「さくら!!」
「ぷぅ、みたいな」
「……んー…」
飛び起きた小狼の声に澪は寝ぼけた声を出す。小狼の頭の上にはモコナが乗っており、澪はゆっくりと身を起こしたあと、寝ぼけたようにぼんやりと小狼とモコナを見つめていた。
「ツッこんでこんでくれない」
モコナは反応をしてくれない小狼に対してしくしくと泣いていた。そんなモコナを持ち上げ、ファイは小狼の様子を窺う。
「あー。目覚めたみたいだねぇ」
「さくら!!」
ファイの声を遮り、小狼は勢いよく起き上がり、腕の中の女の子――サクラを確認し、ゆっくりと安堵していくが、それでも厳しい顔は崩さない。
ファイはそんな2人をじっと見つめてから、苦笑を浮かべていた。
「一応拭いたんだけど…」
「モコナも拭いた!」
「きゃっ」
モコナが澪の膝の上に飛び乗る。澪は驚いて悲鳴を上げた。モコナはそんな澪の反応を見て、しょんぼりと小さな肩を落とす。
「えっ……。モコナ…ショック……」
「あぁ、ごめんなさい! びっくりしちゃって」
モコナのあまりにもショックを受けた姿に澪が慌てて手を振って、謝罪を告げる。
両手を揃えてモコナの前に差し出すと、顔を上げたモコナがぴょんと彼女の掌に乗る。
「じゃあ、仲直りのハグ!」
「うん!」
小さな手を伸ばすモコナをぎゅうと頬ずりするように抱き締める澪。すっかり仲良しになれたようだ。
そんな彼女達の横で、ファイは小狼に向き直った。小狼はぎゅっとサクラを抱えたままだった。
「寝ながらでもその子の事、絶対離さなかったんだよ。君…えっと…」
「小狼です」
「こっちは名前長いんだー。ファイでいいよ。で、澪ちゃんだよねー?」
「は、はい」
澪はモコナを抱き寄せたままちょこんと頭を下げる。ファイは自分の後ろに顔を向けた。
そこには黙って壁に背を預けて座っている黒鋼がいた。黒鋼の姿に気が付いていなかった澪は一瞬驚くが、モコナはぴょんぴょんと跳ねるようにして黒鋼に近づいていた。
「で、そっちの黒いのはなんて呼ぼうかー」
「黒いのじゃねぇ! 黒鋼だ!!」
「くろがね、ねー」
ファイは彼の名前を棒読みで繰り返す。黒鋼の膝には近づいていたモコナがいつの間にか乗っており、今度は彼の方が驚いていた。
大袈裟に驚く黒鋼に澪は思わずくすりと笑ってしまうが、黒鋼が澪を睨んだこととによって澪はさっと視線を逸らしてしまう。
小狼は話の間もずっと真剣な顔付きでサクラを見つめ続けていた。その時、ファイが突然、小狼の服に手を入れた。当然のごとく小狼は驚きに声をあげて、急な行動に黒鋼は怪しんだ目つきで彼を見る。
「うわっ!!」
「なにしてんだ、てめぇ」
「これ、記憶のカケラだよねぇ、その子の」
ファイがふわりと取り出したのはサクラの羽根だった。驚きで誰もがファイの手元にある羽根を見つめていた。
「君にひっかかってたんだよ。ひとつだけ」
「あの時飛び散った羽根だ。 これが、さくらの記憶のカケラ」
ファイの手から離れた羽根はサクラの中にスゥと入っていく。すると今まで冷たかったサクラの身体が体温を取り戻した。小狼がほっと息をつく。
「今の羽根がなかったら、ちょっと危なかったねー」
「おれの服に偶然ひっかかったから…」
「偶然なんて無い」
真剣な顔をしたファイが突然言い放った。今まで柔らかな彼が急に真剣な顔を見せたことにより、空気が少しだけ緊張する。ファイは浅く微笑みながら言葉を続ける。
「あの魔女さんが言ってたよね。
だからね、この羽根も君がきっと無意識に捕まえてたんだよ。その子を助けるために」
ファイの真剣な声、表情。小狼はサクラを見つめていた。小狼にとってサクラはかけがえのない存在だ。
彼女を助けるためならば、彼はひたむきに、ただ紳士に向き合っていくのだろう。
「なんてねー。良くわかんないんだけどねー」
ファイはへにゃんと頭を垂らし笑った。澪は小さく折角格好良かったのにと呟く。ファイがにっこりと笑って澪に顔を向けた。
「えー、ホントー?」
「わわっ。独り言なんですから聞かないでくださいっ!
そ、それより……あの…羽根って何ですか? あの、よくわからないんです」
澪は手を上げて、小狼とファイを見比べる。彼女は唐突に異次元を超えてしまったのだ。まだ教えて欲しいことがたくさんある。
「えっと―――」
サクラを優しく布団に寝かし直した小狼がたどたどしく説明を始めた。
そして話を聞いた澪はううんと悩みつつ話を軽く纏める。
「えっと、サクラちゃんと小狼くんは幼馴染で、サクラちゃんは身体から記憶の羽根が飛び立って。羽根を探す為に
次元を越えて。あってる?」
「はい。あってます」
「んー。でも羽根、これからどうやって探そうかー」