澪達が子供達を連れて町へ帰ると、大人達はみな嬉しそうに子供を迎えて涙していた。
子供達にはどこにも怪我はなく、衣類は汚れてしまっているものの、みんな元気そうだった。

澪達はそんな町の人達の様子を、借りている部屋の2階から眺めていた。
嬉しそうな町の人達の様子に、澪も自然と優しげな表情となる。

「みんな…よかった。
 カイル先生は子供を傷つけたりしなかったみたいですね」

澪は小さく微笑み、窓際にいたモコナを抱えて、窓を閉じる。壁に寄りかかりながら言葉を返す。

「羽根を取り出すための労働力だからな。わざわざ怪我させたりはしねぇだろ」

サクラの羽根は城の中の、奥深く、子供しか通れないような小さな穴の先に氷漬けにされて保管されていた。

「しかしカイル先生が催眠術を使っていたとはねぇ。
 でもサクラちゃんが見たっていう、エメロード姫は何だったんだろ?
 先生、サクラちゃんにも催眠術かけてた?」
「そんな様子はなかったと思います」
「私は…、かかっちゃって…すみません…」
「澪ちゃんは悪くないよー。風邪は無事に治ったみたいだし、よかった。よかった」

優しく微笑みを向けるファイに澪は拗ねたように口を尖らせて、サクラが眠るベッド脇に腰を下ろす。彼女が抱えているモコナが慰めるようにぴょんと頭の上に乗った。

「じゃあ羽根の力ー?」
「ソレだったらモコナがわかったと思う」
「なんだか幽霊みたいだね」

ぽつりと澪が零した言葉に、彼女へと視線が集まる。視線に気が付いた澪はぱちぱちと瞬きをしながら、不安げに肩をすくめて、助けを求めるように近くの小狼へと視線を向けた。

「やっぱり幽霊ってのは無理がありそう?」
「いや…。もしかしたら本当に霊かも。
 サクラ姫は小さい頃から、死んだ筈の人や生きた物を視たり話すことが出来たそうです」
「本当? 私、変なこと言ってない?」

こくこくと同意の頷きを見せる小狼に澪はようやくふにゃりと緩く笑った。ファイが軽く首を傾げる。

「玖楼国の人って、みんなそうなのー?」
「いいえ。
 おれが知っている限り、今は神官様とサクラ姫だけです」
「小狼くんは?」

澪に問われ、小狼は首を横に振った。黒鋼も霊力のようなものはない、と首を振り、澪も合わせて首を左右に振った。ファイは興味深そうに言葉を続ける。

「俺もそっちの力はないなぁ」
「幽霊だったら、モコナ視えないし感じない。
 幽霊とか視えるのは、黒くて青いお耳飾りのモコナなの」
「なんかいたな。黒い饅頭みたいなのが。
 役に立たねぇな。白饅頭は」
「モコナ頑張ったもん!」
「モコナちゃん大活躍でしたよ!」
「なんでてめぇは白饅頭の味方だよ」

黒鋼の方へと飛び上がり、ぽかぽか叩くモコナ。それを口を尖らせた澪が保護する。
黒鋼はむすっとした顔で腹いせに手近にあった枕をモコナに投げた。
しかしその枕は再び飛び上がったモコナには当たらず、真っ直ぐ澪に当たる。黒鋼があ。と口を開ける。

「くーろーがーねーさーん!」

鼻を赤くした澪が涙目で枕を上段に構えた。枕は今度は真っ直ぐ黒鋼に飛んで行く。

「えーい!」
「投げんなっ」
「モコナもー!!」
「じゃ、一緒にね」

澪とモコナは合わせて黒鋼に投げる。黒鋼はばんばんと枕を叩き落とす。
そのうち枕が割け、羽根が舞う。いつの間にか小狼とファイを巻き込んでの枕投げ大会だ。

「サクラが起きたー!」

少しした時、あまりにも周りで騒がしすぎたからだろうが、サクラが目を覚まして身体を起こしていた。
目覚めたサクラに安心した表情を見せる小狼とは反対に、サクラはどこか不安げな顔をしたままだった。

「ずっと…誰かが視てる…ってどういうこと…?」
「サクラちゃん…? どうしたの? 気分悪い?」
「もう1度、エメロード姫に会わなきゃ!」

慌てた様子でサクラはベットから跳ね起きる。エメロード姫を探しに行こうとするサクラに、澪達も合わせて慌てて出発する準備をした。その途中で小狼がはたと思い出したように机の前で立ち止まる。

「ちょっと待ってください」

そこで小狼がさらさらと文を書いた。グロサム達への置き手紙だ。澪はそれを横から覗き見て、その内容に小狼ににこりと微笑みかけた。

「小狼くん、最高」

澪達は身支度を整え、部屋を出た。


†††


そして澪達は城の前まで来ていた。澪は黒鋼の馬に乗りながら、後ろの黒鋼を気にして少し肩を竦めながらも、エメロード姫を探すサクラを見守る。
だがサクラが城の周りでエメロード姫を探すが、何処にも見当たらないらしい。

「…だめ。エメロード姫…どこにもいない…」
「前に侑子言ってた。
 心配なことがなくなったら、霊はどこかへ行くんだって」
「成仏するってことか」

モコナと黒鋼が言い、サクラが悲しげに俯いた。成仏出来なくなってしまうほどに、よっぽど子供達が心配だったのだろう。
ファイが雪に塗れた回りを見つめる。

「けどエメロード姫が教えてくれた『誰かがずっと視ている』っていうのは、どういう意味だろー」
「もうひとつ分からないことがあるんです。
 カイル先生はどうして、あの城の地下に羽根があると知ったんでしょう」
「本には無かったの?」
「グロサムさんに聞きました。羽根がエメロード姫の亡くなった後、どこにあるか書かれた本はないそうです。
 それに、そんな伝説もないと」

城は川の流れを止める装置を探し当ててからでなければ入ることは出来ない。そんな場所にあった羽根をたまたま見つけたとは考えづらいだろう。

「この旅にちょっかいかけてるのが、いるってことかー」
「『誰か』が」

その時、小狼達は遥か遠くから双眼鏡で自身達を見つめている隣町の飲食店の店主には気づいてはいなかったし、その店主が蝙蝠の印を持つ男と何事かを話しているのかも知る余地もなかった。



そして町に残ったのは小狼の置き手紙。そこには彼らが見つけ出した伝説の真実。心優しいエメロード姫が多くの子供達を助けていたことが書かれていた。

《どうかエメロード姫の正しい伝説を残してください》

伝説は伝説のまま。そして正しい伝説を。優しかったエメロード姫が報われるように。



(霊の国)


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