それから案内された先には、一軒の大きな家があった。無礼を働いたお詫びにと、ここで寝泊りをしていいとの許可を得ることができた。
部屋に入り、澪はファイの中からようやく出る。出た後も、未だ寒いのかそのままファイの隣にくっついたまま座っていた。
先程助け出してくれた人が改めて自己紹介を始める。

「この町の医師、カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます。泊めて頂いて」
「気にしないで下さい。ここは元は宿屋だったので、部屋は余っていますから」

カイルが飲み物を皆に配っていると、突然、乱暴に扉が開き、男の人と老人が入って来て荒々しく声をかけた。

「どういうことだ先生!
 こんな時に素性の知れない奴らを、引き入れるなんて正気か!」
「落ち着いてグロサムさん」
「これが落ち着いていられるか! 町長!! まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」

グロサムと呼ばれたいかついその人は、杖を床に叩きつけ荒々しく大きな音をたてた。その音に澪の肩がびくと震える。
カイルは小狼たちの前に出るとグロサムと向き合った。

「だからこそです。
 この方達は、各地で伝説や伝承を調べてらっしゃるとか。
 今回の件、何か手掛かりになることをご存知かもしれません」
「どこの馬の骨とも分からん奴らが、何を知っていると言うんだ!」

グロサムは引き下がらずカイルを睨んでいた。

「この地で暮らす者では分からないことを――」
「これ以上、何かあった後では遅いんだぞ!」

グロサムは眉根を寄せカイルを睨むようにしてから踵を返した。老人――町長が心配そうにグロサムとカイルを交互に見るが、やがてグロサムを追い掛けて行った。

「グ、グロサムさん!
 とにかくその人達を夜、外に出さんようにな先生!」

町長は早口でカイルに忠告すると、そのままグロサムの後を追い、出て行った。
一息ついたところで、カイルは申し訳なさそうにファイ達に頭を下げる。

「すみません紹介も出来ないで。
 今のが町長とグロサムさん。グロサムさんは、この町の殆どの土地の所有者です」
「大変な時に、お邪魔してしまったみたいですねぇ」

子供が原因不明のまま次々と行方不明になり、大人達は気が気ではないのだろう。小狼がカイルへと向き直った。

「隣町で聞きました。この『スピリット』の伝説の事とか」
「私もあれは良くある只のお伽話だと思うんですが。
 まさか本当に子供達が、いなくなってしまうとは…。
 手を尽くして探しているんですが1人も見つからなくて、もう20人になります」
「俺達を見て警戒するワケだ」
「……心配ね」

澪がぽつりと呟く。カイルが真剣な瞳で小狼達へと語りかけた。

「さっきグロサムさん達に言ったように、些細なことでもいいんです。
 子供達を探す糸口があれば教えて下さい」

小狼と澪がコクンと頷く。澪はそのまま気怠そうにファイの肩口に頭を置いていた。
その後、カイルは小狼達の部屋を準備すると部屋から出て行った。

「羽根、見つかるといいね。小狼くん」
「はい」

小狼が澪に笑いかけ、澪もふわーと笑っていた。
ファイが不思議そうに澪を覗き込む。

「澪ちゃん。ちょっといい?」
「え。あ、はい」

澪がふわふわしながら返事をしているとファイが澪の額に額を合わせた。突然のことに澪は驚き、周りはファイの姿を凝視していた。

「えっ!?」
「ファイ、だいたーん」
「うるせぇぞ、白饅頭」
「んー? ……澪ちゃん、熱ある?」

ファイが呟き、澪はふいと横を向いた。不機嫌そうに澪はぶつぶつ呟く。

「ちょっとふらふらしますけど、大丈夫ですよ。熱じゃないです。ファイさんの腕が冷たくて気持ちいいんです」

澪はぷぅとファイの腕に頬をつける。
そんな様子を見て、黒鋼が澪の近くに来て、幾分乱暴に澪の首に手を当てる。モコナが黒鋼の肩から覗き込んで心配そうに澪を見た。

「どう?」
「少し熱いな」
「大丈夫です!」
「寝てろ」
「嫌です!」

意外と我が儘な澪はふて腐れるようにファイの腕にしがみついていた。
だが症状は悪化してきているのか、澪はとろんとした瞳をしながらファイの肩に頭を置いていた。苦笑を零した小狼が立ち上がる。

「カイル先生を呼んできます。丁度、この町のお医者さんみたいなので」
「お願いねー、小狼くん」
「大丈夫ですもん」
「澪ちゃん、くたくたじゃない。
 この国で羽根は俺達で見つけるから、澪ちゃんは我慢して?」
「ぷぅ」

澪は頬を膨らましていたが、最後には諦めて戻ってきたカイルの診察を大人しく受けていた。

「―――過労による発熱ですね。少し寝ていればすぐによくなりますよ」
「ありがとうございます」

診察が終わり、ファイがカイルに礼を言う。
すでに澪は1階の奥の部屋に寝かされており、その隣でサクラが心配そうに覗き込んでいた。

「大丈夫? 澪ちゃん…」
「大丈夫だよー。サクラちゃん、そんな顔しないでよぉ」
「でも澪、顔赤いよ。無理してた?」

モコナがぴょんと澪の頬の近くに寄るが、澪は首をぶんぶん振った。
ファイがふぅと安堵の息をついてから澪の額に手を置いた。

「とにかく。澪ちゃんは寝ててね。
 絶対に無茶しちゃ駄目だよ」
「……わかりました」

澪はぶぅぶぅ言いながらも疲れていたのか、すぅと寝てしまった。

「……じゃあ今日は俺達も寝ようか」

ファイの言葉に従い、小狼達もそれぞれ借りた部屋へと向かった。


†††


朝。
澪はぼんやりと目を覚ました。まだ身体は怠く、疲れていた。

「熱が出るとか…、最悪…」

澪にとって次元を超えるという事は身体に酷く負担をかけていたようだ。
心配してくれる仲間達に感謝しながら、そのまま枕へと顔をうずめる。

あまりに昨日、ぐったりとしすぎて、ファイにくっついていたのが、今更ながら恥ずかしくなってきた。
早く体調を元通りにしなくっては、と気負う澪。再び襲ってくる睡魔に逆らわず眠ろうとした瞬間。


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