異形の何かが家を襲った次の日。小狼、ファイ、澪の3人は、眠ったままのサクラを黒鋼に任せ、市役所を訪れていた。
昨日も応対をしてくれていた女性に声をかけると、受付の女性は浅く微笑みながら言葉をつづけた。
「こんにちは。昨晩はご活躍でしたね。報奨金が出ていますよ」
「え?」
「鬼児を倒されたのでしょう?」
何のことでもないようにそう言った受付の女性に、ファイはゆるく微笑みを浮かべながらも問いかける。
「なんで知ってるのかなー? 消えちゃったんだけれど、あのお客さん」
「鬼児の動向を市役所が把握しているのは当然ですが」
だが、受付の女性は変わらず淡々と答える。頭にモコナを乗せたままの小狼がさらに問いかけた。
「鬼児っていうのは、この国ではどういう存在なんですか?」
鬼児はこの桜都国に出る敵であり、倒すべきものであるという。
主に夜に現れるが、稀に昼にも表れることがあり、月の満ち欠けによって強さが変わるという。月が満ちるほど強くなり、新月に近くなるほど弱体化するのだ。
頬杖をつきながら話を聞いていたファイが、口を開く。
「でも、あんなのがうろうろしてる国の割には、あんまり緊迫感ない感じだねぇ」
「余程の事がない限り、鬼児は一般人を襲いません。
専門家がいますから」
「専門家…ですか?」
澪も話に混ざり、問いかける。女性は続けてその専門家の説明も話してくれた。
専門家とは『鬼児狩り』と呼ばれる文字通り、鬼児達を狩る仕事だ。この国では職業のひとつとして存在しており、鬼児を倒して収入を得ている。
強い鬼児を倒せば、その分高額な報酬を受け取ることが出来るが、危険も伴う仕事だという。
そこまで説明したところで、女性は受付の中から1冊の本を取りだし、ぱらぱらとページをめくる。
「貴方達が倒した鬼児は、ハの五段階。
鬼児狩りとしてやっていけると思いますが、職業としてお選びになってみますか?」
「それって、他の仕事よりやっぱりー」
「手っとり早く儲かります」
笑顔を浮かべる受付の女性。ファイは小狼に振り向いた。
「小狼くん、どうするー?」
「その仕事は情報を得るのに有利ですか? 探しているものがあるんです」
「でしたら、鬼児狩りはぴったりだと思いますよ。
同業者から裏の事情も色々聞けますし、鬼児狩りをしているものしか立ち入ることが出来ない場所もあります。
………ただし、非常に危険です」
すっと笑みを消して真剣な表情を浮かべる女性。だが、小狼が危険という理由で迷うことはない。彼も凛として言葉を返す。
「……やります」
「承りました」
再び笑顔を作る女。そしてさらに、詳しく鬼児狩りの説明を始めた。
鬼児狩りは必ず二人組での職業であり、1つのチームにつき、鬼児狩りは1組だけ許されているのだという。
「一緒に旅して来られた方の、どなたと組まれますか?」
「そりゃ黒様でしょー」
にっこりと笑顔を浮かべたまま続けるファイに、小狼はおろおろと戸惑いを見せる。危険な職業と聞いているのに、本人の了承もなしに決めてしまっていいものか。
ファイは小狼に振り返りながら、メンバーの名前をあげていく。
「サクラちゃんは無理。モコナと澪ちゃんは……」
「モコナ、応援してる」
「私もいっぱい応援する」
戦う術を持たないモコナはニコニコと小狼の指先を握り、同じく戦う術がない澪も笑顔を浮かべて小狼の手を握る。ファイは緩く笑う。
「ってなるとー、黒わんを外したら怒っちゃうでしょ」
メンバー内で人一倍血の気が多い黒鋼のことだ。鬼児と戦う職業と聞けば、本人も喜びそうだ。
受付の女性は視線をファイへと向けた。
「貴方はどうなさいますか?」
「なんかのーんびりしててー、楽しくてー、情報も聞けるようなお仕事ってないー?」
「ありますよ」
「じゃ、それー」
「ま、まだ何の仕事か聞いてないのに」
「じゃあ、私もファイさんのお手伝いします!」
「澪も!」
マイペースなファイに、小狼は不安そうだ。それに加えてキラキラと表情を輝かせた澪も合わさり、その中心で小狼はおろおろと戸惑いを見せていた。