【運び屋セルティの苦悩】(静雄)
運び屋セルティは人ではない。
デュラハンと呼ばれる首無し騎士だ。
人外であるが故に人を愛することに疑問を持った時もある。
だが、今はそれすらも乗り越え相方の岸谷新羅とよろしくしていた。
仕事をこなしつつも、人間よりも人間のように。
セルティの日々は充実していた。
†††
「セルティ、私に『愛』を運んで!」
そして突拍子もないことを抜かしたのは今回の依頼人であるマリア。
セルティはお気に入りの黄色い猫耳ヘルメットを被ったまま、友人であるマリアにPDAを向けた。
『……は?』
彼女は「…」まで使いつつ、明確に自分の困惑を向けた。
だがマリアの瞳は真剣にセルティを見つめている。
ちなみに彼女らは今、岸谷宅だ。
2人きりでガールズトークしている最中。
マリアが軽く頬をそれながらセルティの両手を強く握っていた。
『マリア、意味がわからない。もう1度お願い』
「だから『愛』を運んで欲しいの!」
『だからそれがよくわからない!!』
真剣なマリアはセルティの手を握りながら必死に伝える。
「あのね!? 私、恋をしたの。
電撃スパークビリビリって感じだった……」
何やらツッコミたい単語が聞こえたが、セルティはぐっと我慢。
マリアは甘い過去を思い出すように空(天井)を見つめている。
「一目惚れって言うのかな…? すれ違った瞬間に彼の事ばっかり考える自分がいるの…
でもね。私は彼のこと、よく知らないし…、彼も私を知らないと思うの。
だからセルティに彼との引き合い人になって欲しくて…。というか何か案が欲しかったの!」
マリアは必死にセルティに迫る。
セルティはその無表情の中に困惑の雰囲気を醸し出した。
「セルティ、お願い…。あの人が私、好きなの。
あの人に彼女とかいるなら諦めるから。
セルティなら新羅さんといい感じだから何か案、持ってそうだと思って」
『……………わかった。マリアの頼みだし…断れないよ』
優しいセルティの言葉にマリアは飛び上がるように両腕を突き上げた。
「ったー!!! セルティ大好き! ありがとう!!」
『わかったわかった。とにかく落ち着いて…。
で、その彼の名前は? わかる?』
セルティは出来るだけマリアに協力しようと微笑む。
ニッコニコとマリアは優しく声を上げた。
「平和島静雄さん!」
『辞退させてくれ』
即興で打ち込んだPDAを向けながら、先が思いやられるセルティだった。
†††
『とりあえず静雄はこの時間取り立てに行ってる筈だから。
この辺にいれば見つかるよ』
「まさかセルティが平和島さんと友達だったなんて。
世界は狭いね」
セルティはマリアをシューターの後ろに乗せ、池袋の街を走らせていた。
シューターに慣れないマリアはセルティの背中にしがみつきながら、優しく笑う。
『本当にな…。
静雄は良い奴なのはわかるけど…一目惚れって…』
「バーテンダーさん超格好いい」
『はいはい』
「あ、セルティ。平和島さんって何が好きなのかな?」
『………プリンとか?』
「何それ可愛い!!!!」
これを皮切りにマリアは次々とセルティに静雄への質問を浴びせる。
セルティははぁと溜め息をつきながらシューターを走らせていた。
と、目の前に突然、自販機が空に舞う。
2人は顔を見合わせたあと叫んだ。
「平和島さんだ!!」
『静雄!』
シューターの方向を変え、自販機の舞い上がった場所へと向かう。
近づく度に騒ぎ声が大きくなり、マリアは胸を驚かす。
そして再び自販機が舞い上がると共に、そのバーテンの魔神の姿が見えた。
シューターを傍らに止め、マリアを下ろすセルティ。
頬を赤らめるマリアを見ながら静雄に話し掛けようとすると、彼の怒声が聞こえた。
「だーかーらーっ!? 何が一目惚れだぁ!?
んな甘ったるいこと言いながらキャバクラ通いか!?」
『し、静雄。落ち着いて』
「あぁ!? ………セルティか。悪い…やなとこ見せた」
見知った人影に急に大人しいバーテンダーに戻る静雄。
セルティはほっと肩を撫で下ろす。
『会わせたい奴がいてな……』
と、マリアに振り返ると彼女がいた場所には風が吹き抜けるばかり。
跡形もなく彼女は立ち去っていた。
『え!?』
「セルティ、会わせたい奴って?」
首を傾げる大人しい青年に何と言おうか。
人ならざる彼女はどうしようかと肩を竦めた。
†††
マリアはぽつりと歩いていた。
「………一目惚れだっていいじゃない…」
『だーかーらーっ!? 何が一目惚れだぁ!?
んな甘ったるいこと言いながら―――』
頭に響くのは先程の静雄の声。マリアには心痛い言葉である。
「惚れちゃったんだもん…ぐすん…いやーん…」
目元を擦りながらマリアはとぼとぼと歩く。
その背を引き止めるように馬の鳴き声が響き渡った。
『マリアー!?』
「あ、セルティ…」
『あ。じゃない! どうして急にいなくなったんだ?』
マリアの傍らに止まり、セルティは必死な動きでPADを突き付ける。
マリアは肩を落とし、ぐすぐすと目元を擦る。
「だってー静雄さん『一目惚れだー!?』って怒鳴ってた…」
悲しそうなマリアを慰めるように優しく肩を叩いて、首無しは微笑んだ。
『心配することないよ。
今日は一旦、家に帰ろう。今度また静雄が休みの日に会いに行こう』
†††
次の日。
セルティは静雄に呼び出されていた。
―――なにこの状況…!?
マリアは自分の家に帰っている。
会うならマリアを呼べばよかったと心底思うが、そうも言ってられない。
目の前の静雄は何処か真剣だ。
『そ、それで静雄どうした?』
「………トムさんには相談出来なくてな」
『相談? 悩み事か、静雄』
静雄は少し黙ったあと意を決してセルティへと向いた。
「…暫く前にさ、その、一目惚れしちまったんだけど―――」
『……何だか嫌な予感がするけど最後まで聞かせてくれ』
「? いや、その俺、一目惚れとか初めてだし、すげぇもやもやしちまって…。
出来ればセルティに何か助言して貰いてぇな、と」
俯く静雄にセルティは嫌な予感を拭い切れぬまま、PADを彼に向けた。
『ちなみにその子の名前は?』
「マリアっつーんだけど――」
『待て待て待て待て待て待て待てma
私、必要あるのか? これ』
頭を抱えるセルティに静雄は首を傾げる。
†††
マリアの家。
「………静雄さん…」
はぁと溜め息をつくマリアは1人暮らしの家の中でぼんやりと本を読んでいた。
内容は頭に入らず、静雄の事ばかりが頭を過ぎる。
そこで軽快な電子呼び鈴が鳴り響いた。
マリアは首を傾げながら「はーい」と玄関に向かう。
そこには首無しライダーである友人の姿。
マリアは笑顔を向けながら扉を開けた。
「セールティ♪ どうしたの?」
『愛を持ってきたよ、マリア』
そういって後ろを指差すとセルティの影で作ったと思わしき黒い箱が。
マリアは首を傾げながらも影BOXを部屋に入れるセルティを見つめる。
「え、あ、セルティ?」
『仕方がない。今回の依頼は果たしたからな!
あ、あと絶対私は責任とらないからな!』
何というか無責任な言葉を投げ捨てるセルティは影BOXを置いたあと、そそくさとマリアの家から出て行った。
「………どうしたんだろ?」
呟くが気になるのは隣の黒い箱だ。意外に大きい。
マリアはゆっくりとリボンを解いた。
開けるとそこには。
不機嫌さを一面に表した池袋最強のバーテンが入っていた。
「へ、平和島さん!!?」
「おま、俺の事、知ってんのか?」
呑気に静雄は目を丸くしている。
箱に入った青年と箱を覗き込む少女は、些か性別を反転させた(売れない)ギャルゲーちっくだ。
「ぇ、あ、はい! と、とにかく箱から出ます?」
「あ、あぁ、わりぃ」
パニックに陥ったマリアは静雄の手を掴む。
静雄は少しふらとしたあと、立ち上がった。
その頭には名残のように影のリボンが揺れていた。
マリアはその可愛さに妙な悲鳴を上げそうになったが、そこは我慢する。
暫くの無言。静雄がゆっくり話す。
「わりぃな、いきなり。
んと…初めまして、だよな?」
「は、はい! 初めまして!
マリアと言います!!」
「俺は平和島静雄」
「……………」
「……………」
会話が持たない。
マリアは何処か慌てながらも、とにかく静雄をソファに案内しながら麦茶をいれる。
「……へ、部屋汚くてごめんなさい」
「いや、綺麗だと思う…。
俺の部屋の方がヤバいし」
「一人暮らしとかですか?」
「あぁ。片付けるの面倒でな」
静雄は言いながら何の話してんだ。と軽くパニックになるが、落ち着いたふりをする。
一方マリアも顔を赤くしながらパニックになったまま話を進めた。
「じゃ、じゃあ私、平和島さんのお部屋、お掃除に行きますよ!!」
「は?」
「私、掃除が嫌いなわけじゃないから…ッて私、何変な事!?」
口許を押さえて深紅に頬を染めるマリアに静雄もつられて頬を押さえた。
2人して顔を真っ赤にしたまま黙る。
ゆっくりと静雄が呟く。
「……マリアが、いいなら掃除に来てほしい」
「へっ?」
「……部屋とかかなり汚いけど、マリアがいいなら…」
「いいですよ!! 大丈夫です!! バリバリこいやぁって感じです」
拳を小さく握るマリアに静雄は笑みを零した。
「はは。面白しれーんだな、マリアって」
「…えへへ…テンション上がってしまいまして…」
笑いながらマリアは照れたように静雄を見る。
彼女にとっては夢のような時間。マリアは一世一代の勇気を出して、静雄に話し掛けていた。
「と、ところで静雄さんはどうして箱の中に?」
「ぁぁ…。今日、セルティに呼び出されてな…。
……お前に会わせてくれるっつーから」
「私? どうして…?」
静雄はそこで照れ臭そうにしながらもマリアを見て、小さく微笑んだ。
「好きな女だから会いたかった」
「!」
「………今度、部屋、来てくれよ?」
「ふぁ、ふぁい!!」
静雄に困ったように覗き込まれ、マリアはボスンと顔から火を出しながら何度も頷いていた。
それから2人が付き合い出すのはすぐ先の話。
†††
「セルティーっ おかえり」
『あぁ…。今日の仕事も凄く大変だった』
「僕のセルティが皆に好かれているということだね! いいのやら悪いのやら…。皆がセルティの良いところを見る事によって恋敵が増えたらどうしよう」
『…安心してくれ。私は新羅一筋だ』
「せ…セルティー!!」
『確かに私は運び屋だけど』
『運ぶのは形あるものだけにしてほしい』
(運び屋セルティの苦悩)