「待った――――――!!!!」

突然響き渡った声に澪はびくりと肩を震わす。黒鋼も手にしていたヘラも大きく上げていた。
その場の全員が声がした方を見ると、そこには2人の店員が立っていた。小狼の目が丸くなる。

「王様と神官様!?」

こちらに寄ってきた店員は不思議そうな顔をして、小狼を見る。

「誰かと間違ってませんか? 俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」
「え?」

小狼に王様と呼ばれた店員は黒鋼を見て、軽い注意を促す。

「お客さん。こっちでひっくり返しますんで、そのままお待ち下さい」
「お、おう!」

大人しく返事をしてしまう黒鋼。ファイは店員2人を見送ってから、小狼に向き直った。

「王様って小狼くんが前いた国の?」
「はい…」
「次元の魔女が言っていたとおりだねぇ。
 『知っている人、前の世界で会った人が、別の世界では全く違った人生を送っている』って」
「何だか……不思議な感じですね」
「ならあの2人は、ガキの国の王と神官と同じってことか」
「同じだけど、同じじゃないかなぁ。小狼くんのいた2人とはまったく別の人生をここで歩んでるんだから。
 でも言うなれば『根元』は同じかな」
「根元?」

眉根を寄せて聞く黒鋼に、ファイは指でハートを作り見せる。

「命の大元。性質とか心とか」
「魂って事か」

黒鋼は納得したように頷く。澪はよくわかってはいなかったが、ただコクンと頷いていた。
小狼は気になるのか、ずっと店員を見つめていた。

「小狼くーん」

ファイが声をかけると、小狼ははっとファイを見る。澪が答えた。

「なくなっちゃうよ?」

小狼が前を見ると、黒鋼とモコナで元気よくお好み焼きを食べている。
澪はクスクスと笑いながらモコナとお好み焼きを半分ずつにしている。小狼も苦笑するとみんなと同じく食べ始めた。


†††


「おいしかったー!」
「ほんとだねー」

モコナとファイが満足げに言うと、小狼と澪は正義にお礼を言った。

「さてと、これからどうしよっかー?」
「もう少しこの辺りを探してみようと思います」
「でも。私達、あまり遠くには行けないよね…。迷子になっちゃう」

そこで正義が口を開いた。

「あ、あの! 何処か行かれるんですか!?」
「はい」
「場所は何処ですか?」
「……わからないんです。探しているものがあって……」

正義は嬉しそうに小狼に笑い掛けた。

「だったら僕も一緒に探します!」
「でもご迷惑じゃ……」
「全然! 家に電話してきます!」

そう言って正義は近くの公衆電話に向かって走り出す。

「ほんとに憧れてるんだね」

ファイの言葉に小狼は照れた顔をする。モコナは小狼の頭の上に乗ってピョンと跳ねている。
そこで、ファイが思い出したように口を開いた。

「そう言えば、話が途中になっちゃったね。
 夢を見たんだって?」
「はい。さっき出てきたあの炎の獣の夢です」
「妙な獣の夢なら俺も見たぞ」
「俺も見たなー。何か話しかけられたよー。澪ちゃんは?」
「……私も…見ました。あの子が私の巧断なのかな?」
「『シャオラン』ってのは誰だ!」

いきなり、大声が澪達の耳に飛び込んできた。声の方を見れば、モヒカンにサングラスをかけた集団がいた。
叫んでいたのはそのリーダーらしい、小柄で丸い男のようだった。

「何か用かなぁ?」
「笙悟が気にいったといったのはお前か!?」
「だとしたら?」
「ファイさん!」

挑発するような言葉を返すファイ。澪はパタパタと慌てながらファイの腕を引く。喧嘩や争いになるのは極力避けたいのだから。

「小狼は俺です」

そこで小狼は自ら名乗り出た。澪は小狼を不安そうな瞳で見つめるが、ファイは変わらずにこにこと笑みをたたえながら、場の様子を伺っているようだった。
モヒカン男は混乱しつつも同じグループの部下らしい人に何やら確認を取っていた。

「こんな子供か! ほんとに!?」
「ほんとっす! 間違いないっす!!」

男は小狼に再び向き直る。

「笙悟のチームに入るつもりか!」
「チーム?」
「笙悟んとこはそれでなくても強いヤツが多いんだ。これ以上増えたら不利なんだよ! 
 笙悟が認めたんだ! お前も相当強い巧断が憑いてるんだろう!
 もし笙悟のチームに入るつもりなら容赦しないぞ!!」
「入りません」

きっぱりと否定する小狼。男はそれならと目を輝かせている。

「だったらうちのチームに入れ!」
「入りません」

きっぱり。少し離れたところでファイが微笑みを浮かべる。

「小狼くん、きっぱりだねー」
「俺にはやる事があるんです。だから……」
「新しいチームを作るつもりだな!」

ぐぐぐと震えつつ拳を握り締めていた男がバッと大声を出してそう声に出した。小狼はうろたえながら手を振った。

「いえ。そうじゃなくて」
「今のうちにぶっ潰しとく!」
「でっかいねー」

現れた蟹を象った巧断にファイとモコナの声が重なる。
だが、小狼はあくまで冷静に否定を言葉を返していたが、男はもう聞く耳を持っていないようで、大きな蟹型の巧断が回転するように尾を振り回す。

その攻撃をしゃがんで躱す小狼だったか、彼のすぐ後ろにあった柱が大きく抉れる。人間にそのまま当たったらただでは済まないだろう。
じっとファイの視線が一瞬だけ鋭くなる。不安げな表情を浮かべる澪がきょろきょろと小狼やファイの表情を伺っていた。

その時。黒鋼が無言で前に出た。不敵な笑みを浮かべ男を睨みつけている。

「ちょっと退屈してたんだよ。俺が相手してやらぁ」

ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべている黒鋼に、少し後ろにいたファイと澪の頭に乗ったままのモコナが顔を見合わせていた。

「退屈なんてしてないない」
「満喫してたよねぇ。阪神共和国を」
「うるせぇぞ、そこ!」

黒鋼の叱責が飛んでくるがファイもモコナもどこ吹く風だ。小狼が不安げに声をかける。

「けど、黒鋼さん。刀をあの人に……」
「ありゃ破魔刀だ。特別のな。
 俺がいた日本国にいる魔物を斬るにゃ必要だが、巧断は「魔物」じゃねぇだろ」

いきなり出てきた黒鋼に男は荒々しく問いかける。

「お前の巧断は何級だ!?」
「知らねぇし興味ねぇ。ごちゃごちゃ言ってねぇでかかって来いよ」
「小狼くーん!」

その時。正義が駆け足で戻ってきた。騒ぎを聞きつけたのかもしれない。ファイが正義に問いかけるためにも、男を指差す。

「正義君、あれ、知ってるー?」
「この界隈を狙ってるチームです! ここは笙悟さんのチームのナワバリだから!」
「強いの?」
「一級の巧断を憑けてるんです! 本人はああだけど巧断の動きは凄く素速くて、それに!」
「くらえ! おれの一級巧断の攻撃を!! 『蟹鍋旋回(カニナベセンカイ)』!」

再び回り始めた蟹が黒鋼を襲う。黒鋼は素早くバク転をして避けたが、黒鋼の背後にあった柱がスパッと斬れた。
蟹の巧断は身体を一部を刃物のように尖らせることができるようで、攻撃が当たる瞬間に身体を尖らせてくる。

そうして蟹の巧断は丸腰の黒鋼をどんどんと追い詰めていく。

「危ない!」

飛びだそうとした小狼をファイが止めた。

「手。出すと怒ると思うよー」
「『蟹動落(カニドウラク)』!!」
「黒鋼さん!」

ガラガラと黒鋼が瓦礫の下に埋まった。はっと澪は口元を抑える。
男は勝ち誇ったように瓦礫に埋まった黒鋼に言い放つ。

「巧断はどうした! 見せられないような弱いヤツなのか!?」
「ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ」

黒鋼が口に笑みを保ったまま瓦礫の下から出た。男は微かにうろたえながらも強がりを言う。

「俺の巧断は一級の巧断の中でも特別カタイんだぁ!」
「けど弱点はある。
 あー、刀がありゃ手っとり早く……」

黒鋼がそう呟いた瞬間。
黒鋼の背後に突然巨大な蒼い竜が現れた。黒鋼は目を見開いて竜を振り返る。

「お前…夢の中に出てきた……」

現れた竜は身体を水に変え、その水は黒鋼の前で大振りな剣の形に変形した。
黒鋼は笑みを零しながらその剣を手に取る。

「使えってか? 何だ。お前も暴れてぇのかよ」

黒鋼の巧断を見て、男は目に見えてうろたえる。

「そ…! それがお前の巧断か! どうせ見かけ倒しだろ!
 こっちは次は必殺技だぞ! 『蟹喰砲台(カニクイホウダイ)』!」
「どんだけ体が硬かろうが刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」
「『破魔・竜王刃(ハマ リュウオウジン)』」
「ぐああああああ!!」

黒鋼の技が華麗に決まり、男が苦しそうに悲鳴を上げ、身体を折り曲げる。
倒れた男の周りに部下達が集まる。男が呻きながら黒鋼を震える指で差した。

「も…もうチーム作ってんじゃねぇか。
 お前「シャオラン」のチームなんだろ!」
「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ、生涯ただ1人にしか仕えねぇ」

黒鋼は剣を肩に担ぎ、瓦礫の上で「帰る」という願いを抱いた主を思う。

「知世姫にしかな」


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