お腹がいっぱいになる感覚が嫌いだった。

普通はお腹がいっぱいになると幸せな感覚を得るのだという。でも、僕にはその感覚がわからない。

息がつまるような感覚がする。身体が重くなった気がする。お腹が張った感覚が嫌。
沢山食べてしまった後も、気分が悪いし、動きづらいし、何より空が飛べなくなってしまう。

だから、僕は一度に多くを食べることはあんまりしたくない。少しずつ、時間を空けて食べていく。
鞄の中にはいつも間食用のチョコやクッキーが入ってるし、満腹感が出る珈琲をよく飲んでる。

でも、いっぱい食べているジェイドくんやフロイドくんを見てると、いっぱい食べれていいなぁって思うし、なんだか普段は湧いてこないはずの幸せな気持ちがふわふわと湧いてくるから、彼らとの食事は毎回とってもとっても楽しい。
たまに、彼らにつられてついつい食べすぎてしまって、とってもとっても気分が悪くなるくらいには、僕は彼らとの空間を楽しんでいる。


†††


くるくると巻き取ったトマトのクリームパスタ。それを小さく開いた口に運んだリベラはこてりと首を傾げた。
口の中の物を嚥下したあとにリベラはアズールの言葉を繰り返す。

「ボードゲーム部?」
「えぇ。先程、そこに見学をしてきてそのまま入部届を出してきました。
 陸の世界には資産運営を模したゲームも多いそうで、ビジネスの勉強にもなりそうでしたから」

つい2、3日前。学園側から新入生への入部の許可が下り、学園内にある様々な部活の多くが活発的に勧誘活動を始めていた。
元々入りたい部活を決めていた生徒は早々に入部届を出し、まだまだ入る部活を悩んでいる生徒達は色んな部活の見学をし始めていた。

大広間にて夕食を摂っていたリベラ達は、後者のまだどの部活にするか悩んでいる側だった。
アズールがひとまず一1番に部活を決めたということで、リベラ達も自分達の部活を検討し始める。

頬杖をついたフロイドはリベラと同じトマトのクリームパスタを食しながら、悩まし気な声を出した。

「オレ、どこにするかなー。せっかく尾びれが2本になったし、沢山尾びれを使うところがいいなぁ」

気分屋のフロイドの、今日の気分はそんな気分らしい。リベラはにこにこと微笑みを浮かべながらひとつふたつと候補を並べる。

「そうなると、陸上部とかバスケ部あたりになるのかな。飛んだり走ったり、きっと大忙しさ」
「ふぅん」

リベラの提案に考え中ではあるのか、それでもあまり気のない声。リベラは微笑みを苦笑に変えながら、また後日覚えていたら話題に出してみようと思う。
そしてリベラも同じように頬杖をついて口を尖らせた。

「うーん。僕もどこにしようかなー。やっぱりマジフト部かなぁ。あんまりスパルタなのも嫌なんだけれどなぁ」

空を飛ぶことを好むリベラが、箒を使うマジフト部をひとつ候補に挙げる。が、アズールがちらりとリベラを見てから口を開いた。

「マジフトは案外頭脳戦だと聞いてますよ」

マジフト部はナイトレイブンカレッジ内でもなかなかに人気な部活でもある。学校行事の中にもイベントが含まれているというだけあって、ゆったりのんびりと。とは行かないだろう。
マジフト自体も魔法の力自体も重要ではあるが、攻防含めた戦略も重要になってくる。

リベラにそんな高度な戦略戦が出来るとは思ってはいないのだろう。忠告を零したアズールに、リベラも小さな呻き声をあげる。

「そうなのか〜。頭を使うのなら益々僕向きじゃないなぁ。
 僕は何も気にせずに空を飛んでいたいだけだしなぁ…」

きゅと眉根を寄せて険しい顔をするリベラ。それを見たフロイドも似たような顔をしてから、次に片割れへと顔を向けた。

「ジェイドは?」
「僕もまだ悩んでいます。もっと山に関連するような部活があれば良かったのですが」
「あはは。この学園には山岳部はないようだしね」

少量のパスタを完食したリベラは食後の珈琲を飲みながら、微笑みを浮かべるジェイドの姿を見てにこりと笑みを浮かべる。

だがそこでちらりと見えたフロイドが見るからに嫌そうな顔をしているのが見えて、リベラは再び小首を傾げた。リベラの隣に座っているアズールもフロイド程まではいかないが苦い顔をしている。

「ジェイド、陸に来てから山とかキノコとかの話ばっかり。オレもう飽きたぁ」
「確かに味は良いのですが、僕も少々飽きてきました。メニューを考えるのにも限界があります」
「喜んでくださっているのかと」
「頻度を考えてください。頻度を」

会話を聞いていたリベラはきょろきょろと視線を3人に向けて、バッと疑問の声を上げた。

「えっ、ちょっと待ってくれ。もしかしてキミ達だけで何か美味しいものを食べてないかい!?」

リベラの疑問に、微笑みを浮かべ続けるジェイドと、苦しい顔を崩さないアズールとフロイド。
にこにこと微笑んだジェイドがリベラの疑問へと答える。

「僕が採ってきたキノコで夜食を作っているのです。なにせ僕達は育ちざかりですから」

リベラは大袈裟に衝撃を受けたような顔をして、不服げに頬を膨らませる。

「僕も育ちざかりだよ! でも僕は食べたことがない!」
「あなたは元々食が細いでしょう」
「ちょっとづつなら食べられる! ずるいー! 僕もキミのお料理を食ーべーたーいー!」

幼馴染3人の輪に混ざれなかったのがよっぽど寂しかったようで、頬を膨らませたまま駄々を捏ねるリベラ。
おやと一言零したジェイドは嬉しそうにリベラへと視線を向けた。

「では次にキノコを採ってきた時にはリベラさんもお呼びしましょう」
「わーい! やったぁ〜」

両手を打ち合わせてにっこりと笑顔を浮かべるリベラ。本当に嬉しそうなリベラに、ジェイドもいつもと変わらないながらも微笑みを浮かべる。
そんな嬉しそうな2人を見ながらフロイドは心底嫌そうだ。

「またキノコ採りに行く気なの? オレもう飽きたって言ってんじゃん」
「まぁ、まぁ、ひとまず次の1回は一緒に食べようよ。僕はキミともお夜食を楽しみたいもの」

みんなで楽しみたい気持ちが強いリベラがフロイドを宥める。
顔を顰めたフロイドだったが、期待の表情を浮かべるリベラに対して、悩まし気な表情を浮かべるだけで留める。
そのあとアズールが溜息をついてからジェイドへとアドバイスを零した。

「……まぁ、夜食の話は良いとして。確か、正式に申請すれば自由に同好会も開くことが出来るそうですよ」
「本当ですか。それは良いことを聞きました」

この学園には少ない人数で作られた同好会もあるようだった。中には活動部員が1人という所もあるようで、部活動系に関しては随分と寛容なようだ。
なるほどと思案顔を浮かべるジェイドに隣のフロイドは呆れた視線を彼へと向ける。

「えー、ジェイド、自分で部活作るの? めんどくない?」
「ふふ、やってみないことにはなんとも」

両手で頬杖を付きなおしたリベラがジェイドの顔を見ながら、少しだけ考えた後に緩い微笑みを浮かべた。

「…僕も暫くはキミのお手伝いをしようかな」
「いいんですか?」
「うんうん。ひとりよりふたり、だ。その間に僕もどの部活に入るか決めるとするよ」

リベラの口ぶりに軽く首を傾げたジェイドは少し悲しそうな表情を浮かべてみせる。彼のことだから実際に悲しんでいるわけではないだろうが、リベラは一瞬でも狼狽えてみせた。

「僕の同好会には入ってはいただけないのでしょうか」
「ううんと、えっと、同好会の創立に2人以上居るってなったら考えるよ」

リベラはぱたぱたと困惑を見せてから、短く苦笑を零してまた珈琲に口をつける。探すとは言っているが、部活や同好会へ入る気はあまり強くはないようだった。
にへらと緩く笑ったリベラは新しい同好会設立には随分と乗り気なようで、きらきらと表情を輝かせる。

「とりあえず大事なのは名前だよ! なんて名前にする?」
「そうですね…」

ふむと言葉を悩ませるジェイドを、リベラは乗り気で、そして残りのアズールとフロイドは興味が薄いながらも視線をジェイドへと向ける。
少し考えた後に顔を上げたジェイドは笑顔を浮かべてひとつ案を出した。

「『山を愛する会』なんてどうでしょう?」
「はぁ?」

にっこりと笑みを浮かべるジェイドに、フロイドがすぐさまキレ気味の声をかける。だが、ジェイドは至って真面目であり、ふざけているわけではなかった。
キレ気味のフロイドの前でリベラは耐えきれなかったように笑い出した。

「あはは。いいねぇ。僕もちょっと入ってみようかなって思っちゃったよ」
「悪いことは言いません、やめておきなさい」
「あははは」

即座に止めるアズールに、リベラはまた笑ってしまった。


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