学園に来た最初の日に、僕はそう決めた。
沢山の友達を増やす事はしたいなぁと思っていたけれども、1番はキミしようとそう決めた。
キミがどこかへ行ってしまうまで。僕が空へと帰るまで。
アズールくんは僕の特別。
†††
「そうだ、僕はまた忘れてしまうところだった」
ベッドに寝転びながらマジカメを眺めていたリベラが、ふと声を上げながら身を起こして、ベッドから身軽に飛び降りた。
音もなく着地をするリベラに、机に向かっていたアズールが顔を顰めて振り返った。
アズールの表情を見て、リベラはぱちと両手を合わせて軽い謝罪の言葉をかけてから、そのまま軽い足取りで冷蔵庫の方へと向かう。
鼻歌交じりでご機嫌な様子のリベラは冷蔵庫の中に入っていた白い箱の中から、鮮やかな色合いをしたフルーツタルトを取り出した。
思わず時計を見たアズールは、リベラとタルトの両方を交互に見比べた。
「こ、こんな深夜になんて高カロリーな」
日々、カロリー計算をしながら食事をしているアズールが驚愕の表情を浮かべる。
時刻は就寝時間間際を示しているし、デザートどころか、軽い間食さえも避けているアズールの隣で、リベラは悠々とフルーツタルトを真っ白い皿の上に飾って、フォークを取り出してきていた。
リベラは嬉しそうにフルーツタルトを掲げる。
「あはは。この前改めてお友達になったハーツラビュル寮の子から貰ったんだ。
アズールくんも食べないかい? キミの分も貰ったんだ」
白い箱の中にはリベラの言葉通り、2つのフルーツタルトが並んでいた。
最初に皿に盛りつけたフルーツタルトをアズールへと差し出すリベラだったが、アズールはそれから視線を外してきっぱりと断る。
「僕はこの時間には間食はしないと決めていますので」
「えぇ? こんなにも美味しそうなのに?
ほらほら、きらきら…、なんだっけ、そうだ、ナパージュされた苺もオレンジもベリーも、こーんなにも美味しそうなのに!?」
「食べません!」
リベラは両手で皿を持ったまま、きょとんとした顔をしてから、アズールの机と並んでいる自分の机の上にフルーツタルトを置いて、白い箱の蓋を閉じる。
短くため息をついたリベラはどこか不満げではあった。
「なぁんだ、もったいない。じゃあアズールくんの分は冷蔵庫に入れておくから、食べたくなったら食べて」
そう声をかけるリベラだったが、アズールは険しい顔を崩さないまま、机に向きなおる。
「要りません。生憎相当の対価も持ち合わせていませんので」
「対価? そんなの気にしなくていいのに…。ただの貰い物さ」
「そう言ってあとから対価を請求されてはかないません。ご自身で召し上がってください」
疑い深いアズールに対してリベラは苦笑を零し、握ったフォークをタルトに突き刺すでもなくゆらゆらと揺らす。リベラも自分の椅子に座って足を伸ばし、ううむと頭を悩ませる。
「うーん、僕はこの美味しいものを分かり合ってくれるだけでも対価にはなるのだけれどなぁ」
「そんな曖昧な感情は対価にはなりえません」
「えー、それなら…」
はたと思いついたように手を打ったリベラがにっこりと浮かべた笑顔をアズールへと向けて、次にはわかりやすいほどに困った顔を浮かべた。
わざとらしいリベラの表情にアズールは怪訝そうな顔を返す。
「ねぇ、アズールくん。僕にはとってもとっても困っていることがあるんだ。僕の相談に乗ってくれるかい?」
「………なんでしょう」
問いかけと共に、再びにっこりと満面の笑顔を浮かべたリベラにアズールは警戒しつつも静かに問いかける。
リベラは口を開いて一気に話し出した。
「僕達が今日やった錬金術の時間で、アズールくんが作っていた空色の石。あれはまだ持っているかい? もしよかったら僕はあの石が欲しいんだ。
あの石があれば僕の、色のない僕の机の上はもっと綺麗に華やいでくれると思うんだ。
まぁ、アズールくんがあの石を何かに使うというのならば僕は本当に諦めるしかないのだけれど、ねぇ、駄目かい?」
一気に語られた言葉を軽く流しながら、アズールは昼の間行った錬金術の時間を思い出す。
比較的簡単な手順と材料で魔法石を作る授業を終えた彼らは、授業後には様々な色や形の魔法石を手にして教室を出た。
1年生で作れる魔法石など、たかが知れている。現に今日作った魔法石はガラスの塊と何ら変わりないものであった。
アズールはそれを知ってるからこそ問い返す。
「あれを? ほぼ価値などありませんが」
「それでもいいのさ。残念ながら僕のはあまり綺麗には出来なかったからね」
苦い笑みを浮かべるリベラは本人の言葉通り、リベラはうまく魔法石を作成させることが出来ず、濁った色の石を作り出していた。
アズールは自分が完璧に作り上げた魔法石を思い出す。いくら完璧に作ったとはいえ、魔力を込める程でもない魔法石は、正直、処分に困っていた節はある。
取引に応じるのは少々癪ではあったが、適度な糖分補給は勉強に良いと聞く。渋い顔をしているアズールは鞄の中から空色の魔法石を取り出した。
ぱぁと表情を明るく輝かせたリベラは両手で魔法石を受け取ってキラキラと光に透かして遊ぶ。
そして宣言通り、自身の机の上に元から飾られている鳥の置物の隣に、貰ったばかりの魔法石を飾ったリベラ。空色の魔法石は鳥の置物と良くあっていた。
満足げに表情を和らげたリベラは、次には振り返ってアズールへとゆるい笑みを向けた。
「これであのケーキは明日のアズールくんに食べてもらえるようになったのかな」
「…えぇ。いただきましょう」
「それは良かった。さて、僕はもう食べてしまうぞ〜」
「はいはい」
アズールの返事を聞いてようやく納得したような顔をしたリベラは、自分の席に座ってフルーツタルトにフォークを刺しこむ。
小さく切り取って小さな口に放って、口の中に広がる甘さに思わず頬に手を当てて満足げに言葉を続けた。
「ん。やっぱり美味しい。フルーツは砂糖の甘さに負けないくらいに果実本来の甘さがあって、とってもとっても僕好みだ。タルトもさくさくで口当たりがいい。間に入ったカスタードクリームもなめらかで、あぁなんて美味しいんだ」
そう言い切ってからちらりとアズールの方を見つめるリベラ。視線が合ってしまったアズールは厭そうに顔を顰めてから、きらきらと期待の表情を浮かべるリベラに対して諦めたように呆れた顔を見せた。
立ち上がり冷蔵庫に向かったアズールに対して、リベラは短く、そして満足げに笑う。
「ふふふ」
「あなたが口煩いからだ。折角、今日のカロリーは抑えられていたのに」
白い箱を取り出しながら愚痴るアズールの後ろ、ぴょんと跳ねるように席から立ったリベラはもうひとセット皿とフォークを用意する。
特別ご機嫌そうなリベラは笑いながらアズールの机の上に皿を置いていた。
「あはは。ごめんねぇ。なにせ鳥は囀るものだ」
「口煩い人は嫌われますよ」
「キミが嫌がるのなら控えるよ。ちょこっとだけね」