「なんか、注目されてるねー」

いつもと変わらないのんびりとしたファイの呟き。不安げな澪がちらと周りを見ると店の中にいる客達は、確かに彼女達へと視線を向けていた。

新しいの世界に到着した澪達は、まずは。と食事をとることにした。
だが、そのレストランで彼女達は、服もまだそれぞれの世界のものを着ているせいなのか、周りの人にじろじろと見られている。
視線が集まる体験など殆どなかった澪は居心地が悪そうに身動ぎしている。

「やっぱり、この格好がいけないんでしょうか」

こそこそとファイと小狼は話し合い、澪がそれに混ざる。
こくんこくんと眠たげに首を傾げているサクラの隣には、黒鋼がナイフとフォークをうまく使えずに、1人格闘していた。
澪がふと小狼を見る。既に料理が運ばれているが、彼はまだ一切手をつけてはいない。

「小狼くん、食べないの?」
「……俺達、この国のお金ないんですけど…!?」

澪に真剣に詰め寄った小狼に、澪は気まずそうに視線をそらす。それは澪も薄々気づいていた。
到着して躊躇うことなく真っ先に店に入っていったのはファイとモコナであったし、彼らはなんの躊躇いもなく料理を頼んでいたため、澪も謎の安心感を覚えて注文してしまったのだ。

だが、そこでファイが2人を安心させるかのようにニッコリと笑った。

「大丈夫だよー、ね。サクラちゃん」
「え?」

急に名前を出されたサクラが目を丸くした。不思議そうな顔をする小狼と澪を横に、ファイは立ち上がり、周りに声を掛け始めた。


†††


「えっと…こうなりました」

不安げなサクラが手持ちのカードを広げる。
そこには綺麗に絵柄の揃ったキングのカード。結果、向かいに座っていた男が悔しそうに呻いた。

「何度やっても勝てないなんてイカサマじゃないのか!?」

ファイが冷静に机の上の掛け金を袋に詰めていく。この数回の勝負で十分な軍資金は得ることが出来た。もうそろそろいいだろう。

「イカサマしている間なんてないでしょー?
 文句があるなら、あの黒い人が聞くけどー?」

ファイは、ぬいぐるみのふりをしているモコナに食事を取られ、不機嫌そうな黒鋼を指した。

「あぁ?」

黒鋼が面倒臭そうにこちらを見ると、文句を言っていた男達は押し黙る。
観客集めに参加していた澪は苦笑を向けて、サクラに声をかけた。

「サクラちゃんお疲れさまでしたー。
 お食事代もばっちり」

微笑む澪と眠たげながらもにこりと微笑むサクラ。そこで1人の店員がサービスで飲み物をサクラと澪に持ってきた。

「しかし凄いな、お嬢ちゃん」
「ルールとか分かってなかったんですけど、あれで良かったんでしょうか」
「面白い冗談だな!」

サクラの言葉に店員は愉快そうに笑った。サクラにとっては冗談ではなさそうだが。店員が澪達の服装を見ながら言葉を続けた。

「変わった衣装だな。旅人かい?」
「はい。探しものがあって、旅を続けています」
「行く先は決まってるのかい?」
「…いえ、まだ」

小狼が答えると、店員は神妙な顔付きになった。

「…だったら、悪いことは言わん。北ヘ行くのは、やめたほうがいい」
「なんでかなぁ?」
「北の町には、恐ろしい伝説があるんだよ」
「どんな伝説なんですか?」

澪が声をかけると店員は神妙に語りだした。

「昔、北の町のはずれにある城に、金の髪のそれは美しいお姫様がいたらしい。
 ある日、姫の所に鳥が1羽飛んで来た。
 輝く羽根を1枚渡して、こう言ったそうだ。
 『この羽根は『力』です。貴方に不思議な『力』をあげましょう』
 姫は羽根を受け取った。
 そうしたら王様とお后様がいきなり死んで、姫がその城の主になった。
 そしてその羽根にひかれるように次々と城下町から子供が消えていって、2度と帰って来なかったそうだ」
「……お伽話みたいですね…」

澪が呟くと店員は実話だと首を振る。小狼が顔を上げて真剣に話を聞いていた。

「実際に北の町に、その城があるんですね」
「もう300年以上前の話だから、ほとんど崩れちまってるがな」
「で、そんな怖い話があるから、北の町には行っちゃいけないのー?」
「いや。伝説と同じように、また子供達が消えはじめたんだよ」


†††


「……『力』をくれる輝く羽根。
 なんだか、サクラちゃんの羽根っぽいねぇ」

店を出た澪達は先程手に入れた軍資金で馬を買い、小狼とサクラ、黒鋼とモコナ、澪とファイが一緒の馬に乗り、息が白くなるほどの寒さの中、噂の北の町へと向かっていた。
深い森の中に一本道が続いており、葉が落ちて枝だけになった木が空を覆っていた。

「いい感じにホラーってるねぇ」
「……枝の曲がり方が本当にホラーです…」
「そりゃどうでもいいが、冷えて来たな」

ファイの腕に隠れながら、澪は灰色の空を見上げる。
小狼は前に座っているサクラを窺う様に見た。

「大丈夫ですか?」
「平気です。この服、暖かいから」
「サクラちゃんの国は砂漠の真ん中にあるんだっけ」
「はい。でも、砂漠も夜になると冷えるから」
「黒るんとこはー?」

黒鋼の方に寄り訊くファイ。一緒に澪がくるんと揺れた。
黒鋼はファイの呼び名に不機嫌になりながらも、だいぶ慣れてきたのか彼の問いにきちんと答える。

「日本国には四季があるからな。冬になりゃ寒いし、夏になりゃ暑い」
「あ、私も同じです。春夏秋冬、全部ありました」
「ファイの所はどうだったの?」
「寒いよー。北の国だったから。ここよりももっと寒いかな」
「小狼くんは?」
「俺は父さんと色んな国を旅してたので」
「寒い国も暑い国も知ってるのね」

そういいながらサクラは微笑んで小狼を見た。記憶は失っているとはいえ、サクラの言葉に小狼は曖昧に微笑む。
風が吹き込み、澪がまた身体を震わせた。
ファイが気遣うように自分のマントの中に澪を入れると、澪はファイを見上げて、照れた顔で微笑んだ。

「あ、ありがとうございます。暖かいです」
「それは良かったー」

黒鋼の元から飛んできたモコナは澪と一緒にファイの中に入っていた。


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