空が好き。星が好き。

地上へ帰ることを忘れてしまうくらいに。眠る時間すら惜しんでしまうくらいに。
時間が許す限り僕は空を飛んでいたいし、眠らない夜には星空を眺めていることが大好きだった。

授業終わりの今日の僕。学園から出てメインストリートを進み、鏡舎へと向かう途中で、空を見上げながら歩いていた僕は急にその空へと近付きたくなってしまって、ふわりと風に乗って浮かび上がる。
どこを目的をしているわけでもなく、風に身を任せて飛んでいると、学園近くの山の方では赤くなり始めた夕日が輝いていた。

ふらふらと近付いて行って、その赤を見つめていると、不意に地面に、夕日の赤とは反した青が見えて、僕はゆっくりと降下を始めた。


†††


歩を進める。草木の間を進む。足元に注目して歩いていると、新しくキノコを見つけてすぐ傍へとしゃがみ込む。
軍手を身に着けたその手で土を触り、根本からキノコを採取する。辺りに沢山ある全てを取ってしまうのではなく、少しを残して採取する。そうすれば早ければ次回来た時にまた新たな芽が顔を覗かせるだろう。その生命力がまた魅力的で美しく感じる。

満足げな表情を浮かべたジェイドは自分の足元に、自分以外の影が出来たのを見つけて視線を上げた。
見上げるとそこには、杖に跨っているリベラがふわふわとジェイドの上空で漂っていた。

「やぁ、コンニチハ」
「リベラさん。こんにちは」

ふたりして呑気に挨拶を交わすと、リベラは杖に跨ったままふわふわとジェイドの横に並んで低空飛行をする。リベラは杖に寝そべるようにして器用に飛んでいた。
山登りを楽しんでいたジェイドはリベラへと視線を向けて浅い笑みを浮かべた。

「どうしてここに?」
「たまたまだよ。空のお散歩をしてたらキミの姿が見えたから声をかけてみたんだ。
 何をしていたんだい?」
「山菜を採っていたんです。それと山の観察を」

ジェイドにそう言われてリベラは興味深そうに目を輝かせた。

「それはとってもとっても楽しそうだ。僕も混ぜてもらってもいい?」
「えぇ。どうぞ」

許諾を得て、にこりと笑ったリベラは乗っていた杖から飛び降りて、杖をバトンのようにくるくると回し、魔法を解除させる。
すると、リベラの手の中にはいつの間にか通常サイズのマジカルペンが収まっていた。ジェイドが感嘆の言葉を零した。

「マジカルペンの変形魔法ですか。寮長クラスがよくペンを変形させると聞きますが」
「ふふ。僕は小さい頃、今みたいによく森や山を飛び回っていたんだ。その時、その辺の木の枝とかを杖に変形させて箒代わりにして飛んでいたんだよ。
 だからその応用。そんなに難しいことでは無いよ」

照れたように笑ったリベラはジェイドの隣に並んで、そして彼のすぐ後ろにある2つの籠に視線を移した。
ぴょんと跳ねるようにして籠に近付いたリベラは、籠の中に沢山入っている山菜類に目を輝かせた。

「わぁ。いっぱいだねぇ! これ、全部食べられるの?」
「えぇ。こちらは食べられますよ」

にっこりと笑顔を浮かべて籠のひとつを示すジェイドに、リベラはじっとそのオッドアイを見つめ返す。
彼の言葉に違和感を覚えたリベラは小さく不安げに問いかけた。

「……。『こちら』は、かぁ。じゃあ例えばそちらは?」
「口には入れられますが、麻痺症状が出ると聞きます」
「とってもとっても危ないじゃないか!」

両手に思わず取ってしまったキノコを見比べて眉根を顰めるリベラ。ジェイドは困ったような顔を浮かべてから、なんてことがないように微笑みを見せていた。

「ですが、魔法薬に使えると書かれていたのでつい…」
「ううん…それなら…。でも、間違って食べたりしたら駄目だよ…?」
「はい。気を付けますね」

微笑みを浮かべ続けているジェイドに対してリベラは不安顔を向けたあと、手にしてしまった、左右どちらも区別のつかないキノコを見比べていた。

「凄いなぁ。僕はこれとこれの違いが全くわからないよ」
「食べ比べてみますか?」

にいと笑顔を浮かべるジェイドに、リベラは顔を顰める。いつもにこにこ笑っているリベラには珍しい表情だった。

「怖い冗談を言わないでおくれ」
「ふふふ」

それぞれの籠に間違えないようきちんと戻したリベラはしゃがみこんだまま、夕焼けを見つめるジェイドの顔を見る。
ジェイドの視線には興味と感嘆と。浮かんでいる悪いものではない感情にリベラは興味を持ったように視線を向けていた。
じっと見つめているリベラの視線には気が付いているのか、ジェイドは視線を逸らさぬままに言葉を零した。

「ここから見上げる星空は特別綺麗なんです」

そう言われてリベラも視線を夕焼けへと移す。赤色に染まっている夕焼けに、リベラは目を細めてジェイドと同じものを眺めた。

「へぇ。それは、とってもとっても良いことを聞いた」

やわらかい微笑みを浮かべるリベラ。空を飛ぶことを好むリベラは何よりも夜空を飛ぶことを好んでいた。
ジェイドもまた、様々に様子を変える星空への興味があった。
そして、今まで海上からしか星を眺めることが出来なかったが、今ではもう少しだけ星に近付いて眺めることが出来る。

「ここからの景色をアズールとフロイドにも見せたいのですが、何せアズールは何かと忙しいですし、フロイドもよっぽど気分が乗らないとここまでは来てくれないでしょうから」
「大丈夫。彼らならいつかきっと来てくれるよ。
 折角キミ達は陸を歩ける足を手に入れたのだから、陸の色んなものを見て欲しいと思うよ」

残念ながらリベラは陸でしか生活したことはない。リベラが海の中での暮らしを知らないように、ジェイド達にもまだまだ知らないことがいっぱいあるだろう。リベラはそんな彼らに沢山のことを見て欲しかったし、気に入って欲しかった。

「もし良かったから、みんなで集まるその時は僕のことも呼んでくれるかい? お星サマのことなら僕もお話できるだろうから」
「お好きなんですか? 星が」
「うん。とってもとっても。空と同じくらいには。
 キミも山が好きなんだね」
「はい」

ジェイドの返答は簡潔だった。リベラはにこにこと笑みを浮かべてしゃがんだまま頬杖をつく。

「ふふ。楽しそうなキミを見るのは僕も楽しいよ」

短く笑ったリベラに、ようやくジェイドが視線を向けた。リベラもまたにっこりと笑顔をジェイドへと向けたが、ジェイドはそれをじっと見つめるだけだった。
無表情のままリベラを見つめたジェイドだったが、次にはいつものような微笑みを浮かべた。

「……さて、そろそろ下山しますね。名残惜しいですが、日が暮れる前には戻らないと」
「うん。僕も帰るよ」

ようやく立ち上がり、くるくるとまたマジカルペンを回して杖状にしてから跨るリベラ。ふわりとジェイドの目線ぐらいまで浮いたリベラはジェイドと並んで帰るつもりのようだった。

「あなたは杖で帰れるでしょう? 先に帰ってはいかがです?」

ジェイドの言葉にリベラはにこりと笑みを浮かべてまた箒の上で器用に寝そべっていた。

「それよりキミとお話をしながら帰る方が魅力的だからね。
 ほら、ひとつだけなら運んであげる。ここに引っ掛けて」
「ありがとうございます。とても助かります」

箒の先を示したリベラにジェイドは瞬きをしてから微笑みを返す。
沢山の山菜類を入れた籠を引っ掛けるとリベラはそれが落ちないように軽く手で押さえながらふわふわと浮いていた。

そこで、はたと思い至ったリベラは途端に不安そうな顔になる。

「ねぇ。こっちって怖い方の籠だった? 怖い方の籠を持つのは嫌なんだけれど、僕はどっちだったか忘れてしまったんだ…!」
「ふふ。さて、どちらでしょう」
「ねぇ! 僕、怖い方の籠だと嫌なんだけれど! ねぇ!」


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