目覚めた瞬間、私の視界に朝の光とともに医務室の景色が広がって、私は何も出来ないまま今年の物語が終わったことを悟りました。

じわじわと痛みを訴えている頭を無視して身体を起こします。身体を起こすと、紗幕が引かれてスネイプ先生が現れました。
彼は身を起こした私を無表情に見下ろしていました。長く息を吐いた私は彼に微笑みかけます。

「どうなりました? クィレル先生や賢者の石は?」
「クィレルは聖マンゴに。賢者の石は校長の手によって破壊された」
「そうですか。それはよかったです」

物語は特段の変更もなく、終焉を迎えたようです。
ちらりと他のベッドを見ると、未だ眠っているハリーが見つかりました。彼も数日すれば無事に目を覚ますでしょう。

ベッドから立ち上がろうとして、足を下ろすとまた目眩。
自分で手をついて貧血にも似た目眩をやり過ごそうとしている横、スネイプ先生が立ったまま私を見下ろしていました。

「何故倒れていた?」
「見回り中にクィレル先生と鉢合わせまして。
 彼を引きとめようとしたんですけれど、失敗してしまいました」
「………君が殺されなかったのは、運が良かったとしか言い様がない」

スネイプ先生は無感動に私にそう言いました。私は目元を抑えて、目眩を覚ましてから、スネイプ先生ににっこりと微笑みかけました。

クィレル先生の頭の『後ろ』にいた人を私は忘れた訳ではありません。
『彼』になら未だに殺されないと思っている私がいました。今回は本当に運が良かっただけなんでしょうけれども。

うんと背伸びをします。今年はもう心配することはなくなってしまいましたし、地下牢教室で紅茶を飲みたくなってきました。

「何故、賢者の石のことを知っている?」

スネイプ先生の言葉で、目をぱちくりとさせた私は自分自身の失言に気が付きました。

私は4階の部屋に賢者の石が隠されていることを知らないハズなのです。

背伸びをしていた私はゆっくりと腕を下ろします。溢れたのは苦笑でした。

「ええと…、なんと言いますか」
「誤魔化すな」

厳しい視線で見下ろされて私は困惑の表情を浮かべます。

今回は彼に何もお話するつもりがなかっただけに、先程の失言が悔やまれます。
ですが、スネイプ先生の言及から逃れるとも思えなくて、私は小さな苦笑を浮かべながらゆっくりと話しだしました。

「……私は、少しだけ未来を知っているんです」
「未来…?」
「はい。もちろん全ては知りません。
 ですが、大きな出来事くらいは知っています」

私の話を聞いてスネイプ先生は怪訝そうな顔をします。
怪訝に思うことは当然でしょう。ですが、彼の疑いの眼差しは私を酷く寂しくさせました。

「占い師、なのか?」
「うーん…、占いとはまた違うんですけれども…」

私は苦笑を零します。私自身、何故未来を知っているのかを把握しきれていないのですから。
本がまた最初からになった、と言えばそれまでです。ですが、元々何故、私がここにいるか、というのは未だに誰も知らないのですから。

「未来のことは誰にもお話できません。これが貴方に教えたくても教えられないことです」

微笑みかけると、スネイプ先生はじとりと私を見つめていました。
私が何も言わないでいると、先生も何も問いかけてはきませんでした。

スネイプ先生から視線を逸らし、私は眠っているハリーを見つめ、微笑みを浮かべながら言葉を紡ぎました。

「今年は、終わりましたね」

私の言葉にスネイプ先生は変わらず何も言わないまま、私に手を差し出してくださいました。
酷く驚いた私ですが、次にはにっこりと微笑んで手を取り立ち上がります。

彼の手は、私もよく知っている手でした。


(賢者の石)


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