリアを覗き込む。
マリアは頬を酒で紅潮させて臨也を見ていた。

「内緒」
「…………」

臨也は黙る。黙る。黙る。

別に顔を染めるマリアが可愛らしいとか握られた手が汗ばんできたとかそういやこの家の中で2人きりなんだとか気にせずにかけた上着は実は臨也のだったとか臨也のコートに埋もれてる彼女が綺麗に見える。

とかじゃなくて。

「とかじゃ…なく…て」

呟く臨也。マリアは小さく笑っていた。

「折原のコート…暖かい…」
「…それ、君が会っていきなり暑苦しいって言ったコートなんだけど」
「じゃぁ…前言撤回…してあげ、る。
 この、コート気に入った」

笑うマリアは完全に酒が回っているらしく。
臨也は溜め息をついて、諦めたようにベットの側に座った。

頭を撫でてくるマリアにも我慢して溜め息をついた。


†††


「ってヤバい。マリア、起きて、終電来ちゃうし」

暫くぼんやりしていた臨也は意識を覚醒させる。寝息の聞こえるマリアの肩を叩く。

彼女はゆっくり瞳を開けた。

「……折原…?」
「マリア、終電来るよ。駅まで送ってあげるから」
「ヤダ、寝る」
「今度は寝るかよ! マリア、ほら」

臨也はマリアを見る。マリアは臨也の手を掴んだままだった。

「………帰んの…ヤダ」
「何いってんのさ、20越え」
「……嫌って、いってんの…」

ふぅとマリアが溜め息。

「いやいや俺が溜め息つきたいよ!」とまでは言わない。変に反論すればマリアという女は、すぐ顔面ぐー。で黙らせる。

来神にいたときも何かあれば小突かれた。

「マリア」
「………いざや」

臨也の思考がフリーズ。

いやいやいやいや。今、何て言った?
な、名前よび…?
会ってから数年可愛いげもなく折原と呼び続けたマリアがっ!?

フリーズというかパニック。情報屋さんのキャラじゃありません。
マリアはふわと欠伸をした。

突然。

ぎゅう(正確にはガシッ)とマリアは臨也の髪を引っ張った。

「ちょ、痛い痛い痛いっ、地味に痛い、引っ張るとかない!」
「うるさい」
「間違いなく君がうるさくさせてます!」
「……マリアって呼びなさいよ…」
「…マリアって人を苗字で呼ぶくせに、自分は名前呼びされたいよね」
「…………別に苗字でもいいけど…」

マリアは呟く。臨也からは酒が抜けたのか抜けていないのかもわからない。

「『臨也』はあたしを名前呼びしなきゃダメ」
「………」

慣れないマリアからの『臨也』に戸惑う。
何故戸惑うのかわからないが戸惑っていた。

「あと、今日あたしは帰りたくないの。それと臨也はここにいるの。手は離しちゃダメ。明日の朝はフレンチトーストとココアがいいの」
「マリア…1つ聞いていい?」
「何?」
「もう酔ってないでしょ」
「うん」

頭をペシ。小さな音が響いた。

マリアがコートを抱き寄せながら文句を言う。

「痛いんだけど」
「そんなに痛くないくせに。
 ちなみに俺の方が絶対痛い。髪抜けそう」

マリアはまだ右手に臨也の手、左手に臨也の髪を握ったままだ。

マリアはその両方を離した。
臨也が汗ばんだ手を振る。

「はぁ、やっと解放された―――っあ?」

手を離したマリアは今度は臨也の首に鎌かけた。
不意打ち過ぎたのか臨也はバタとベットに座り込む。
倒れるとまではいかなかった。

「何すんのさ!? しまいには怒るよ!?」
「臨也のばーか」

マリアが膝立ちでベットの端に座らされた臨也の背に抱き着いていた。

「え。どういう状況?」
「うっさい黙っちゃえ。黙ってればいいのに。黙ってれば」

マリアの声は臨也の背に埋もれたまま聞こえる。

「………」
「………」
「…………マリアさん?」

黙り込むマリアと臨也。我慢出来なくなって臨也が話し掛けた。

「…………今日泊まる」
「いやだから、駄目だよそれこそ!」
「泊まる。……おりは…臨也の家に」

言い間違えたのか訂正するマリア。
マリアの我が儘にはぁと溜め息をつく臨也。

突然マリアがぎゅうと首にかけていた腕を締めた。
もちろん臨也の首が締まる。

「はぁっ!? ちょ、マリア! ギブギブ!」
「………」
「無言とか怖いし! 何これシズちゃんの差し金!? 締まってる締まってる! さっきからどうしたの!? 風邪か!?」
「…………―――き」

ばったばった暴れる臨也が、マリアの言葉に止まった。

「え? は?」
「臨也……」

マリアの力が緩み、優しく臨也を抱きしめていた。

「臨也…『好き』…」
「え、は、まぁ、どうも」

人を全部を愛すが、直接的な好意に慣れないのか、臨也はとっさに答えていた。
マリアが吹き出す。

「あはは、どうもって何ソレもうちょっと何かあるでしょ、あはは」
「な、何。
 そうか遂にマリアもこの素敵で無敵な情報屋さんに恋したのか。うん、嬉しいよ、マリア」

笑われた事で何時もの調子が出て来たのか、臨也が笑いながら返す。
マリアは微笑みながら臨也を抱きしめていた。

「うん。あたし馬鹿だね。よりによって自分で素敵とか言っちゃう痛い子を」
「それ褒めてないよね」
「…………折原はずるい。そんな綺麗な顔して…。人間全部愛してるとか病気的なこと言って。
 馬鹿。馬鹿。折原の馬鹿。
 あたしの健気な恋心返せ」

けなしているのか何なのかわからないマリア。
臨也はとりあえずマリアの腕から逃れようと立ち上がろうとする。

意外とあっさりマリアの腕は離れた。臨也は拍子抜けすると共にまだ座っていれば良かったと頭のどこかで思う。

「マリア、?」

マリアは変わりに臨也のコートを抱きしめていた。
肩が震えている。

「マリアさん…ちょい? 泣いてるとか言わないでね?」
「……もちろ、ん。」
「ほ、ほら、素敵で無敵で格好良い情報屋さんは人間全部愛してるよ人LOVEさ! マリアのことも愛してるよ」
「そっか…。愛してるんだ。
 …『全部』ね」

マリアは肩を震わす。臨也は真っ直ぐにマリアを見る。

「地雷踏んだ?」
「情報屋さんはあたしの情報に疎いのね」

マリアの言葉に臨也は黙った。

「人間全部スキとか……女の子も全部スキなんだ。
 たらし」
「……………マリア」

臨也はマリアの隣に座り、マリアを見る。体育座りをした彼女の顔は見えない。肩はまだ震えていた。

肩は震えてるくせに声はしっかりしているんだから、彼女の意地っ張りな性格が伺える。

「……何よ、折原」
「マリア、また苗字呼びになってる」
「いいじゃない…。慣れないんだから」
「俺は臨也って呼ばれたい」
「何ソレ。あたしに期待させる気?」
「………期待していいよ」

臨也の呟いた言葉にマリアはばっと顔を上げる。
涙目で赤い顔で。マリアは臨也を見た。

臨也は笑っていた。

吹き出すのを堪えるような、ニマニマとした笑顔で。

「………………折原、死ねー!!」
「遂に来たよ、マリアのその反応!
 しおらしく女らしい君なんてまずありえない!」
「死ねっ! 平和島来てぇ! ここにノミ蟲が!! 折原なんて死ねばいい! ぼっち!」
「今はどんな言葉も受け入れるよ。
 あぁ全く、マリアが落ち込んでるなんてありえないからね!」

臨也は散々マリアを笑ったあと、寝室から出ていこうとする。

「ほら、ぐたぐたやっているうちに終電の時間、過ぎちゃったじゃないか。
 ………仕方ないから泊めてあげるよ」

扉の近くで臨也は笑う。
マリアはぎゅうと臨也のコートを抱きしめて、臨也を見ていた。

「マリアはもう寝なよ?
 というか煩いから寝ろー」

出ていく彼の背中に枕が激突。
笑いながら臨也は離れていく。

マリアは黙ってコートを抱きしめていた。

「……折原の匂いするし…。
 どことなく香水くさいのが腹立つ!」

顔をしかめるマリア。

「………やっぱ折原はあたしのこと嫌いなのかな…」

コートを離すことはなく。
臨也のベットで朝までぐっすりと寝た。


†††


隣の部屋の折原さん。

鍋の前の定位置で膝を抱えて座っていました。

(何アレ何アレ何アレ何アレッ!?)

パニック!

(…………マリア…。……ガラじゃないのに…
 ……可愛らしいとこもあるじゃん…)

折原さんの顔は真っ赤でした。


†††


次の日。

マリアが目を覚ますと臨也が同じベットで寝ていたり。

真っ赤になりながら固まっていたら「だって定位置だもん」と言われてマリアがぶん殴ったり。

調子に乗った臨也がマリアを抱きしめようとして脇腹をぶん殴られたり。

出勤してきた波江に「お邪魔だったかしら」と言われて2人が何処か慌てて説明したり。

事情を説明したら「黒バイクを使ったら駅じゃなくても良かったんじゃない」と言われてマリアは「あ」と呟いたが臨也はそんなことには気付いてたり。

朝から騒いで、マリアは玄関に立っていた。後ろには臨也。

「はぁ…疲れた」
「マリアも疲れたろうけど俺は散々だったんだからね?」
「はいはい」
「また鍋する時は呼ぶから」
「はいはい」
「その時は泊まる準備もしておいでよ」
「はいは…。はい?」

びっくり顔のままマリアは臨也に振り返る。
臨也は笑いながらマリアの頬にキスした。

「―――っはぁっ!?」
「何驚いてんのさ。昨日言ったでしょ?
 『期待していい』って」

マリアはパクパクと口をぱたつかせる。
臨也はニコニコと笑っていた。

「何? 口動かして。
 口にチューされたかった?」
「―――――っ!!!」

ボスッと鈍い音がして臨也がドサと肩膝をついた。

「ちょ…えぇー?」
「馬鹿折原馬鹿馬鹿折原の馬鹿!!」

顔を真っ赤にしたマリアが玄関から飛び出す。
ダメージが大きいのか臨也は立ち上がらない。

「何やってんのよ。あなた」
「…………『彼女』の照れ隠しに付き合ってる」

臨也は呟いたあと笑みを作る。

「俺の可愛らしいマリアだよ」

笑う情報屋さんはマリアを思い浮かべながら。
次はどうやってからかってあげようかと思いながら。

「愛してるよ、マリア」

「気持ち悪い」と直後罵倒されたりして。


†††


「マリア、はい。プレゼント」
「え、あ。あ、ありがとう…。でも何で?」
「俺の彼女になってくれたから」
「っ、な、何さ! ……ゆ、指輪…?」
「左手の薬指に嵌めてあげるよ?」
「―――――っ!?」

(馬鹿馬鹿…なんで好きになったんだ、あたし!!)
(恥ずかしがるのがいいよね)


そんなこんなで仲良し?なカップルが出来ていた。

臨也があんまり池袋で、恥ずかしがるマリアを追い回すものだから、静雄が出て来て暴れたりするのは。


また別の話。


(性格の悪い恋)


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