コートをしっかりと着て、マフラーもきちんと巻いて。

「クィディッチ観戦です!」
「煩い」

身支度を整えた私が地下牢教室の出入り口あたりでスネイプ先生が来るのを待ちます。

今日は今季初めてのグリフィンドール対スリザリン戦でした。ハリーの初試合でもあります。
昨日からとっても楽しみにしている私はわくわくとした表情でスネイプ先生の隣に並んで、跳ねるように階段を上がって行きます。

「先に行っていればいいだろう」
「折角なんですから、一緒に見ましょうよ」

頬を膨らませながら隣の彼を見上げても、スネイプ先生は呆れたような顔をするだけでした。足が怪我しているスネイプ先生に合わせてゆっくりと階段を上がり切ると、他にもクィディッチを楽しみにしている多くの生徒達が外に向かっていました。
その人並みに紛れ込むようにして、私達も競技場へと向かいます。教師用の席につき、11月の寒さに身体を震わせます。完全防備で来たと思っていましたが、それでも寒さが身にしみます。

試合開始のホイッスルが高々と鳴り響きました。生徒達の応援の声が一斉に巻き起こります。
ジョーダンくんが実況放送を続ける中、グリフィンドールの先制点が入りました。

グリフィンドールの大歓声と、スリザリン側からの溜息。
どちらかというとグリフィンドールを応援したい私も小さく拍手。スネイプ先生がぎろりとした睨み。試合も盛り上がってきました。

くるんくるんと喜びの縦回転を終わらせたハリー。不意にハリーの箒が大きくぶれたような気がしました。

「あの…、あれ…」

私は空を見上げたままスネイプ先生の腕に軽く触れます。スネイプ先生も私と同じものを見て、怪訝そうな顔をします。

箒に乗ったハリーの動きは見ているうちにどんどん激しくなり、ハリーを振り落とそうとします。
顔をしかめたスネイプ先生がじぃとハリーを見つめてぶつぶつと呪文を唱え出しました。箒の動きが1度だけ緩やかになったような気がしました。

私もバッと辺りを見渡し、少し離れた席にクィレル先生がいるのを見つけ、思わず席を立ちあがります。
そしてそのままクィレル先生の元に行こうと思ったところで、呪文を唱え続けているスネイプ先生が私の腕を掴み、その場に留めました。

表情を歪めたままゆっくりと座り直して、スネイプ先生の横顔を睨むように見つめます。
不安を覚えて、スネイプ先生の腕に自身の手を乗せてから、暴走した箒に乗っているハリーを見上げました。

不意に足元に熱を感じて足元を見ます。すると私とスネイプ先生の間、スネイプ先生のマントが燃え上がっていました。

短い悲鳴を上げて、咄嗟にマントの裾に杖を向けます。スネイプ先生もハリーから視線を逸らしてしまっていました。
ついていた火を消してから再びハリーを見上げると、ハリーは再び箒にまたがって空を駆けていました。私は安堵の息を零します。

不貞腐れたような顔をして観客席に深く座り直したスネイプ先生。私は不安そうにちらりと彼を見つめます。
すると、彼は短く鼻を鳴らしたあと、乗せたままだった私の腕を払いました。私も彼から手を離して、大人しく座り直します。

次の瞬間には何かを見つけ、急降下したハリーがパチンと口を手で押さえました。四つん這いになって着地した彼は、何か金色の物を吐き出して掌に乗せました。
それは金色のスニッチでした。試合終了、グリフィンドールの勝ちです!

「……割に合わん」

ジョーダンくんが試合結果を叫び続ける中、スネイプ先生が小さく言葉を吐いていました。
彼はハリーが箒から落ないように反対呪文を唱え続けていたのです。にも関わらず、マントには火をつけられ、スリザリンはクィディッチで負けて。

「お部屋に戻ったら紅茶を入れますね。お茶菓子も一緒に」

苦笑を零しながらそう声をかけると顔をしかめたままのスネイプ先生は立ち上がります。私も席を立って先に歩き出した彼の背中を追いかけました。


†††


クリスマス休暇が始まりました。

ホグワーツを賑やかにしていた生徒達が一気に少なくなり、閑散とした城内に冷たい雪が降り注ぎます。

暖炉の火で温まっていた私は自室から出てきたスネイプ先生に声をかけました。

「あのー。私、少し時間を頂いてホグズミードに行こうと思うんですけれど、何かお使いあります?」

炎に手を近づけ過ぎないように気をつけながら、答えを待ちます。
スネイプ先生の視線は薬草棚の方へと向いていました。

「魔法薬を…、…いや。自分で見る」
「足は大丈夫ですか?」

ハロウィンの日に噛まれて出来た足の怪我を調子を聞くと、スネイプ先生はじとりと自分の足を見下ろして小さく言葉を返しました。

「…。だいぶ、いい」
「よかったです。では、早速行きましょうよ」

にっこりと笑顔を溢し、暖炉の前から立ち上がって、自室で冬用のコートに袖を通します。
2人でお出かけが出来ることに気分が高揚して、少し跳ねるように教室に戻ります。

いつもと変わらぬ真っ黒いコートを着て戻ってきたスネイプ先生。
笑みを浮かべて彼を見上げると、スネイプ先生は不思議そうな顔を一瞬だけして、いつものように先に歩き出しました。

先生の数歩後ろをついて歩いていき、私達はホグワーツの塀の外へと向かいます。
2人で姿くらましをしてホグズミードにたどり着くと、ホグズミードも白い雪に包まれていました。

「君は何を?」

楽しみながら雪を踏みしめていると、スネイプ先生が私に視線を向けないまま問いかけました。
私は指折り数えながら買い出しの物を思い出します。

「私も翻訳薬用の材料を何種類か買うのと、あと新しい紅茶ポットが欲しくて」
「昨日、何か割った音が聞こえたが?」
「……。貴方は察しが良すぎます」

口を尖らせてから、次に苦々しい笑みを浮かべます。

スネイプ先生が言うように、昨日の夜、寝る前に紅茶をいれようとした時、お気に入りの紅茶ポットを不注意で落として割ってしまったのです。
気に入っていたこともあり、落とした瞬間のショックは一際激しいものでした。

「それはさておき、先に魔法薬を買いましょう」

そう言って私達は魔法薬の材料が売っているお店に入ります。手馴れたように店の奥に入っていくスネイプ先生と、まず店主に声をかける私。
出てきた気の良さそうなおじ様に微笑みを向けて、私は材料を選び始めました。

何種類かの魔法薬を手に取って見比べていると、ふと、先に立つスネイプ先生の横顔が目に入りました。

真剣に薬草を選ぶその姿はどうしようもなく『彼』と一緒で、きゅうと胸の辺りが苦しくなります。

私が、好きで、好きで。本当に心から愛している人。愛してくれていた人。 
そんな人の横顔から目線を逸らせなくなって息が詰まります。

もし、今、もう1度触れられるのならば…。少しだけでも、また『彼』に近づけらるのなら。

「何をしている?」

彼の声とともに、私は『現実』へと戻ってきていました。

「…あれ。ええと…、すみません。少しぼんやりしてました」

思い出してしまった過去に浸りたくなってしまって、それを拒むと同時に微笑みかけます。
彼に背を向け、少し背伸びをして上の棚にあった瓶を手に取ります。中身を吟味しながら、後ろにいる筈のスネイプ先生に言葉を投げかけました。

「あぁ、あれです。貴方に見惚れていたんです」
「……」
「冗談ですよ」

ちらりと見えたスネイプ先生は睨むように私を見ていて、私は肩をすくめます。
握った瓶のうち、特に鮮度のいいものだけを取り出してカウンターへと持っていきます。

買い物を済ませて外へ出ると、ちょうど降ってきた雪に『ここ』に来た時を思い出します。

もうこちらに来て1年もたったんですね…。

帰る兆しが一向に見えないことに恐怖を抱きながら、身体の芯から冷えきっていることに気付き、私は自分自身の肩を抱き寄せました。
自身の肩を摩りながら、私はスネイプ先生に微笑みかけました。

「やっぱり少し冷えますね…。このまま帰りましょうか」
「ポットとやらは?」
「…また今度にします。今日はバタービールでも飲んで帰りませんか?」

凍えきってしまった身体が辛くて、私はそう提案します。スネイプ先生は少しだけ思案するような顔をしたあと、先に三本の箒に向かって歩き出しました。
先に歩き出したスネイプ先生を小走りで追いかけて、横に並んでから微笑みます。

「我が儘に付き合わせちゃってすみません」
「いいから、行きますぞ」

横で揺れている手と繋ぎたいと思いながらも、私の手は新しく買った薬草の入った紙袋を抱えるだけにしておきました。


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