「いやだ!!」
春香の全力の声が響く。先程侑子から受け取ったものを持って、小狼、黒鋼、ファイ、澪の4人と羽根の気配を調べてもらうための1モコナで領主の城へと向かおうとしていたが、春香が付いていくと言って小狼に詰め寄っていた。
「私も領主の所ヘ行く!」
「領主の城には秘術が施してあるしね。危険だよー」
「承知の上だ! 一緒に行く!! 澪だって行くんだ!」
「困ったなぁ」
春香を危ない目に合わせるわけにもいかない、戦闘力のない澪も連れて行くということもあって、彼女を説得するのは難しそうだ。
困り顔のファイと澪は後ろにいる黒鋼をチラリと見る。黒鋼はその視線に即答。
「俺ぁ、ガキの説得はできねぇからな」
「照れ屋さんだからー?」
「て、照れ屋さん……」
ファイがからかい、黒鋼は青筋をたてた。澪達が無理だと思った春香は小狼の腕を掴んで涙ながらに訴える。
「行って領主を倒す! 母さんのカタキをとるんだ!! 絶対一緒に行くからな!
いいだろ!? 小狼!!」
「だめです。ここでサクラ姫と待っていて下さい」
だが小狼は春香の手を振りほどき、真っ直ぐに歩き出した。澪達も黙って彼の後を追う。
†††
「言えば良かったのにー」
ファイが軽く後ろを振り返りながら小狼に言う。
「春香ちゃんを連れて行かないのは、これ以上迷惑かけないためだって」
春香は余所者である澪達と一緒にいるところを見られており、家に泊まったことももう知られているだろう。
それに加えて城に攻め入り、領主に倒せなかった場合、春香へどんな被害が及ぶかわからない。
何も答えない小狼。無言は肯定として、澪はにこにこと優しげに笑った。黒鋼が言い切る。
「とにかく、その領主とやらをやっちまやぁいいんだろ」
「そうですね」
「で、サクラちゃんの羽根が本当に領主の手元にあれば…」
「取り戻します」
小狼がまっすぐ前を向いたままそう言い切った。ようは勝てばいいのだ。
領主がいる城に辿り着いた澪達は、大きな門の前にいた。門は高身長の黒鋼やファイよりもはるかに大きな門で、澪はどうやって開けるのだろうと上を仰ぐ。
「さっさと入るぞ」
「はいっ」
ぐっと門に手をかけて開けようとしている黒鋼に返事をして、澪も後ろから彼を見守る。頭の上にモコナを乗せたファイが2人に声をかける。
「そのまま、門、開けても駄目―――」
ファイの声の途中で黒鋼が門を開く。そこには街並みが逆さまに――空に街並みが広がっていた。本来地面がある場所に空がある。
「ああ!?」
「わぁ、凄い!」
「だからこの城は秘術で守られているんだってー。この門だけじゃないよ。他の入り口も全部こんな感じでしょー」
そしてファイはキラキラと、小狼を示すように手を差し出した。
「そこで! 次元の魔女さんにもらったモノの出番だよー」
小狼は懐からさっきの黒い球体を取り出した。黒鋼はそれをまじまじと見る。
「どうやって使うんだよ、それ」
「投げてー! 出来るだけ遠くヘ投げて! あの城に届くくらい!!」
モコナに言われ小狼は、モコナと軽く相談をしたあとに、黒い球体を軽く上に投げる。
そしてその球体が落ちてくると、蹴って遠くに飛ばした。
すると黒い球体は城の周りに飛び散り、パンッと秘術を破った。
前の国では巧断、この国では秘術。という今までの暮らしでは見ることができなかったものを見て、澪は目をきらきらと輝かせていたが、敵の本拠地。ということで彼女は少しだけ表情を引き締めた。
†††
長い廊下が続く。真っ直ぐに続く廊下は道だけが続き、いつまでたっても部屋が見えてこない。
「中に入ったはいいが。いつまで続いてんだよ、この回路はよ」
「真面目に歩いてるんだけど、どこにも着かないねぇ。扉もないし」
「はい……」
若干歩き疲れてきた澪が元気のなさそうに呟く。ファイが澪を気遣う。
「大丈夫?」
「はい! 頑張ります!」
澪は頷くと、また元気よく歩き始めた。その前で小狼が止まり、歩き出した澪の顔が小狼に当たる。
「わ。澪さん、ごめんなさいっ」
「わ、私もごめんなさい!
……あ、あと、さん付けヤメテね?」
「え、えと…」
「ほらほら、そんなに年も違わないんだから、敬語もなし!」
「は、はい」
澪の我が儘に小狼はおろおろしながらも頷いた。頷く小狼に澪が悪戯な笑みを浮かべる。
と、そこで、小狼が道の先に何かをみつけ、しゃがみ込んだ。不意にしゃがんだ彼に視線が集まり、澪が問いかけた。
「何かあった? 小狼くん」
「元の位置に戻ってます」
「え? でも、真っ直ぐだったよ?」
「この回路の入り口近くに落しておいたんです」
振り返った小狼が見せたのは、先程ファイと黒鋼が遊んでいた黒い石だった。澪がわぁと歓声の手を打つ。
「小狼くん、凄い!」
「『ひゅー』小狼くんすごいー」
「今、口で言っただろ。吹いてなかっただろ」
「だって、口笛ふけないんだもーん」
ひゅーひゅーと何度も口で言うファイにモコナも合わせてひゅーと口ずさみ、澪がにこにこと微笑む。黒鋼がそれた話を戻した。
「ったく、あれだけ歩いてムダ足かよ」
「んー。これ以上歩くのヤだねぇ」
そう言ったファイは何かを感じ取るように瞳を閉じながら近くの壁を触れた。探すように、探るように、少し手を動かしたファイが何かを見つけ出し、小さく呟く。
「…ここかなぁ」
「どうしたんですか?」
「この手の魔法はね、1番魔力が強い場所に術の元があるもんなのー」
「この向こうに領主がいるのか?」
「わかんないけど、すごく強い力をこの向こうから感じる? かもー」
たしたしと壁を軽く叩くファイに黒鋼は眉根を寄せて見つめる。
「…魔力は使わねぇんじゃなかったのかよ」
「今のは魔力じゃなくて、カンみたいなもんだから」
何かを隠すように笑みを張り付けたファイに黒鋼は怪訝そうに顔を歪めたが、何も言わずに固い壁に拳を振り下ろした。
がらがらと音をたてて崩れた壁。その先には部屋が続いているようだった。どうやらあたりのようである。
部屋はそこそこ広い空間となっており、壁が崩れたことによって起きた土埃と、部屋の中にはお香が焚かれているのかほのかに甘い香りと薄い煙が漂っていた。
「誰かいます」
小狼が前を見据えて小さく言葉を零す。不安げな顔をしつつも小狼とともに並んだ澪は真っ直ぐに彼と同じものを見ようとした。
『よう来たな、虫けらどもめ』
そこにはとても美しい女が座っていた。