そして次にファイは黒鋼に顔を向けた。

「黒りんはー?」
「だからそれヤメろ!!」

話が黒鋼に振られると不機嫌そうに怒鳴り返す。だが、ムスッとして口調で答える。

「うちの国の姫に飛ばされたんだよ! 無理矢理」
「悪いことして、叱られたんだー?」
「うるせーっての!!」

ニコニコと笑うファイに、黒鋼は叱咤し、逆に問い返す。

「てめぇはどうなんだよ」

ファイは微笑みながら、橋の柵に膝をつけ頬杖をした。

「俺は自分であそこへ行ったんだよー」
「だったら、あの魔女、頼るこたねぇじゃねぇか。自分で何とか出来るだろ」
「魔法って便利ですね」

澪がキラキラとした瞳でファイを見、ファイは笑いながら答えた。

「無理だよー。俺の魔力総動員しても1回、他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
「そ、そうなんですか? 便利ってだけじゃないんですね」
「小狼君を送った人も、黒ちんを送った人も、」
「その呼び方止めろっ!」

黒鋼はファイの言葉の途中で怒鳴る。黒鋼の背に乗っていたモコナがころんと澪の手の上に落ちてきた。
再び澪がモコナを受け取りつつ、ファイの話を聞く。

「物凄い魔力の持ち主だよ。でも持てるすべての力を使っても、おそらく異世界ヘ誰かを渡せるのは1度きり。
 だから、神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ。
 サクラちゃんの記憶の羽根を取り戻すには、色んな世界を渡り歩くしかない。
 それが今出来るのは、あの次元の魔女だけだから」

ファイの言葉に小狼は手に持ったリンゴをじぃと見つめていた。

「……さくら」

小さく呟かれた言葉を、隣にいた澪はしっかりと聞いていた。

「きゃあああ!!」

突然、悲鳴が聞こえてきた。小狼がハッとし周りの人達が見ている上の方を見ると、建物の屋上にはゴーグルをつけた集団がいた。そして反対側には帽子を被った集団。

「今度こそお前らぶっ潰して、この界隈は俺達がもらう!」

帽子を被った集団がゴーグルの集団に向けて怒鳴り、街は一気に騒然となる。逃げようとする人、喧騒に集まってくる人。
そしてひとりひとりがバッと自身の目の前に、様々な形状の生き物を召喚していた。犬や猫のような生き物も見れば、目玉がひとつだけの何かや、羽の生えた何かなど、名要し難い生き物達が現れていた。
モコナが驚かれないことに気が付いた澪がおろおろと視線をさ迷わせているうちに、どんどんと人並みに押されてしまう。

「へ? きゃっ」
「わー。澪。押されすぎー」

モコナを抱えた澪は惑う人々の波と共にふらふらと押し流されていく。腕の中にいるモコナが潰れないように力を込めるが、モコナはとても楽しそうに声を上げていた。

「めきょっ!」
「わ。モコナちゃん!」

その時、突然、モコナの目が「めきょっ」と開いた。

澪は驚きながらもサクラの羽根が近くにあるのだと気付き、小狼を呼ぼうと試みるが、逃げる人波に巻き込まれてしまい、身動きがとれずにいた。
暫くしてようやく人波から抜けだし、小狼達の方を見ると、何時の間にか大きなエイの生き物がゴーグル集団のリーダーの周りを渦巻いており、その目の前では小狼が炎に包まれた狼を従えながら凛と立っていた。

澪はぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「え? どゆこと!?」
「澪、置いてけぼり〜」
「モコナちゃん。悲しくなるからヤメテーッ」

状況を理解しきってはいない澪は慌てて小狼達の側に行こうと走り出す。と。

「きゃーっ、この巧断、可愛い!!」
「ホント可愛い!」
「この女の子も可愛いよ!」
「え? えぇ?」

突然、大勢の女の子達に囲まれてしまった。澪は目をパチクリとしながらも催促されるがままにモコナを女の子達に向ける。
黄色い歓声に囲まれながらも澪は困ったように小狼達に視線を向ける。
やがて小狼達も女の子に囲まれている澪とモコナを見つけてくれた。

少ししてから落ち着いたあと、モコナがバイバーイと女の子達に小さな手を振り、澪は一気に疲れたのか、ふらふらと小狼の側に寄って行った。
ファイが澪と、その頭の上で落ち着いているモコナに話しかける。

「2人は何処にいたの?」
「モコナはね。黒鋼の上にいた。そしたら落とされた」
「あ、あの小狼くん! モコナ、さっき「めきょー」ってなってたんですよ!」

ばたばたと慌てる2人に小狼は驚いたように声を張り上げる。

「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
「さっきはあった。でも今はもう感じない」

モコナが答える。小狼が切羽詰まった様に聞いた。

「誰が持ってたか、分かったか!?」
「分からなかった」
「…ごめんなさい」

首を降る2人に小狼は落ち込む。澪とモコナもしょんぼりとしてしまった。

「さっき、ここにいた誰かって条件だと、ちょっと難しいなぁ」
「でも、近くの誰かが持ってるってわかっただけでもよかったです。
 また何かわかったら教えてくれ」

小狼はモコナを片手に乗せて、朗らかにそう言う。モコナもにっこりと笑いながら小さな手で頼もしく自身の胸を叩いていた。
すると先程小狼が助けていた男の子がこちらに駆け寄ってきて、ぺこりと頭を下げた。

「あの、あの! さっきはありがとうございました! 僕、斉藤正義といいます。
 お、お礼を何かさせて下さい!」
「いや、俺は何もしてないし…」
「でも、でも!」
「お昼ゴハン食べたい! おいしいとこで!」
「え?」

澪の頭の上でモコナが言うと、正義は「はいっ」と元気よく頷いた。


†††


「これって…」

移動した澪達は、正義に教えられた店「風月」に来ていた。澪は少し懐かしそうに「分店によくいったなぁ」と呟く。
澪はファイと黒鋼の間に座り、向かいには小狼と正義がいる。すっかり仲良しなモコナは澪の膝の上にいた。

「僕ここのお好み焼きが1番好きだから!」
「『おこのみやき』っていうんだ、これー」

テーブルには鉄板が埋め込んであり、その上には既に5つお好み焼きが焼かれている最中であった。
黒鋼はじーっとお好み焼きを興味津々に眺め、モコナは耳をパタパタさせていた。澪もモコナと一緒にニコニコとしている。

「え? お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは……。外国から来たんですか?」

正義は「金髪さんだし!」と声を上げる。ファイは意味深にニコニコと微笑む。

「んー。外と言えば外かなぁ」
「?」
「そういえば。あの人達、何時もあそこで暴れてるの?
 帽子の人達と。ゴーグルの人達」

澪は正義に首を傾げて問いかける。

正義の話を聞くと、あの戦いは『ナワバリ争い』だという。
それぞれにチームを作り、自分達の巧断の強さを競い、強い方がその場所の権利を得るのだという。

(………カラーギャング?)

澪の住んでいた国では絶滅危惧種のグループを思い描く。まぁ、だいだい間違いではないと思う。

「でも、あんな人が多い場所で戦ったら、他の人に迷惑が……」
「そうだねぇ。澪も逃げる人に紛れちゃったんでしょ?」
「は、はい」

現に正義もあの争いで怪我をしそうになったらしい。そこを小狼が助けたのだ。
だが、正義は首をブンブンと振り「良いチーム」の存在を強く推した。
帽子を被っていたチームは「悪いチーム」らしく、ゴーグルのチームは良いチームらしい。

「ゴーグルのチームのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で。強くて大きくて、みんな憧れてて!!」

正義は笑顔で何時の間にか立ちあがっていた。気付くと恥ずかしそうに頬を染めて座ったが、澪はニコニコと微笑む。

「憧れの人なんだね」
「は、はい! でも小狼くんにも憧れます」
「え?」

小狼は正義を見て首を傾げる。正義は照れたように小狼を見返した。

「特級の巧断が憑いてるなんて、凄いことだから」
「それ、なぁに?」
「巧断の『等級』です」
「巧断に等級があるんですか?」
「はい。四級が1番下で、三級、二級、一級と上がっていって、1番上が特級」

(私の巧断って……どんな感じの子だろう?)

澪はふわふわとしたイメージを浮かべる。そこで、正義の寂しげな声が聞こえた。

「僕のは……。1番下の四級だから…」

そこで、澪の隣の黒鋼が待ちきれなくなったのか、うずうずと身体を動かして、お好み焼きをヘラで持ち上げようとしていた。澪もちらりと黒鋼の手先を見つめる。その間も小狼達は話を続けていた。

「でも一体何時、小狼君に巧断が憑いたんだろうね」
「そういえば、昨日の夜。夢を見たんです」
「んん? 夢?」


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