しばらく歩いていると、澪が何かを見つけ指をさした。

「あれ。なんでしょう?」

澪が見付けた看板には『SPIRIT』と書かれている。
澪はその看板を見てから、またファイの体にくっつく。よっぽど寒いのだろう。

「なんて書いてあるのかなぁ」
「……『スピリット』って読むんだと思います。前に父さんに習った言葉と同じ読み方なら」
「読めるんだー」
「凄いね。小狼くん」
「おい。はしゃいでる場合じゃねぇみたいだぞ」

不思議な文字を読める小狼に盛り上がる面々だったが、近づいてきた町の異変に気が付いた黒鋼が声を潜めて声をかけた。

馬に乗ったまま近づいて行く澪達。町の中に入っていくと、町は異常な程に静まり返っており、通りには誰ひとりとして出歩いていなかった。だが、決して廃墟と化しているのではなく、よく見ると窓越しに外を伺う人影がちらほらと見つけられた。

澪達はそんな街の様子に戸惑いながらも、中へと進んでいく。
家の中には人がいるようだが、彼らが近くを通ると窓を乱暴に閉め、とことん警戒された。
澪は異様な町の様子が怖かったのかファイのマントの中にちょこんと隠れてしまっていた。

「なんか、歓迎されてないって感じがバシバシするねぇ」
「されてねぇだろ実際」
「こ、怖い…ですね……」

そこで小狼が家の前で、猫の縫いぐるみを抱えた女の子を見付けた。彼は優しく微笑み、話かける。

「こんにちは。
 聞きたいことがあるんだ。この町の――」
「外に出ちゃダメって言ったでしょ!」

小狼の言葉を遮るように、突然家の中から出て来た子供の母親が子供を家へといれ、扉を強く閉じてしまう。
その光景を見たファイがしんみりと呟いた。

「これはやっぱり、あの酒場で聞いた話のせいかなぁ。
 伝説を確かめようにも、これじゃ話も出来ないねぇ」
「せめて金髪の姫がいたという、城の場所だけでも教えてもらえるといいんですが…」
「誰か来ましたよ」

大勢の足音が近づいてきて、澪が不安そうにファイの腕の中で呟いた。ファイが不安げな澪を安心させるように頭を撫でる。頬を微かに赤らめる澪が視線を少しそらして、そして近づいてきた町の人達へと視線を向けた。

「お前達何者だ!?」

澪達を囲むように現れた町の人達はそれぞれにライフルを持ち、銃口を澪達へと向けていた。
ファイは咄嗟に腕の中にいる澪を庇うよう胸元に押し付け、小狼も同じくサクラを守るように身体を向けた。
銃口を突きつけられながらも小狼が冷静に話しだした。

「旅をしながら、各地の古い伝説や建物を調べているんです」
「そんなもの、調べてどうする!」
「本を書いているんです」
「えっ? ――むぐっ」

真面目顔でしれっと答える小狼。澪は疑問の声をあげそうになったが、そのままファイに押さえ付けられた。
街の人は信用しきれず怪しんでいるのか、小狼に怒鳴りかかる。

「おまえみたいな子供が!?」
「いえ、あの人(ファイ)が」
「そうなんですー」

突然小狼に話しを振られたが、ファイは驚く事なく微笑みを向けた。澪は瞬きをしつつ小さく感心。

「で、その子(サクラ)と腕の中にいるの(澪)が俺の妹達でー。
 その子(小狼)が助手でー。彼(黒鋼)が使用人」
「誰が使用人…がっ!!」

ファイに向かって文句を言おうとした黒鋼が服の中にいたモコナに頭突きを食らわされ、声が途絶える。
納得のいかないような街の人に澪は微かに心配そうだ。
そこで新たな声がライフルを持った町の人達を遮った。

「やめなさい!」
「……先生!」

突然駆け寄って来た人が周りの人達の銃を下ろせ、澪達も少しだけ警戒を解く。新たに現れた人物は澪達と町の人達の間に入り、制止の声をかける。

「旅の人に、いきなり銃を向けるなんて!」
「しかし、今の大変な時期に余所者は…!!」
「余所から来た方だからこそ、無礼は許されません。
 ……失礼しました旅の方達。ようこそ『スピリット』へ」

そして困惑のまま歓迎されるはSPIRIT―――霊の国。


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