私とマクゴナガル先生が共に走り出します。悲鳴が聞こえた方向へ走っていくと、物が壊れる音とトロールの唸り声が聞こえて、私の心配が募っていきます。

「女子トイレからです!」

音の発信源である女子トイレにバッと飛び込むと、中には倒れたトロールと、呆然とした顔で私達を見つめるハリーとロン、ハーマイオニーがいました。
私達の後ろからスネイプ先生と、そしてクィレル先生も飛び込んできて、同じく倒れたトロールを見ていました。

私はハリー達に駆け寄り、彼らの前で軽く屈んで怪我がないことを確認します。
良かった。3人とも怪我はないようです。にっこりと微笑みを向けていると、マクゴナガル先生が怖い形相で私の後ろに立っていました。

「一体全体、貴方方はどういうつもりなんですか。
 殺されなかったのは運が良かった! 寮にいるべき貴方達がどうしてここにいるんですか?」

マクゴナガル先生が静かに3人を怒るのを、私も一緒に怒られたような気持ちになって肩をすくめながら聞きます。

トロールを見て恐怖を覚えたのか、胸を抑えながら座り込んでいるクィレル先生を横目に、私はスネイプ先生の隣にすすすと近寄ります。
ちらりと私を見下ろしたスネイプ先生に誤魔化すような笑みを向けて、涙ながらに状況を説明するハーマイオニーの話を聞いていました。

ハーマイオニーはトロールがホグワーツに侵入したと聞き、自分ならトロールを退治出来ると思い、校則を破ってまでここに現れたのだといいます。
ハリーとロンが彼女を見つけ、助けてくれなければ、今頃死んでいた。と、マクゴナガル先生にそう説明していました。

それが嘘だと知っている私でしたが、何かを言うことはなく、倒れているトロールへと視線を向けていました。

マクゴナガル先生はじぃと3人を見つめてから、次に校則を破った罰としてハーマイオニーから5点減点しました。
怪我がないならば、とハーマイオニーを先に寮へと帰したマクゴナガル先生は、今度はハリーとロンへ向き直りました。

もう1度彼らに運が良かったと厳しい声で伝え、そして1人に5点ずつ与えてから、彼らも寮へと帰しました。

脱兎のごとく寮へと戻っていく彼らの背中を見送ってから、私は再びトロールへと視線を戻しました。

「これは…、凄いですね…」

倒れたトロールは酷い悪臭を放ちながら、気絶しているようでぐったりと伸びきっています。

「グリフィンドールに相応しい勇気のある子達じゃないですか。ただ、ちょっとやんちゃが過ぎますけれど」
「…彼らに怪我がなくて何よりです」

マクゴナガル先生の安心しきった表情。この大きさのトロールならば、転がっている棍棒のひとふりで何もかもを壊してしまうでしょう。1年生の彼らの頭だって一瞬です。
本当にハリー達に怪我がないことに安心しつつ、次にスネイプ先生を見ました。

「他のトロールはどうでした?」
「…トロールの侵入は1体だけだったようだ。他に姿はない」

彼は静かにそう言って、一瞬だけ座り込んだクィレル先生を見下ろします。その視線の意味を知っている私はちらりと彼らを見比べてから、トロールに向かって杖を振るいました。
トロールを縛り上げて、トロールが起きてからも動けないようにしてしまいます。そうしてしまってから、私はスネイプ先生の隣へと戻りました。

「では、私達は戻ってますね」

私はマクゴナガル先生にそう言って、スネイプ先生の腕に触れます。
じとりと私を見下ろしたスネイプ先生の視線を気にせずに、彼の腕を軽く引いて先に歩き出しました。

静かなホグワーツの廊下を歩きながら、絵画も飾られておらず、私達以外には誰もいない廊下まで来たところで、私は視線を前に向けたままスネイプ先生に声をかけました。

「それで、どうしたんです? その足」
「君には関係ない」

問うとすぐに答えが返ってきます。もう1度彼を見ると、スネイプ先生はどことなく足を引きずっているように思えました。
長い地下牢教室に続く階段を、一段降りた所で、彼が一瞬顔をしかめます。慌てて彼を支えるように両腕を伸ばすと、腕は払われてしまいます。

むすと頬を膨らませた私。彼が不機嫌そうな顔をするのを気にせずに、再び彼を支えてゆっくりと階段を下りはじめます。

ようやっと教室に辿り付き、手近な椅子に座ってもらいます。痛みに顔をしかめるスネイプ先生を見つめていると、私も痛みを覚えて少し顔を歪めます。

小さく息を吐いて、傷口に効く魔法薬を呼び寄せます。座った彼の前で膝をついて、彼を見上げました。

「とりあえず私に関係なくてもいいんで、足を出してください。
 自分で行うよりかは幾分楽だと思いますよ」
「………」

彼は無言のまま私を見つめていました。私は視線を少しだけ落として、引きずっていた彼の足に手を伸ばしました。

ローブの裾を少し上げて足を見ると、そこは何かに噛まれたような痛々しい傷口がありました。
傷口に杖を向けて『エピスキー(癒えよ)』を唱えます。が、傷口は何かに邪魔されたかのように半分までしか治りません。

顔をしかめた私が、傷口に魔法薬を塗ってから包帯を巻きます。これでは自然に治るのを待つしかありません。

「…はい。終わりました。応急処置しかしていませんからね」

微笑みを浮かべながら見上げると、スネイプ先生は何も言うことなく立ち上がりました。
無理矢理立ち上がったからでしょう。一瞬ふらついたスネイプ先生を、バッと立ち上がって支えます。

ムスとした表情を向けると、スネイプ先生は何も言わないまま私の手を払いました。

「…無茶しないでください」

小さく声をかけても、先生は何も言いません。心配に表情を変える私ですが、彼が見ていることに気づくとすぐに笑顔を浮かべました。


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