リドルくんはいつも私の前にいた。
どんなに待って待ってと呼びかけても、強い彼は、弱い私を置いてどんどん先に行ってしまった。
だから私は、リドルの腕に見合うように強くなろうとした。
必死に努力に重ねた私はついに、ヴォルデモート卿の隣に存在するにふさわしい力を持った。
それでもヴォルデモート様は私の先を歩いていたのだけれど。
「マリア、僕は、いや俺は、俺様はヴォルデモートだ。
すべての魔法使いが俺様の名前も言えぬくらい、俺様は恐れられる存在になるんだ!」
彼は言った。
「マリアは俺様について来い」
その一言がどんなに私を喜ばせたか、貴方は知らないんでしょうね。
いつも前だけを見ていたキミが、少しだけ私を振り返ってくれたあの瞬間。
私は、貴方だけを主として、貴方のために、貴方様のためだけに、この命を捧げようと。そう心に誓った。
――これは、私の、
「何をしている!!」
あの時は確か。ああ、そう。貴方様に向けられた騎士団からの攻撃を私が庇った時。貴方様はとても怒っていた。
最初は不思議で堪らなかったけれど、彼の言葉に私は深く頷くことしかできなかった。
「貴様は俺様のそばにいろ」
抱きしめられたわけじゃない。キスしたわけでもないし、甘い言葉もなかったけれども、あの時私は確かに貴方に愛されていると感じた。
でも、自惚れだったかも知れないわ。
だって、ヴォルデモート様から「アイ」なんて言葉は決して発せられなかったのだから。
――これは、私の、走馬灯。
「マリア、行くぞ」
「お待ち下さい、ヴォルデモート様」
私は1番、彼のそばにいた。
私はずっとヴォルデモート様の後ろをついて行っていた。
†††
「卿、お目覚めになられましたか」
どうしようどうしよう。貴方様をお守りすると私は決めたのに、決めていたのに。
どうすればいいどうすればいい。貴方様を死なせないためにはどうすればいいの。
「…俺様は…」
ヴォルデモート様が掠れた声をこぼした。
彼の疑問は正確に答えなければ。私は震える声を隠し、静かに答えた。
「貴方様はハリー・ポッターの呪文に敗れました。
ホグワーツの前からはなんとか脱しましたが、すぐに追っ手が来るでしょう。
…私も、貴方様も、もう…」
そう、本当は分かっている。私達は、負けてしまったんだ。
そして、ヴォルデモート様は、リドルくんは、もう。
肩が痛い。足も痛い。だけどそれ以上に貴方様を失ってしまいそうなことに、胸が痛い。
「……分霊箱ももう、ない。
…………俺様は、死ぬのか」
死ぬ。誰が…?リドルくんがリドルが貴方がキミがヴォルデモート様が貴方様が?
怖い怖い助けてこんな恐怖には私は耐えることなんてできない怖い怖い怖い。
「……ねぇ、リドル…」
私の中に溢れる恐怖を止める方法は1つだけあった。私は昔と同じようにリドルを呼んだ。
私は1番、彼のそばにいた。
私はずっとリドルの後ろをついて行っていた。
「お願い。私も一緒に連れて行って」
消えいりそうなリドルの手を左手で取り、そして余った右手で杖を握りしめた。
「Avada Kedavra」
杖先から出た緑の光線が私の胸を貫く中、ずっとキミのそばにいれることが本当に嬉しかった。
(次にまた会えたなら)
今度は貴方に「アイシテル」と言ってみたい。