次の日。澪達は正義と一緒に、以前訪れたお好み焼き屋に再度集まっていた。
鉄板の上では美味しそうなお好み焼きが人数分焼かれている。モコナと黒鋼はお好み焼きが焼き上がるのを今か今かと待ち望んでいた。
小狼は改めて正義へとお礼を告げていた。昨日はサクラの羽根を彼女に返すために、急いであの場を離れてしまい、お礼もおざなりになってしまっていたのだから。
「正義くん、本当に有り難うございました」
「僕も…巧断もずっと弱いままだったから。だから…ちゃんと渡せて、本当に良かったです」
照れくさそうな正義の言葉に小狼が首を左右に振った。お好み焼きをかけて箸を戦わせている黒鋼とモコナをよそに、澪とファイは微笑みを浮かべていた。
「弱くなんかないです。戦うことだけが強さじゃない。誰かのために一生懸命になれることも、立派な強さです」
小狼の優しい微笑み。正義は、小狼を見つめた後、涙すら浮かべて頷いた。憧れている人物からの賞賛がたまらなく嬉しいのだろう。
「有り難うございます!」
「………澪さんも」
「? 私?」
箸でお好み焼きを一口大に分けていた澪は小狼の言葉にふいと顔を上げた。膝の上にいたにゃんくんが転がる。小狼は澪に優しげに微笑んでいた。
「側にいてくれてありがとうございました」
「………。それが私の願いですから」
澪は笑顔で誤魔化すように。次元の魔女に言った願いをもう1度、小狼に言った。
「『貴方達の側にいる』。私はそれが願い。逆に私の我が儘に付き合ってくれてありがとね」
屈託なく笑う澪に小狼はペコリと頭を下げて微笑んだ。澪も幸せそのものの顔を彼へと返した。
そこに不意に人影が近付いてきた。
「よう」
「笙悟さん!」
現れた笙悟に小狼は声を掛けた。笙悟は正義の隣に座り、他の店の席にはいつの間にか笙悟の仲間達がわらわらと集まってきていた。
どうやら笙悟のチームの情報網により、小狼達の居場所を見つけだしたようだ。笙悟は店員に一枚追加注文しながら、小狼達に問いかける。
「怪我とか大丈夫か?」
「はい。戦いの途中ですみませんでした」
「いや、あの状態じゃ仕方ねぇだろ。それにあのバトルは完全に俺の負けだ」
澪は話を聞きながらお好み焼きを口に運ぶ。そこで黒鋼の手により焼かれそうになっていたモコナにはっと手を伸ばした。
「黒鋼さん、モコナちゃんが焼けちゃいます!」
「あ?」
「わーん、澪、アリガト!」
「にゃんくんなら焼いてもいいですよ」
「おい」
『澪さん!?』
「冗談だってばー」
笑顔で続ける澪に黒鋼は呆れた様な、にゃんくんは非難の声を上げる。全く小狼達の話を聞いてない。
それからお好み焼きを食べ終えた澪達は、店の前で笙悟達と別れの挨拶をしていた。
「いつまで阪神共和国にいるんだ?」
「もう次の世界…いえ、国に行かなければならないんです」
「そっか。バトルだけじゃなくて、あちこち案内してやったりしたかったんだけどな。プリメーラも残念がる」
「プリメーラちゃんにもよろしくお願いします」
もっとプリメーラとも仲良くなりたかったと思う澪も笙悟にそう答える。笙悟は笑顔で「わかった」と短く約束してくれた。
その隣で、小狼は正義と握手をしていた。
「またこの国に来たら会いに来ます、必ず」
「元気でー!!」
踵を返し歩き出していると、わっ!! と急に笙悟達が賑やかになった。澪が後ろを振り向くと、正義が笙悟のゴーグルを付け嬉し泣きをしている。
きっと彼らのチームに入れて貰えたのだろう。
「正義くん、良かったね」
澪は少し振り返り、笑顔で呟いた。
†††
下宿屋に帰って来た澪達は、1番最初に着ていた、自分達の国の服に着替え、庭に出ていた。
澪も女子高の制服を着替え終わっている。サクラは自分の服に、小狼が着ていた外套を羽織り、寝ぼけ眼でぼんやりとどこかを見つめていた。
澪は眠そうにしているサクラを心配そうに覗き込む。
「大丈夫?」
「まだちょっと眠いだけだから」
目を擦りながら答えたサクラに澪ははにかみかけて、彼女と手を繋ぐ。2人を見ていた小狼は複雑な表情を浮かべ、下を向いた。
「下を向くな。やらなきゃならねぇことがあるんだろ。前だけ見てろ」
黒鋼が小狼を見ずにそう言った。小狼は驚いたように黒鋼の顔を見て、そして、決心したように前を見る。
「……はい」
小狼が返事をした時、サクラの肩に乗っていたモコナがふわりと浮かび上がり、大きな真っ白い羽根を生やした。
そして同時に魔法陣が澪達の足元に広がる。小狼が改めて空汰達へお礼を告げた。
「ほんとうに、有り難うございました」
「なんの! 気にするこたぁない」
「次の世界でも、サクラさんの羽根が見つかりますように」
澪は未だにモコナに包まれる感覚が気になるのか、サクラと繋いだ手に力が込もる。
そして澪達が消えていった場所を見つめながら、空汰と嵐は寄り添いあう。
「侑子さんが見込んだヤツらや。これから何があっても切り抜いていくやろ」
「…ええ」
幸せそうな2人が澪達が消えた場所を見つめていた。
†††
「ありがとうね」
澪は自分から抜け出したにゃんくんにお礼を言った。
少し寂しそうな彼は、澪の頬に顔を近づけてごろごろと喉を鳴らした。
『元気でね。澪さん……』
「きっと、また会えるから大丈夫!」
澪は笑顔でにゃんくんを撫でる。そして、離れていく彼から名残惜しそうに手を離した。
「本当にありがとう」
お礼を言って、最後に振り返ると、にゃんくんの側に大きな雷が近寄り、にゃんくんの身体を包み込んだ。
きっと彼の親だろう。澪は満面の笑みを浮かべて、前を向いた。
少しだけ幸せな気持ちを微かな不安を抱えながら。
「こんな夢みたいな旅も悪くないよね……?」
いつの間にかにゃんくんたちは澪の随分後ろに飛んでいて、澪は前を見つめていた。
次の世界の景色がもう彼女らには見えていた。
(巧断の国)