カイルに歴史書は町長の所に行けばあると教えられ、早速小狼達は行動していた。出かける支度をする小狼達を見て、上着を肩から掛けたままの澪は不服げに頬を膨らませていた。
風邪をひいている澪はこれからカイル宅で留守番なのだから。
「何か手がかりが見つかったら私にも教えてね」
澪は小狼やサクラに口を尖らせながらそう言う。2人は拗ねる澪に苦笑を浮かべながら、きちんと澪と約束をする。カイルは澪の容態を見つつ、引き続き治療してくれるそうだ。
「きちんと寝てないと」
「はーい。いってらっしゃーい。気を付けて」
玄関先で手を振った澪はふぅと息を吐く。比較的落ち着いてきてはいるが、まだ熱は下がっていないのだろう。
澪は申し訳なさそうにカイルへと振り返った。
「すみません…」
「いいんですよ。子供達の回診で少し出入りするかもしれませんが、基本的にはここにいますから」
カイルはにこりと笑顔を浮かべる。澪もはにかみながらも、借りた部屋へと戻り、もぞもぞとベッドの中に潜っていった。
横になりながら、澪は深く溜息をつく。こんな調子ではこれから先も彼らの足を引っ張ってしまうに違いない。
気を重くしつつも、体力はやはり落ちているようで、目を閉じればすぐに眠りに落ちていった。
†††
子供が最初にいなくなったのは2ヶ月前のことだった。早朝、木の実を拾いに行ったきり、その子はそのまま家に帰ってこなかった。
大人達の町中での捜索も虚しく子供は見つからず、それから1人、2人、時には3人一緒にいなくなったりと。徐々に子供達がいなくなり、今では21人の子供達が行方不明となってしまった。
大人達は何度も注意をし、言い聞かせているのにも関わらず、いつも暴れた様子もなく、子供だけが忽然と消えてしまっている。
子供達の行方不明事件に加えてここ数年気候が安定せず、凶作続きということもあり、暮らし自体も脅かされつつあるという。
そんな町長の話を聞いた帰りに、廃墟となっている城の様子も見てきたが、城の前には大きな川が流れており、とてもじゃないが子供を抱えたままでは渡れそうにはなく、城の中までは見ることは出来なかった。
「今、小狼くんが借りてきた歴史書で何か見つからないか探してくれてるの」
約束通りサクラから今日の収穫の概要を聞いていた澪は思っていた以上に子供達が行方がわからなくなっていることに、表情に不安を乗せる。
澪とサクラの手には暖かいミルクの入ったマグカップ。ベッドから半身を起こしてサクラの話を聞いていた澪はちらりと窓の外を見る。
外は雪が降り積もったままだ。子供達が寒空の下にいる可能性も考え、2人の表情は明るくない。
だが、ここで考えていても仕方がないのは2人もわかっているのか、サクラは小さく首を左右に振ってから、澪に小さく微笑みかけた。
「澪ちゃんは? 具合どう?」
「今朝よりもだいぶ調子が良いよ。カイル先生から頂いた薬も効いてるみたい」
にっこりと笑顔を浮かべてガッツポーズをする澪に、心配顔だったサクラも少しは安心したようで、ふわりと笑った。
「私、もう少し起きてようと思うの。またお姫様を見つけるかも知れないから。
何かあったら声、かけてね」
「ありがとう。でもサクラちゃんも無理しちゃ駄目だよ」
マグカップを片付けておくね、と2人分のマグカップを持つサクラに謝罪とお礼を一緒に告げて、澪はまた雪が降り出した窓の外を眺める。
不安げに外を見つめた澪だったが、視線を下げたあとに小さく息を吐いて、ベッドに横になった。
早めに眠ってしまおうと目を閉じた時。突然。澪の身体が動いた。
「……あれ…?」
眠ろうとして身体を横にしたばかりだというのに、静かに身体を起こしてしまう。徐々に意識が薄れていく。また熱が上がってきてしまったのだろうか。
外はしとしとと音もなく雪が降っている。だというのに重い雲の『黒い鳥』が空に飛んでいた。
「……追い掛け…なきゃ……?」
澪の意識と反して身体は勝手に動く。そして澪はふらふらと1階の窓から裸足のまま抜け出した。
雪が突き刺さるような冷たさを与えつづける。そんな中でも澪は朦朧とした意識のまま、呼んでいるかのように少し先で待つ『黒い鳥』を追いかけていった。
†††
「金の髪のお姫様!!」
同時刻。サクラは宣言通り金の髪の姫が現れないかどうか部屋から窓の外を見張っていた。
そして、昨晩と同じように。雪が降りだした夜の町を、金の髪の姫が黒い鳥達を纏うようにして歩いているのを見つけたのだ。
姫の後ろには家の中から出てきたのであろう子供達が、どこか虚ろな瞳をしたまま、姫の後ろをついて歩いている。
「子供達が連れて行かれちゃう!!」
子供達は姫に導かれるようにたどたどしく歩いている。そしてその中に。
「澪ちゃん!?」
子供達に混ざり、同じく虚ろな目をした澪がふらふらと裸足のままに姫の後ろを続いていた。
姫や澪達はふわりと街角を曲がる。
「見失っちゃう!」
サクラは一瞬扉を見るが、金の髪の姫を見失ってしまいそうで、咄嗟に窓から布団を木に伝わせ下ろし、それを使い部屋から出た。
随分と遠くへ行ってしまった姫や澪達を追いかけて走っていると、目の前に昼間も見てきた城が見えてきた。
城の前にある川は変わらず流れが早く、子供達が渡れそうな雰囲気はない。だが、川の手前に姫が着いた時、姫がゆっくりと手を上げると、今まで激しかった川の流れがぴたりととまった。
そしてその水の上をはねるようにして、澪達が渡っていった。サクラが驚いている間に、澪達は城の中へと入り姿が見えなくなってしまった。
川の手前まで来たサクラは、川の様子を見ようとして、ふらりと睡魔からくる目眩に近くの木に手を付く。
「…だめ…今…眠っちゃ…」
小さく逆らうように声を出すサクラだったが、彼女の意志とは反して、その場に倒れるようにして眠ってしまった。
眠ったサクラの身体に、何者かの人影がかかる。