そしてその後、日常生活に必要なものを買い揃え、3人とモコナは家へと帰ってきた。

「ただいまー」
「ただいまです」
「ただいま帰りました」

荷物を置いた小狼がサクラの様子を眺めるが、どうやらサクラはまだソファで眠っている様子だ。
ファイは胡座をかいている黒鋼に近づき、頭を撫でるような仕草をする。

「黒わんた、いい子で待ってたー?」
「だから、犬みてぇに呼ぶな!」

様々なあだ名にもようやく少しだけ慣れてきたと思っていたが、犬扱いは特別許せないらしい。だがファイがめげる訳もない。
反省した様子もなく、ファイは黒鋼に役場での出来事を伝えようとする。

「あのねぇ、仕事決めてきたよー」
「あぁ?」
「小狼くんと黒わんは鬼児を倒して、んでお金持ってきてー」
「おまえら、説明しろ」
「はい」
「は、はーい」

ファイはジェスチャー付きで一生懸命に説明したが、黒鋼は一切分からなかったらしい。小狼と澪がぴょこと顔を出し、ひとまず鬼児のことから説明を始める。
あっさりと無視をされて、ファイは悲しそうに両手で顔を覆った。

「えーん。黒わんころがほったらかしにしたー」
「ファイ、泣いちゃだめー」
「ファイさん、元気出してください」
「嘘泣きはやめろ!」

嘘泣きを始めるファイに、モコナと澪は悪乗りしてファイを慰めにいく。黒鋼の苛々とした叱責が飛んで、澪はくすくすと笑みを零す。

そして少しして、小狼と澪から話を聞き終わった時、黒鋼は男臭く笑っていた。

「なるほど。鬼児狩りか。退屈凌ぎにはなりそうだな」
「黒鋼、ノリノリー」
「ねー」
「はい」

小狼に笑顔を向ける澪に、彼はこくりと頷いた。やはり、黒鋼は適任だったようだ。
楽し気だった黒鋼だが、ふいに小狼へと向く。

「けど、おまえはいいのか」
「え?」
「鬼児ってのがどれ位強いのかわからねぇが、それを倒す仕事があって金が支払われてるって事は、素人じゃ手が出せねぇって事だろう」

そう言って黒鋼はじっと睨むように小狼を見る。そして小狼の右側の前髪あたりをかきあげる。

「おまえ、右目が見えてねぇな」
「!」
「え?」

黒鋼の言葉に驚くファイと澪。小狼と黒鋼に視線が集まる中、黒鋼が静かに話し出す。

高麗国についた途端、領主の息子にサクラの腕を引っ張られた時。領主の息子はあの時、本当にサクラに危害を加えようとしていた。放っておけば、持っていた鞭を打たれたかもしれない。
それを小狼は察知して、全く見ずに反応をしていた。目が見えないからこそ、小狼は領主の息子から出ていた殺気、悪意を感じ取って反応出来たのだろう。

そして、昨日。鬼児が右側から小狼を襲った時。彼は反応が遅れてしまった。

澪は小狼の右腕に巻かれた包帯に視線を移しつつ、不安げに黒鋼と小狼を交互に見る。黒鋼は腕を組みながら小狼に忠告をする。

「もっと強い鬼児相手だと、怪我するだけじゃすまねぇぞ」
「……出来るだけ迷惑をかけないようにします。お願いします」

しっかりと忠告を聞いた後に、深々と、黒鋼に頭を下げる小狼。ひょこりと笑顔を浮かべたファイが黒鋼の陰から顔を出した。

「おっけーだよね。黒様ー」
「……ふん」
「有り難うございます」

安堵の表情を見せ、小さく微笑む小狼。澪も嬉しそうに黒鋼へと小さく頭を下げた。

「黒鋼さん、ありがとうございます」
「なんててめぇまで…」
「今ここで黒鋼さんからストップかかっちゃった方が困りますもん。だから何となくお礼」

ニコニコと笑う澪。小狼は嬉しそうに澪を見た。

「ありがとう。澪」
「どーいたしましてー。小狼くんは心行くままサクラちゃんの羽根を探してね。もちろん私も手伝うから」
「わかった」

小狼は笑い、そして、うしろのソファで眠るサクラへと視線を向ける。優しげな彼の視線に、澪はふふふと楽しそうに笑みを浮かべる。
そして、澪が「よし」と手を打った。

「準備しましょう! サクラちゃんが起きる前に」
「そうしよっか」

笑顔を浮かべて返答をしたファイ。澪がさっそくといったように、買ってきた服や装飾品を広げるのを、黒鋼が興味津々で中身を見下ろす。


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