そんな出来事からあった日から一週間。
緑間と高尾の2人は忙しなくマリアの周りを駆けていた。

「マリアちゃん、ストップストップ! それは食用じゃありません!」
「えー。端っこだけでもだめー? ひとくちー?」
「駄目なのだよ!」

彼女の手にはルーズリーフ。高尾と緑間の2人が止めるが、当のマリアはほわほわと微笑んでいた。

高尾はどこか彼女のことを誤解していた。緑間が言うように「なんでも」は流石に話を盛りすぎているのだと。
だが、注意深く見ていると、彼女は本当に「なんでも」口にしていた。

犠牲になるのは大抵、彼女の周りになる文房具が主で、消しゴムをひとくち、シャー芯をひとくち。
ある日はセロハンテープを口に含んでいたり、ある日はシャーペンや定規をバキバキと齧っていたり。
とにかくまぁ、本当に見境なくその可愛らしい口に収めていった。

食用ではないものを口にするたびに、緑間と高尾が必死に止めるのだが、消しゴムなどの小さいものは手遅れになる場合が多い。
あっけらんと微笑むマリアがちらりと舌を見せた。

「でも、もう飲んじゃった」
「吐き出すのだよ!!」
「えー、無理だよー」

彼女が笑った際に、ちらりと見えた八重歯も、硬いプラスチックを砕くために鍛えられたかのように思えてくる。
高尾は彼女は相当手ごわいぞと考えを改める。

そして今もまた彼女の犠牲になりかけた文庫本を救った。

マリアは仕方がない。といった雰囲気で口を尖らせている。反省の色が見られない。
緑間は溜め息を付きながら、鞄の中からおしるこの缶を取り出した。

「口淋しいならこれでも飲んでいるのだよ」
「私、おしるこ嫌いだー」

そうきっぱりと言い、差し出されたおしるこを押し返すマリア。緑間はそんな彼女に眉間に皺を寄せる。

そのやり取りを見ていた高尾は「俺、ひとくちも貰ったことないのに、マリアちゃんにはあげるんだ」と妙な所で笑いを堪える。もちろんそれはすぐ、緑間に睨まれてしまうのだけど。

「お前は何でも食べるくせに『食べ物』の好き嫌いが多すぎるのだよ」
「だってー、美味しくないんだもんー」
「もう少し治すという努力をしろ」
「うーん…。そうだねー」

マリアはこくこくと何度か頷く。
緑間が未だ疑いの視線を向けつつも、溜め息とともに読書に移ろうとした瞬間。

マリアの口の中から「ガツッ」っという普通ではありえない音がした。

一瞬で緑間の表情が険しくなり、高尾と一瞬目配せをする。だが、高尾も見ていなかったらしく同じく表情を青ざめさせていた。
そして膨らんでいるマリアの頬。

緑間はバッとマリアの頬を抑える。マリアはいやいやと左右に首を振った。

「お前は油断も好きもないな! 今、何を食べたのだよ!」
「んーっ!」
「出せ!」
「マリアちゃん、ほらペッして!」
「んーんぅー!」

口に含んだものが相当気に入ったのか、なかなか離そうとしないマリア。口の中からは相も変わらずゴリ、ガリとありえない音が響いている。
緑間は強硬手段としてマリアの口に無理矢理、指を入れ始めた。嫌がるマリアを体格差を利用しつつ押さえ込む。

「身体に悪いのだよ!!」
「んー!」

協力しようとしていた高尾だったが、マリアに対して一切遠慮のない緑間に少々引き気味だ。

「うわ真ちゃん、無理矢理すぎ…ってかRタグ付けられちゃうからその辺にしとけって!」
「馬鹿言ってないで、手伝え、高尾!」

そして格闘すること数分、不貞腐れたマリアが口についてしまった涎を拭った。顔をしかめる緑間に、高尾は軽いねぎらいの言葉をかけた。

「お疲れ、真ちゃん!」
「本当なのだよ…」
「緑間くんに取られたー!」
「うるさい、マリア!
 また何を………」

緑間はマリアの口から無理やり奪ってきたそれを改めて見る。

そこには、先程の文庫本に挟まれていたのだろう。金属製のしおりがあった。

「全然齧れなくてどうしようかと思ったー。あきらめるねー」

ふにゃと微笑んでから「ここに戻してー」と文庫本を差し出すマリアだったが、緑間はそのしおりを握り直して、教室の後ろに備えられているゴミ箱に狙いを定めた。

「汚いのだよ!!」
「あー! 酷いー! でもナイスシュートー!」

綺麗な放物線を描いたしおりは、見事にガコンッと、いい音を立てて、ゴミ箱の中に吸い込まれていった。


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