乱立するビルには大きな広告看板。忙しなく行き交う人々。

「にぎやかだねー」
「ひと、いっぱーい!!」

澪達はキョロキョロと周りを見渡しながら探索を開始していた。

「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだー。
 小狼君はこういうの見た事あるー?」

ファイが小狼に聞くと小狼は「ないです」とふるる首を振る。ファイは次に澪に顔を向けた。

「澪ちゃんは?」
「1、2回ぐらいなら見た事があります……。本当に大阪みたい…」
「? オオサカ?」
「あ、いえ。私の住んでいた国に同じような地域があったんです」

澪ははにかみながらそう答える。見れば見るほどそこは大阪にも似た雰囲気なのだ。
ふむふむと頷いたファイが笑顔のまま今度は黒鋼へと振り返る。

「じゃ、黒たんはー?」
「ねぇよ!! んでもって妙な呼び方するな!!」

ファイの可愛らしい渾名に切れた黒鋼は怒声を上げる。怒声を上げつつもきちんと答えはするのだから、彼も案外正直な性格なようだ。澪は黒鋼の怒声に驚いたのか一瞬肩を震わせる。それを見つけたファイが、あーあ、と咎めるように黒鋼に声をかける。

「こらー黒たん、澪を怖がらせちゃ駄目でしょー」
「ご、ごめんなさい。びっくりしちゃって。黒鋼さんは悪くないんです!」
「……」
「澪ちゃんは良い子だねぇ」

またはにかむ澪。むすとしている黒鋼だが、少しは悪かったと思っているようで、特別何かを言うことは無かった。
そんな会話をしていると、周りに人達が澪の腕に抱かれているモコナを見てクスクスと笑っているのに気付いた。

「笑われてっぞ、おめぇ」

黒鋼がからかうようにモコナへ言うが、モコナは「てへ」と可愛らしく照れた。

「モコナもてもてっ!」
「もててねぇよ」

モコナに視線が集まる分、澪は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。視線は確かにモコナに集まっているはずなのだが、どうも自分にも集まっているような気がしてしまう。
そこで、近くの店のおじさんが顔を出した。そこはどうやら八百屋らしく、新鮮な果物や野菜が並んでいた。

「らっしゃい! お、そこの譲ちゃん、リンゴ買っていかねぇかい?」
「わぁ、とっても美味しそうですね」

澪が興味を持ったようにおじさんの手の中の赤いリンゴを覗きこむ。横から小狼がひょこっと顔を覗かせた。彼は不思議そうにぱちくりとひとつ瞬きをしていた。

「それ、リンゴですか?」
「これがリンゴ以外の何だっちゅうんだ!」

小狼とおじさんが話していると、ファイと黒鋼も寄ってきた。彼らはひとつのリンゴを見つめてわらわらと話し出す。

「小狼君の世界じゃこういうのじゃなかったー?」
「形はこうなんですけど、もっと薄い黄色で…」
「そりゃ梨だろ」
「でも黄林っていう黄色いリンゴもありますよね」
「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって…」
「それ、ラキの実でしょー?」
「赤くてヘタがあるのは…ええと、トマトか苺か、あと…なんでしょう?」
「で! いるのか! いらんのか!」
「いる―!!」

痺れを切らして会話に割り込んできたおじさんに、結局モコナが元気よく答えた。


†††


澪達は橋の上で先程購入したリンゴをかじりながら、少しばかりの休憩をしていた。

「おいしいねーリンゴ」
「はい」
「私の国の林檎と少しだけ違う味がします。見た目はそっくりなのに」

両手で持ったリンゴを小さくかじりながら、澪は不思議そうにリンゴを見つめる。

「けど、ほんとに全然違う文化圏から来たんだねぇ。俺達」

同じ名前の食べ物でも、国によってそれを示す食べ物が変わることを悟ったファイが不思議そうにそう言う。
そして思い出したかのように彼は言葉を続けた。

「そいえば、まだ聞いてなかったね。小狼君はどうやって、あの次元の魔女のところヘ来たのかなー?」
「俺がいた国の神官様に送って頂いたんです」
「すごいねー、その神官さん。1人でも大変なのに、2人も異世界ヘ同時に送るなんて」

ファイと小狼が話しているとその横でモコナが1口でリンゴを飲みこんだ。澪は吃驚して思わずリンゴを落としそうになった。
ぱちぱちと何度も瞬きしながらモコナを抱えなおす。この小さな身体と同じくらいのリンゴがモコナの身体に消えていったのだ。思わずモコナの身体をふにふにと触ってしまうが、そういえば自分達はモコナの口に吸い込まれた後に次元を超えたことを思い出し、澪はひとりどうにか納得する。

「澪ちゃんは?」
「私?」

モコナの神秘を見てしまっていた澪はファイに話を振られてきょとんと声を上げて、その後、思い出すように頬に手を当てて、困惑のまま少し首を傾げた。腕の中にいたモコナはいつのまにか黒鋼の方へと飛び乗っていた。

「私は…、よくわからない人達に追いかけられて…。建物の屋上から落ちて、気付いたら魔女さんの所にいました」
「落ち…ッ?」

澪の言葉に小狼が驚く。心配そうな表情を浮かべた小狼が澪のことを見つめた。

「怪我とかしなかったんですか?」
「うん。怪我はしな……ううん。そういえば…」

澪は侑子のところへ行く前に、腕を切られていたことを唐突に思い出した。そして切られたはずの腕を見るが、そこから痛みは感じず、あったはずの切り傷は綺麗に無くなっていた。
彼女は「あれ…?」と内心疑問を抱く。確かに、あの時、切られたはずだ。それなのに。

不思議そうに自身の腕に触れている澪に小狼が心配そうな視線を向ける。

「怪我してるんですか!?」
「え。あ。ううん。大丈夫だったみたい。
 あと、小狼君、私には敬語じゃなくてもいいよ。私達同世代っぽいし。ね?」
「は、はい」

なんでもないというように手を軽く振り、ついでにお願い事を告げれば、小狼は戸惑いながら澪に向かって頷く。


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