WCが終わったって言ったって、部活も練習もいつも通りにある。来年のIHで負けるわけにもいかないしね。人事は尽くさないと。
普段通りに練習を終わらせた秀徳高校バスケ部。マネージャーの私は最後の後片付けを終わらせて、体育館の鍵閉めて。鍵を中谷先生のところに返しに行って。
「よー、お待たせー」
駐輪場に停めてあるチャリアカーの元に行った。
待ってていてくれるのは嬉しいけども、わざわざ外じゃなくても中で待っていればいいのに。
あぁ、でもおしるこの自販機は外にあるのか。緑間が持つおしるこ缶を見て察する私。
緑間も高尾も大坪先輩特製マフラーを巻いていた。うん、2人とも似合う、似合う。
私もチャリアカーの荷台に鞄をおいて、紙袋から赤いマフラーを取り出した。
あったかい。やっぱ準備をしてから来るべきだったかな。
「………野村、何故その色なのだよ」
私のマフラーを見た緑間は不機嫌そうにそう零した。なんでしょう、この子は。お昼からずっと不機嫌だねぇ。
「私が大坪先輩から貰ったのはこの色だけど?」
私が受け取ったのは赤いマフラー。花飾り付き。
緑色のマフラーを巻いた緑間と、私と同じ赤いマフラーを巻いた高尾が何故か顔を見合わせていた。なんなの。
寒さで頬を赤らめている高尾が、曖昧にはにかみながら私に話しかけた。
「あー、…マリアちゃん。大坪さん、俺達にあげるマフラーの色について何か言ってた?」
「何も言ってなかったけど? でも、緑間は緑色でしょ?」
名前に緑入ってるし。とそう答えると、高尾はちらりと緑間を見上げていた。いや、だからなんで緑間はそんなに怒っているんだ?
「……………真ちゃんとマリアちゃんでお揃いだったんじゃないの? これ」
「えー? 緑間は髪の毛が緑だから、赤いマフラーしたら本気でクリスマスカラーになるよ。高尾の方が赤色似合うよ」
ただでさえ、そのデカイ板チョコ持ち歩いていて、緑間は何時だって面白いんだから。なんの武器だよって感じじゃん。その板チョコ。
私は至極当然のことを言ったと思ったのに、高尾に酷く憐れむような瞳を向けられた。
「……何その目…、やめて欲しいんだけど」
「マリアちゃんも大概だよね…」
なんだそれは暴言か。おい。受けて立つぞ。
少し苛立った私の横。いつの間にか緑間が私の片腕を掴んでいた。私は緑間を見上げる。こいつやっぱり身長デカイな。
「……………高尾。先に帰っていろ。野村と話がある」
「え。なんの?」
「はいはい、仰せのままにー」
低い緑間の声に困惑する私。高尾はさっさと自転車部分に乗っちゃうし。ねぇ、なんなの!
荷台に置いていた私と自分の荷物を持った緑間は、私をじぃっと睨んでいた。私は高尾の腕を引く。
「ちょ、高尾。本当に先帰るの? なんか緑間、怒ってんだけど、助けてくれないわけ?」
「ごめん、マリアちゃん…。俺は真ちゃんの味方だから…」
「巫山戯んな、意味わかんないよ、この鳥野郎」
あああ、本当にさっさと帰って行きやがったあいつ。私がやったチョコ返せ。
「行くぞ、野村」
緑間は私の荷物も持ったまま、ずんずんと歩き出す。
流石に自分の荷物ぐらいは自分で持とうと手を伸ばしたが、空回りに終わった。
…………ま、自ら進んで荷物持ちになってくれるなら、それでいいか。
その見るからに「怒ってますオーラ」を出すのは止めてほしいんだけどね。
今日1日怒りたかったのは私だけど、なんで今、緑間の方がおこなんでしょう。
そのまま私達は特に会話もないまま、2人で歩く。話があるといったのは緑間だったよね?
バレンタインデーの夜にお付き合いをしている2人が歩いているといえば聞こえはとてもいいけれど。
実際は本命チョコを受け取ってもらえなかった彼女と、何故か苛立っている彼氏の2人だ。手すら繋いでいない。最低最悪マジで屑。
緑間の隣を歩いていると、いつの間にか私の家の近くの公園まで来てしまった。
あー、ここから家まで5分といったところか。別に寂しくなんかねーですよ。
「まだ、大丈夫か?」
「ん?」
突然話しかけられて思い切り聞き返してしまった。緑間は私の顔を見ないまま「時間は大丈夫か」と繰り返した。
身長がデカすぎるんだから、ちょっとこっちを向いてもらえないと顔が見えないんですけど、緑間くん。
「まぁ、ここから家まで近いしね。大丈夫だけど?
…公園でも寄る?」
この辺にはコンビニもない。小さく頷いた緑間に続いて私達は公園に入っていく。
近くのベンチに荷物を置く緑間を放って、私は廃れた公園のブランコに向かった。懐かしいブランコに腰掛けて、思い切り漕ぎ出す。
私に振り返った緑間の呆れたような声が聞こえた。
「お前は大人しく出来ないのか」
「たまにブランコに乗ると、異常に楽しくなる時ってない? 今、私、その時!」
緑間の溜息が聞こえた。相も変わらずに失礼なやつだな。
ベンチに荷物を置いたまま、隣のブランコに腰掛ける195cm。あはは、怖。
思い切り漕いでいた私は、暫くしてスピードを緩め、ブランコを止めた。足を地面に付けたまま動かし、ゆらゆらと揺れる。
安全面を考えられた隣のブランコとの距離は大体1mあるかないかぐらい。
以外と遠いその距離。今の私と緑間の距離。
緑間は1度黙ったら、なかなか次を話し出さない。こうなった時にはいつも私から話し出す。
「で、さっきちらりと話があるって言っていなかった? 緑間」
別れ話だったら、割と本気で殺しておこう。
揺れる私の視界の横。緑間はブランコに腰掛けて真っ直ぐに前を見ていた。私から見えるのは凛々しい横顔だけ。
「…………………野村は」
緑間は止まったブランコの上で言葉を躊躇う。私はブランコに揺られながら呑気に待つ。2月の風はまだまだ冷たい。
「………野村は、俺が、その。告白、した時のこと、覚えているか?」
「ん? んん。そりゃあ…もちろん」
半年前。私達が付き合い始めた時。
最初は、本当に驚きしかなかった。だって、あの1日3回の我が儘を許されたこれ以上ないほどに自己中心的な緑間が、ただのマネージャーだった私に告白をしてきたのだから。
部活が終わったあとの、体育館を閉めるギリギリの時間に。
顔を真っ赤に染め上げた緑間が、私の腕を掴みながら。
本当に驚いたのは覚えている。
でも、緑間が冗談を言っているようにも思えなかった。それくらいに緑間は真剣だった。
相も変わらず私からは緑間の横顔しか見えない。私はその横顔を見つめていた。
「……野村は『彼氏がいるわけじゃないし、特に断る理由もない』と言ってたのだよ」
「………そうだったっけ……」
いや、でもあの時は別に緑間のことはどうだって良かったのは確かだ。
だって我が儘だし。先輩に敬意が足りない無礼者だったし。
あぁ、でも告白してきたその日はIHが終わって数日たった時で。緑間が少し丸くなったなぁと思っていた時だったっけ。
だから、告白されて不快感はなくて。
2つ返事でOKの返事を出した気がする。
ぼんやりとその時のことを思い出していたら、緑間がやっと私の方を向いた。
「告白した時も思ったが……、ここ最近のお前は特にそうなのだよ。
俺に暴言ばかりのくせに、大坪さんや宮地さんや木村さんに懐いているし、高尾と仲がいいし、…高尾とお揃いのマフラーにするし」
………ん?
なんだか、言葉の行き先がおかしい気がする。緑間は私に向けた視線をそらしながら、顔を真っ赤に染めて言葉を続けた。
「……お、俺ばかりが、野村のことを、す、好いているみたい、なのだよ…!!」
「…………ふはっ」
思わず笑い声が溢れた。緑間がバッと反応する。私はお腹を抑えながら笑いを耐えていた。耐えきれていないわけだけど。
「わ、笑うな! 俺は真剣なのだよ!!」
「いや、でも、あはははッ、それでおこだったとか!」
だって、そんなんじゃ、まるで子供みたいな。
「ねぇ、緑間?」
散々笑い終わった私が小さく名前を呼ぶと、緑間はその大きな身体を小さくさせながら(些か無理がある)、不安げに私を見ていた。
「……何なのだよ」
本当に、この子ってば。
「あんたは乙女か。馬鹿ちん」
短く笑った私は乗っていたブランコから飛び降り、緑間の座っているブランコの後ろに立った。
困惑する緑間を他所に、ブランコに足をかける。
「ほら、2人乗りしよ。緑間、そのまま座ってていいから」
「2人乗りは危険なのだよ」
「大丈夫だって、ほら、せーの!」
そうやって私達は一気にブランコを漕ぎ出す。おおお、びっくりするぐらいには懐かしいな、この乗り方〜。緑間の頭が見えるのが新鮮。
私はブランコをこいだまま、乙女な緑間に言葉をかける。
「そうやって不安になるくらいだったら、緑間はもうちょい素直になってもいいんじゃないでしょーか、と私は思うわけですよー。
変に意地を張るのではなくてですねー。素直に甘えて欲しいし、あと、甘えさせて欲しいんだけど? 私だって恋する乙女です」
「…………」
深く黙り込む緑間。緩んできたブランコのスピードに首を傾げつつ、完全に止まってしまったところで私は緑間の前に回った。
緑間の前でしゃがみ、私がじいっと待っていると、小さな呟き声が聞こえてきた。
「………………野村と、過ごしていると、俺は酷く幸せなのだよ…。
だから、何をするにも、その……、………は、恥ずかしい、のだ、よ…」
ブランコを漕ぐ足を止めてしまった緑間は、軽く俯きながらそのテーピングに包まれた左手で、口元辺りに手を当てていた。
それは真っ赤な顔を隠そうとしているようで。まぁ、耳まで真っ赤だし、バレバレなのだよ。
真っ赤な顔を覗き込んで、私は笑みを浮かべた。
「私も緑間が思っている以上に、緑間のこと好きなんだよ?」
天才で、でも馬鹿で、素直じゃなくて、異常なくらいにおは朝信者の緑間が。
「だから、心配なんかしなくていいよ」
そういった私は「そっか、今か」とか思いながら、朝から何度も取り出したそれをもう一度取り出した。
「ね、緑間。チョコいる?」
「……………………あぁ、…欲しいのだよ」
これ以上ないくらいの真っ赤な顔を、手で覆ったままそう答えた緑間に私は笑みを零す。
なんだ。私も思ったよりも愛されてんじゃん。
楽しくなってきた私は、赤いマフラーで隠すようにしながら緑間の頬にキスしてやった。
真っ赤に顔を染め上げた緑間は、見事に赤と緑で。
「クリスマスはもう終わったよ?」
そう言ってやると、怒った緑間がラッキーアイテムの板チョコで私の身体を叩いてきた。酷くね?
板チョコが軽快に割れる音は、聞いていて心地よかったわけだけど。
あははと笑いながら私は手を差し出す。私の小さな手を、少しだけ躊躇った緑間が取った。テーピング付きの手は、私の手をすっぽりと包み込んだ。
変に強ばっている緑間の左手にまた笑いが込み上げそうになる。何だその緊張感。試合の時すらそんなに緊張しないでしょ、あんた。
「ほら、かえるよー」
「……野村」
歩きだそうとした私の隣で、緑間の小さな声。
辛うじて聞こえた声に私はニヤリと笑みを浮かべて「私も好きだよ」と返事をした。
(私は緑間真太郎に夢を見ていました)