【私は緑間真太郎に夢を見ていました】(緑間)
「いやいやいやいや、嘘でしょ」
バレンタインデーにとーっても可愛いラッピングをしたかーわいい手作りチョコレート(愛情小匙一杯)を、だーいすきな緑間(付き合って半年。これこそキセキ)のために準備した私の何がいけなかったんだ?
「今日の蟹座のラッキーアイテムは『市販のチョコレート』! 板チョコが最適だよ!」
いや、私は悪くない。悪いのはおは朝だな。こんの大馬鹿野郎。
「なんだよその『市販の板チョコが最適』って。滅びろ。
今日が何の日かわかってんのかよ、この野郎空気読め。謝れ。主に私に」
散々悪態をつきながらも、作ってしまったチョコをどうすることも出来ずに鞄に入れたまま登校。
そして、高尾の運転するチャリアカーに出会った。もちろん、荷台には荷物の緑間。
その緑間がドヤ顔しつつ、お菓子作り用の大きなチョコレート見せてきたことに殺気立った私は、絶対に確実にこれっぽっちも悪くなんかない。
「少し貸せ。食べやすいように叩き割ってやるから。その板チョコ」
「これは俺のラッキーアイテムなのだよ。死守させてもらう」
「ほら、今日はバレンタインデーだ。逆チョコって言葉知ってるだろ」
「これは俺のものなのだよ。俺が食べる」
「軽く死ね、緑間」
荷台には乗らず、私はチャリを漕ぐ高尾の横を歩く。
ニヤニヤと笑っている高尾のその整った顔に私は思わず張り手した。単純にムカついた。
「ひでぇよ、マリアちゃん!」
「煩い高尾。鳥の癖に話すな」
「相変わらずの暴言!
ほら、そんなに苛々すんなってー、あんなこと言ってるけど、真ちゃんだってマリアちゃんからの本命チョコは特別でしょ。
ちゃんと用意してあるっしょ?」
「おい、緑間、チョコいる?」
「明日からこの板チョコを消費しなくてはいけないのだ。これ以上チョコはいらん」
「深く死ね、緑間」
「今のは真ちゃんが悪い」
あれ。バレンタインデーってこんなイベントじゃあなかったはずだろ。
深く溜息をついた私は、校門前でいちゃつくカップルの横を通るとき思い切り舌打ちしてやった。
高尾は吹き出したが、そのカップルは怯えてた。ざまぁみろ。
†††
そんなこんなで、チョコを受け取って貰えないまま昼休み。切ない。そろそろ泣いても許される。
「なぁ、真ちゃん。
その板チョコって大きいのが1枚入ってんの? それとも小さいのが何枚か入ってんの?」
「大きいものが1枚入っているのだよ。そう書いてある。
こら、野村。割ろうとするな」
「この恨み晴らさでおくべきかー」
「マリアちゃん、マジ激おこじゃん」
そりゃ怒りたくもなるだろーよ。おかしいでしょ。
なんで私の彼氏は彼女からのチョコよりも市販の板チョコ抱えてんですか。ねぇ、おい。おかしくないですか?
私は鞄の中を見て、ひとつ溜息。そして思い出したかのように鞄から目当てのものを探し当てた。
市販の(流石に板チョコでは無い)6個入りチョコ。所詮、義理チョコと呼ばれるそれを。
「あまりにも驚きすぎて忘れていた。これ。高尾の分」
「え、ちょ、嘘! マジで!?」
「何。あんたもいらないの?」
「違うって逆! うわー、あざーす! マリアちゃんには真ちゃんがいるからあんまり期待してなかった」
「ホワイトデーよろしく」
「おお、任せとけって!」
おぉ…。これだよ。これだろ! 高校生男子がバレンタインデーにチョコレート貰った反応ってこれでしょ!
こんな義理感満載のチョコでも喜んで貰えるだなんて、私がびっくり。
あと少し罪悪感。ごめん、それ200円ぐらいの安チョコなんだ。バレンタインデー時期の安売り目玉商品です。
いや、でも、喜んで貰えて嬉しいよ。受け取っても貰えてないからね。本命チョコ。
「おい、緑間。高尾を見習え。
男がチョコを貰った時の反応はこれだ。たとえ義理でも」
「だが、俺はもうチョコレートがあるのだよ。400g分」
「え、巫山戯てんの?」
不思議そうな緑間を冷たく見たあと、私は鞄の中に入った他の安チョコ達を見る。
高尾には渡したし、友チョコももう配った。あとはお世話になった先輩達。大坪先輩と、宮地先輩と、あと木村先輩の分。後で渡しに行かないと。
はいはい、全部市販な。
手作りは緑間だけ、なんだけど?
「はぁ…、このチョコどうしろと?」
「食えばいいだろう」
「巫山戯んな、お前本当、巫山戯んなよ。
何が悲しくて自分で手間暇かけてチョコ作って、最終的に自分で食わなきゃいけないんだよ。そこまでお菓子作りが好きな訳でもないわ。
2度死ね、緑間」
「……大変だね、マリアちゃん…」
高尾に同情されても困る。自分が切なくなるだけだ。
おは朝を恨む前に緑間を内心で呪ったあと、立ち上がった私に、緑間が不機嫌そうに言葉を零した。
「どこ行くのだよ」
「……少々、お花を摘みに行ってまいりますわ」
「え、マリアちゃん、どこ行くの」
少し冗談めかしてそう言えば、緑間は納得したようだったが、高尾がかなり驚いた顔をしていた。私は高尾の背後から腕を回し、軽くオトす気で締めた。
「トイレだよ、トイレ。女の子に何言わすんだよ」
「………把握」
「高尾ってハイスペックなのに、時々惜しい」
「どういうことなの」
「そのまんまだよ」
高尾から腕を離し、教室から立ち去った私は、そのまま教室で何事かを話している緑と鳥のバスケ馬鹿共を無視し、同じくバスケ馬鹿だった人達を探すべく3年生の教室に向かった。
トイレ? それは嘘です。
最近、緑間が私がどこに行くでも「どこ行くのだよ」と必ず聞くぐらいには口煩いんだよね。
先輩達に会いにいくと言えば、引き止められちゃうし。なんなの緑間。どうしたの緑間。
まぁ、それはさておき。
「宮地先輩いますか――? いや、いませんでしたね私はこれにて帰らせていただきますすたこらさっさほいさっさ」
「お。野村か? 久しぶりだな」
「…………お久しぶりです」
チッ。大坪先輩に見つかった。流石その高身長は人を見つけるのにはとーっても便利ですね。
今は全くもって見つかりたくなかったわけですけれども。
お世話になった先輩方にチョコくらい配ってもいいではないかと、宮地先輩達のクラスに来た私は、3年生はもちろんのこと、下級生からもチョコを差し出されているリア充宮地先輩(彼女無し)の姿を見ることとなった。
なんだ、宮地先輩モテるんですね! ドルヲタなのに! 彼女いないのに!
というか、そこに群がる3年女生徒。貴女達、受験生でしょうに。受験勉強しましょうよ。チョコ作ってないで、脳を作れ。脳を。
宮地先輩がモテているのは別に(どうだって)いい。私に害はないし。
ただ、近寄りがたい。今、バスケ部マネージャーの私なんかが行ったら、本当になんでもないのに、絶対、後で体育館裏に呼ばれてしまう。それだけは避けたい。あ、害あったわ。
というか、なんでもっと早く気が付かなかったんだろうか。切ない。
「私の考えが甘かったということですね、チョコだけに」
「何言っているんだ?」
「受け流してくださって結構です」
うわぁ、しょうもないこと大坪先輩に律儀に拾われたぁぁぁ居た堪れないぃぃぃやめてぇぇぇ。
あぁ、今日はいい日ではないようだ。うん、結局おは朝は蟹座のラッキーアイテムでショックを受けて自分の星座見るの忘れたしね。最下位に近かったのかもしれない。
これはさっさと用事を終わらせて帰るべきだな。
そう判断し、大坪先輩を見上げた私は隠し持っていた3つのチョコを差し出した。
「大坪先輩。はい、ハッピーバレンタインデーです。
姿の見えない木村先輩と、姿は見えるけど近寄りたくない宮地先輩の分もありますので、大坪先輩から渡しておいてください。それでは私はこれにて帰らせていただきますアデュー」
「そうだ、野村達に渡したい物があるんだ。作りすぎてしまってな」
帰りたい。だが、残念。帰れなかった。
引き止められてしまった私は大坪先輩を見上げる。
大坪先輩は「ちょっと待ってろよ」と言いながら一旦教室に戻っていく。
そして緩く微笑みを浮かべながら戻ってきた時には3つの紙袋を抱えていた。そのうちの1つを手渡される私。
首を傾げつつも、中を覗くとそこには可愛らしい真っ赤なマフラーがはいっていた。
しかもワンポイントで花飾り付き。
……てか、大坪先輩、作ったって言ったよな、今…。
編み物技術が上達してるとはどういうことだ。
「勉強の息抜きにやってたら、思ったより沢山出来たから野村達にもおすそわけ」
オォウ………高校生男子(198cm)と手編みマフラーの破壊力はんぱねぇ……。これは女子力? なんか違う?
「まだ寒い日が続くからな、よかったら使ってくれ」
いやぁ、でも暖かいな。取り出してみた私はそのマフラーの手触りに感動する。ふわふわもこもこだぁ。
多分、今日1番癒されている瞬間だ。そう考えると今日は本当に疲れたなぁ。まだ半日ほどしか経ってないけど。
「ありがたく頂戴致しますね」
「こっちは緑間と高尾の分だ。あいつらにもよろしく言っておいてくれ」
「え、あ、うわぁ、ありがとうございます」
そう言ってもう1つ赤いマフラーと、さらに緑色のマフラーを手渡された。
本当良く作りますね。手先が器用でいいですねー。
「じゃあ、本当にありがたく頂戴致します。
体調を崩さない程度に受験勉強、頑張って下さいね」
「おぉ。野村もな」
気さくに微笑む大坪先輩が眩しい。
あー、うん。この人卒業して欲しくないなー、何かのどっきりで留年してくれないかな…。ついでに宮地先輩と木村先輩も。
そんな無責任に酷いことを思った私だが、それを口にすることもなく大坪先輩に小さく手を振ってこの場から立ち去る。
ま、この人達が卒業するまであと1ヶ月はあるわけだしね。
今のうちに沢山甘えておこう。このマフラーもありがたく使わせていただきます。
3つ紙袋を抱えて、私は教室に戻る。と、当然のように不機嫌そうな緑間に出会った。いや、なんで不機嫌顔?
「…………随分と遅かったのだな」
「トイレから帰ってきた女の子にその言葉はないでしょ。どうすんの、大だったら」
「マリアちゃん、そういうこと言わないでよ! 俺達だってもうちょっと夢みたいなぁ!」
「女の子に夢を見てはいけません。別に砂糖にスパイス、素敵な何かで出来ているわけじゃないからね。
女の子は結構、粗雑なもんです」
高尾にズバッと現実を叩きつけたあと、私は紙袋の中をちらりと見て、色を確認してから男2人に大坪先輩特製マフラーを渡した。
中身を見たあとの緑間の不思議そうな顔。
「これは?」
「大坪先輩から2人に。私も貰ったよ」
「大坪さんに会ったのか?」
「まぁ、そんなとこ」
正確には会いに行っただけどね。緑間はあんまり納得していないみたいだった。なんなの緑間。
マフラーを広げた高尾がニヤニヤと笑いながら大坪先輩特製マフラーを眺めていた。
「本当に手先器用だよなー」
「その色、なかなか似合ってるじゃん」
「ん、サンキュー」
流石ハイスペック(?)。何色でも似合うな。
「それで、緑間。何怒ってんの?」
「怒っていないのだよ」
そーんな、不機嫌そうな顔しちゃって何言ってんだか。
私は緑間と並んだ自分の席につきながら、ここぞとばかりに、かーわいいラッピングを施したチョコを取りだした。
「苛々防止にチョコ食べる? 私の手作りチョコ」
「いらん。おは朝は手作りではなく、市販のチョコレートを推していたのだよ」
「このおは朝信者め。おは朝なんか放送停止になっちまえ」
え。私、悪くないよな? 私が悪いわけないよな、この状況。
それでも緑間と別れる気はさらさらない私って実は神じゃね? 私って神だったのかー。
今日1日粘って、それでも受け取ってもらえなかったら、捨てるのもアレだし高尾にやろ。
4つに叩き割って握り潰して磨り潰してから高尾にやろ。