「モコナわかる!」
澪と一緒に大人しく話を聞いていたぴょこんっとモコナが飛び上がった。小狼と澪があわせてモコナの方へと顔を向けた。
「え?」
「今の羽根すごい強い波動を出してる。だから近くなったら分かる。波動をキャッチしたら、モコナこんな感じに『めきょ』なる」
「げ」「きゃ」
突然大きくなったモコナの目に、黒鋼と澪は驚き、ファイはにこにこと微笑む。ぴょんと跳ねたモコナは今度は小狼の手の上に乗っていた。
何処にあるのかわからない羽根の存在だが、モコナの近くにいれば羽根を探すことは出来そうだ。
「なら大丈夫そうだね」
「教えてもらえるかな。あの羽根が近くにあった時」
小狼の問いにモコナは「まかしとけ!」と胸を叩く。小狼は嬉しそうに「ありがとう」と言った。先程と変わらず壁に背を向けたままだった黒鋼が呟く。
「お前らが羽根を探そうが探すまいが勝手だがな、俺にゃぁ関係ねぇぞ」
拒絶するような黒鋼の言葉。横で変わらず微笑んでいるファイが彼を見、澪は小さく頬を膨らませた。
黒鋼は淡々と言葉を続ける。
「俺は自分がいた世界に帰る。それだけが目的だ。お前達の事情に首をつっこむつもりも、手伝うつもりも全くねぇ」
「はい。これは俺の問題だから迷惑かけないように気をつけます」
黒鋼と同じく淡々と返答する小狼に黒鋼は驚いたように、目を開き唖然とした。彼も小狼がこんなにもはっきりと
断るとは思っていなかったのだろう。小狼の様子を見てファイが楽しそうに笑った。
「あはははー真面目なんだねぇ、小狼くん」
ファイが笑いながら褒めるが、小狼は意味が分からず困惑した表情を向ける。黒鋼は舌打ちをすると、澪とファイを見た。
「そっちはどうなんだ。そのガキ、手伝ってやるのか?」
少し考えた素振りをしたファイが次にゆっくりと答えた。
「んーそうだね。とりあえずオレは元いた世界に戻らないことが1番大事だからなぁ。ま、命に関わらない程度にはやるよー。他にやることもないし。
澪ちゃんは?」
「手伝います。私、何も出来ないかもしれないけど……頑張ります」
深々と澪は頭を下げる。小狼もつられて頭を下げた。顔を上げた時、お互い頭を下げていることに気が付いて、顔を合わせてふにゃりと笑顔を浮かべあった。
「よう!」
そこで掛け声と共に部屋のドアが開いて、男女が入ってきた。小狼はサクラを守るように抱き、澪はびくりと肩を震わす。
「目ぇ覚めたか? んな警戒せんでええって。侑子さんところから来たんやろ」
「ゆうこさん?」
「あの魔女の姉ちゃんのことや。次元の魔女とか、極東の魔女とか。色々呼ばれとるな」
「これを」
「あ! ありがとうございます」
女の人から掛け布団を借りると、小狼はサクラに優しく掛けた。
澪も小さな呼吸を繰り返しているサクラを見つめ、消え入りそうな彼女を思わず優しく撫でた。
部屋に入ってきた男性は気の良さそうな笑顔を浮かべ、女性は淡々と男性の側に寄り添っていた。
「わいは有須川空汰(アリスガワソラタ)」
「嵐(アラシ)です」
嵐は皆を見てペコッとお辞儀をした。空汰は頬を緩めながら嵐をより澪達へと紹介していた。
「ちなみに、わいの愛する奥さん。ハニーやから、そこんとこ心に刻みまくっといてくれ」
嵐はハートを飛ばす空汰を完全に無視し、皆にお茶を配っていた。クールな嵐もそうだが、空汰のこの行動も日常茶飯事なのかもしれない。澪は仲が良いんだなぁとニコニコと笑う。
「つーわけでハニーに手ぇ出したらブッ殺すで」
空汰はクルリと向きを変え、黒鋼の肩に手を置く。しかも、彼はかなりのいい笑顔だった。冗談とかでは決してないのだろう。
標的にされた黒鋼ががうと吠えるように怒りを訴える。
「なんで俺だけにいうんだよ!!」
「ノリやノリ。……でも本気やぞ!!」
「出さねぇっつの!!」
いい笑顔に親指をグッ!を足した空汰に黒鋼は怒鳴る。怒る黒鋼を軽くいなした空汰がモコナを手に乗せた。
「とりあえず、あの魔女の姉さんにこれ預かって来たんやな」
「モコナ=モドキ!」
モコナがしゅた、と手を挙げ言うと空汰は「長いな、モコナでええか」と聞き「おう! ええ!」と空汰の真似をして答える。
「事情はそこ兄ちゃんらに聞いた。とりあえず兄ちゃんら、プチラッキーやったな」
「えーっと、どのへんがー?」
ファイが訊くと空汰は答えながら窓辺まで歩く。
「モコナは次に行く世界を選ばれへんねやろ? それが一番最初の世界がココやなんて、幸せ以外の何もんでもないでー。
ここは阪神共和国やからな」
空汰が窓を開けると外の風景が見えた。空には星が輝いていて、沢山のビルが立ち並ぶ。とても賑やかで活気な世界が広がっていた。
わぁと目を輝かす澪。その前で空汰がどこからかホワイトボードを引っ張ってきて、この阪神共和国についての説明を始めた。
「ここは阪神共和国。とってもステキな島国や!!
まわりは海にかこまれとって、時折台風が来るけど地震は殆どない。海のむこうの他国とも交流が盛んやで貿易もぶいぶいや。
四季がちゃんとあって今は秋、ご飯が美味しい季節やな。主食は小麦粉。あとソースが名産や!
法律は阪神共和国憲法がある。他国と戦争はやってない。
移動手段は車・自転車・バイク・電車・船・飛行機あとはー、乳母車も一応移動手段かなハニー」
「………」
「島の形は虎っぽいんで通称『虎の国』とも呼ばれとるんや。
せやから阪神共和国には虎にちなんだモンが多い。通貨も虎<ココ>やしな。一虎とか十虎とかや。ちなみに国旗も虎マーク。
野球チームのマークも虎や。この野球チームがまたええ味だしとってなぁ! むちゃくちゃ勇敢なんやで!ま、強いかっちゅうと微妙なんやけど」
空汰と嵐(主に空汰)が人形で阪神共和国の説明をしているとファイが「質問いいですかー?」と手を上げた。空汰が手をあげたファイを指名する。完全に学校の授業中のイメージだ。
「この国の人達はみんな空汰さんみたいな喋り方なんですかー?」
「わいの喋り方は特別。これは古語やからな」
「この国で過去に使われていた言葉なんですか?」
続けて質問をする小狼。
「そうや、もう殆ど使われてへん言葉やけどな。わい、歴史の教室やから古いもんがこのまま無くなってしまうんも、なんやなぁと」
「歴史の先生なんですか」
歴史という言葉に興味津々な小狼の目が輝く。それに空汰が反応した。
「おう! なんや小狼は歴史に興味あるんか」
「はい。前にいた国で発掘作業に携わっていたんで」
「そりゃ、話が合うかもしれんなー」