「この茶葉ならば3〜4分蒸らせばいい。
温度を下げないように」
彼の言葉と共に、ガラス製のティーポットに綺麗な赤色がゆっくりと広がっていきます。
私は彼の隣に並んで紅茶の入れ方を教わっていました。
彼は、お湯を入れる前の茶葉入り缶を開けて、私の前に差し出します。
その茶葉は私が選んできたもので、顔を近づけるとほんのり甘い香りがしました。
ふにゃりと頬を緩ませると、彼も微かに微笑んでいました。
「難しいことはない。茶葉を見極めて、蒸らす時間を変えるだけだ」
「なんだか魔法薬の調合みたいですね」
魔法薬の材料も茶葉のように乾燥させたものも多いのです。それら乾物の材料を見極める時も香りを嗅ぐのが常でした。
私がにこにこと微笑んでいると、彼は少し思案するようにしてから、私の頭を優しく撫でてくださいました。
髪をすかれる心地の良い感触に、思わず笑みが溢れます。
「先生の作る紅茶が美味しい理由がわかりました」
彼は私が知る中で1番魔法薬学に詳しい人物なのですから。
私の頭を撫でる彼は口元に緩く弧を描いていました。
「Ms.も得意そうだ」
「魔法薬学だけは得意ですから!」
蒸らし終えた紅茶が2つのカップに紅茶が注がれます。
とってもいい香りがする紅茶が出来上がりました。
「どうぞ」
私はカップの1つを、調合をしているスネイプ先生の隣に置いて、もう1つは息を吹きかけ冷ましながら自分で飲みます。
調合をしながらではありましたが、スネイプ先生は紅茶を飲んだ時に、微かに驚いた表情をした気がしました。それを見て私も思わず少しだけ微笑んでしまいます。
『彼』から教わった紅茶の入れ方。私も好きなその入れ方は、スネイプ先生好みの入れ方なのです。
紅茶に口をつけながら、私はスネイプ先生が作業する台の前に立ちます。
「何かお手伝いすることはあります?」
「マートラップの触手を、酢漬け溶液に」
短く返された言葉に笑みを浮かべて、手近な大鍋に杖を振るって、水で満たし、火にかけます。魔法を使った水はすぐに沸騰を始めました。
用意されているマートラップの触手の見た目のグロさに若干霹靂しながら、杖でマートラップを浮かして鍋に入れます。
「個々の性質も理解しているようで」
自分の作業からは視線をそらさない彼の言葉に目をぱちくりとさせます。
マートラップは刻む前に茹でるものだと、教えてくださったのは、
「……魔法薬学だけは得意ですから」
囁くように小さく呟くと、作業をしていたスネイプ先生が視線を上げて、私を見ました。
視線に気が付いた私は、咄嗟に微笑みを浮かべて、誤魔化すように紅茶に手を伸ばします。
スネイプ先生は特別、何かを言ったりはしませんでした。私もそれ以上何も言わずに、作業を続けました。
†††
生徒のいないお休みの期間中であっても、教授達は特別なことがなければ大広間で食事を摂っていました。
ダンブルドア校長先生がみんなで食べることを好む方だからです。
スネイプ先生が地下牢教室の入口で私を待ってくださっています。
彼は私が来る前までは、お休みの期間中、私室で摂っていたのだと聞きます。
ですが、今は何も言わずにこうやって私と一緒に大広間に来て食事を摂ってくださいます。それは私にとって嬉しいことでした。
にこにことご機嫌な私は、カーディガンを羽織ってすぐに駆け寄ります。隣に並ぶと彼は歩き出しました。
2人で大広間に入ると、既に何人かの先生が集まっていました。
そこで夕食時に使っているテーブルに、椅子が追加されていることに気がつきました。
いつもの席に座って、隣のマクゴナガル先生に問いかけます。
「どなたかいらっしゃるんですか?」
「……貴方達はまだ会っていないんですね」
マクゴナガル先生は私の質問に表情を暗くさせて、疲れたように囁きました。
私はきょとんとして、反対隣のスネイプ先生を見ます。ですが、スネイプ先生も私の疑問の答えは知りませんでした。
そして、数分後、私は誰にも聞こえないぐらい小さな声で溜息と共に言葉を零すことになりました。
「…あぁ、忘れてました」
ダンブルドア校長先生と一緒に大広間に入ってきたのは、白い歯を輝かせるギルデロイ・ロックハート先生でした。
綺麗なライラック色のマントを羽織っているロックハート先生に、隣のスネイプ先生は顔をしかめています。
「さてさて、お2人の紹介が最後になってしもうた。
魔法薬学担当のセブルス・スネイプ教授と、同じく魔法薬学担当のリク・花咲助教授じゃ。
セブルス、リク。こちらは今年から闇の魔術に対する防衛術を担当してくださるギルデロイ・ロックハート教授じゃ」
ダンブルドア校長先生に紹介していただいて、私は思わず立ち上がります。
立ち上がろうとしないスネイプ先生をじとりと睨みますが、スネイプ先生は涼しい顔。
ロックハート先生は素敵な笑顔を浮かべて、立ち上がった私の方へと歩いてきました。
「まあ、なんと貴女が魔法薬学の先生! なんともお美しい」
「あ、ありがとうございます…。えっと、これからよろしくお願いします」
ぱちぱちと目を瞬かせる私の手を取って、にっこりと笑って握手をするロックハート先生。笑顔の度に白い歯が輝きます。
呆気に取られた私が助けを求めるようにスネイプ先生に視線を送りますが、彼は視線を逸らし、それを無視してしまいます。もう!
ロックハート先生は私の行動を怪しむことなく、むしろ私が照れ屋さんだと思ったのか、パチリと綺麗にウィンクを投げていました。
私は大人しく席に戻り、そしてちらりと私を見たスネイプ先生にだけ聞こえるように、小さく囁きました。
「…少し苦手です」
「今ので好意を抱く方がおかしい」
呆れたように息を吐いて同意してくださったスネイプ先生にまた苦笑が溢れます。
DADAの先生はとても個性的な方ばかりです。