【いっぱい食べる君が好き】(緑間)
緑間真太郎は怒っていた。
時刻は放課後。夕暮れの赤い日差しが彼と彼女の2人を照らしている。
そんな中、緑間真太郎はその緑の髪に夕焼けを受けながら、ただ怒っていた。
今までも緑間は、彼女の『困った癖』を何度も止め、怒り、叱り、毎回も毎回も「もうしない」と約束させてきていた。
だが、今回、彼女はまたしても緑間との約束を破ってしまったのだ。
そして結局いつものように怒っている緑間の手前、マリアは落ち込んだ顔をしつつ、高身長な緑間を見上げていた。
マリアの手には誰もが見たことがあるであろう…大抵の学校には必ずある白いアイツがあった。
緑間は溜め息をつきながら肩を落としているマリアの手首を掴む。白いソレを見ながら、彼は詰問した。
否、詰問しようとした。
「真ちゃーん! 何、マリアちゃん虐めてんの?」
「高尾…」
「わー、高尾くんだー」
ただでさえお怒り状態の緑間真太郎の怒りメーターがまたひとつ上がった。
現れたのは緑間やマリアと同じバスケ部であり(マリアはマネージャーだが)、緑間とマリアと同じクラスであり、そして周囲から浮きがちの2人の友人である、高尾和成であった。
高尾の目には、自身よりもうんと小さな女の子の手首を掴んで、表情を厳しくさせている緑間の姿が映っている。
そんなことはないとわかりつつも高尾は「いじめかっこわるーいよ、真ちゃん」と緑間をからかった。緑間の表情が険しくなる。
「高尾。取り込み中だ。これは笑い事ではないのだよ」
「んー。ごめんなさーい、緑間くん。もうしないよー」
「お前はそういいながらも昨日も一昨日も、俺との約束を破ってるのだよ!」
怒鳴る緑間に、間延びした話し方をするマリアはきゅーっと身を固める。
そこで高尾は苦笑を零しつつ、緑間の険悪な空気を変えようと、マリアの手に握られていたものに視線をうつした。
「まぁまぁ、何あったのか知らねぇけどそんなに怒るなって。せっかく部活もねぇんだし、早く帰ろーぜ。
ところでマリアちゃん、何で『チョーク』握ってんの?」
マリアの手にあったのは、彼女らの後ろにある黒板に筆記するために教室に常備されている白いチョークだ。
緑間の表情がさらに厳しくなり、そして、マリアも少しだけ困惑の表情を見せた。
話を逸らそうとした高尾はどうやら無意識のうちに地雷を踏んでしまったらしい。
そして口を小さく開いたマリアの、その可憐な唇に白い粉がついているのに高尾は気が付いてしまった。
溜め息をついた緑間の言葉が高尾に届く。
「マリアは『異食症』という病気なのだよ」
「いしょくしょう?」
聞きなれない病名に高尾はマリアを見つめる。当の本人はニコニコと微笑みを浮かべ続けていた。
「異食症は体内の栄養バランスが崩れ、食用ではないものでも口にしてしまう病気だ。
マリアも生まれつきソレにかかっており、放っておけば、手当たり次第なんでも口にする」
「1番のオススメはチョークなのー」
そう言って微笑んだマリアの頭についに緑間の拳が落とされることとなった。
ううう。と痛みに震えるマリアを見ながら、高尾はなんとも微妙な表情を浮かべたのだった。
「ぶっちゃけマリアちゃんって不思議な感じはしていたけど……」
「……………悪い奴ではないのだよ」
珍しく緑間が他人を庇うような台詞を口にする。
そこは流石、中学時代からの仲である緑間とマリア。と言ったところだろうか。
「そんなん、わかってるって!
マリアちゃんは、ちょっと食い意地張っちゃってるだけだよなー?」
「! そうなの!! だって全部美味しそうに見えるんだもんー!」
「……高尾、理解が早いのはいいが、マリアを甘やかすな」
「え。真ちゃんがそれを言っちゃうの?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる高尾は、そのままマリアの頭にぽんと手を置いた。
緑間はムスと不機嫌になりつつも、とりあえずマリアが持っていたチョークを奪った。
名残惜しそうにチョークを手放すマリアを見ながら、高尾は問う。
「んっと、マリアちゃんが異食症?だってこと、宮地サン達は知ってんの?」
「あぁ。大坪さんには既に報告している。部活中も何を食べだすかわからないからな。
高尾、お前も協力しろ」
「ん?」
「マリアのコレを無くすのだよ。決して身体にいいものではないのだからな」
「お願いしますなのだよー!」
高尾は2人の変人の姿に苦笑を零すのだった。
「はいはい。仰せのままにー」
おは朝信者の友人であったり、異食症の友人であったり。高尾は、心底自分は他人の世話や面倒を見るのが好きなのだとそう思った。