「あまり厳しいことは言わないであげてくださいね」

見るからに苛立った様子で新聞を睨んでいるスネイプ先生に、私は思わずそう声をかけていました。
これから起きるであろう説教を思って、私もドキドキしてきてしまいます。

今日は9月1日。例年通り、ホグワーツに沢山の生徒が戻ってくる日でした。

そんな中、今、ホグワーツ特急に乗り遅れたハリーとロンが、空飛ぶ車に乗って、ホグワーツに向かっているのだというのです。

まだ2年生の彼らが車に透明呪文をかけることなどできず、多くのマグルが空飛ぶ車を目撃してしまっています。
空を飛んでこちらに向かっている彼らはまだ知りませんが、大人達は既に忙しく走り回ったあとでした。

本来ならばハリーとロンの寮監であるマクゴナガル先生が2人を迎えに行くのですが、彼女は今日、新入生の引率をしています。

なので代わりに私とスネイプ先生の2人でハリー達が来るのを待っていました。

苛々としているスネイプ先生の後ろに立ちながら、私は苦笑を零します。
ハリー達が上手くホグワーツ特急に乗れなかった理由を知っている、というのもあって、あまり厳しいことを言うのは可哀想に思ってしまうのです。

「規則は規則だ。
 第一マグルにも発見されている」

苛々して様子のスネイプ先生が吐き捨てるように言い放ちます。私も怒られているような気持ちになって肩を竦ませました。

「それは…、そうなんですけれど…。
 彼らの話もよく聞いてあげた方が、」

そこまで言葉を続けたところで頭の端にぴりりと痛みが走って、ぱっと頭を抑えます。
その仕草を見られていたのでしょう。スネイプ先生は怪訝そうな顔を私へと向けました。

「………どうした?」
「…。いえ、何でもありません」

じわじわと痛む頭。額に手を触れさせながら、静かに息を吐き出しました。

相も変わらず『何か』は私に厳しいようです。苦笑を零してちらりと時計を見ると、既に歓迎会が始まっている時間でした。
スネイプ先生もちょうど時計を見たようで私に声をかけました。

「君は夕食に行っていたまえ」
「私も待ちますよ。お腹もあまり空いていませんし」

何の気なしにそう言って、ふとスネイプ先生を見ると、彼は睨んでいるかのようにじろりと私を見ていました。
意外と心配症な彼は、私があまり多くの食事を摂らないことを良しとしていないのです。

指先を組んだスネイプ先生が私を睨むように見つめます。

そして生徒を説教する時によく使う猫なで声を使って、先程と同じ言葉をもう1度繰り返しました。

「君は先に行って夕食を済ませて置くように。よろしいかな?」
「りょ、了解でーす」

声音で危険を察知し、大人しく了承の返事をして、そそくさと部屋を出ます。

大広間に向かうと既に組み分けが始まっており、私は大広間の端を通って教職員の席につきました。両隣がいなくて少し寂しいです。

組み分けが終わった後、校長先生からの新学期のお話が始まりました(いつもの掛け声3つです)。
そしてそれを聞き終わったマクゴナガル先生は、険しい顔をしたあと、すぐに大広間を抜けていってしまいました。その後、ダンブルドア校長先生も大広間を抜けていきます。

その様子を見てか、生徒達はひそひそと囁きあっています。
ハリー達が車を飛ばしてホグワーツに来たということは既に大きな噂になっていたのです。

「ハリーも私の影響を受けてしまったんだろうね。
 新聞に取り上げられるだなんて、そうそう出来る経験ではないからね」

2つ隣の席にいるロックハート先生がにっこりと私に笑いかけてきていました。
私は浅く微笑みを返して、そして特別何も返事もしないまま、食事に意識を移しました。気にしない。気にしない。

暫くするとダンブルドア校長先生、マクゴナガル先生、スネイプ先生の3人が大広間へと戻ってきました。ハリー達の姿はありません。
私の隣に、疲れた顔をしているマクゴナガル先生と、今日1番不機嫌そうなスネイプ先生が座ります。

不安げに2人を見比べて少し迷った私は、マクゴナガル先生の方へと身体を傾けて、小さな声で問いかけました。

「ハリー達は無事でしたか?」
「えぇ。ウィーズリーが少し瞼を切ったようですが、他に大きな怪我はありません」
「退校処分にはしませんよね?」
「勿論。ただ、罰則を受けて頂くことにはなってます。
 本当にあの子達は…」

はぁと溜息をついたマクゴナガル先生に苦笑を零し、私も小さく安堵の息を零します。
そして同時にスネイプ先生が不機嫌な理由もわかりました。彼はハリー達を退校処分にしたかったのですから。

私は苦笑を零して、集まっている生徒達を見渡します。中には今年入ってきたジニーちゃんの姿も見えました。私は小さく呟きます。

「また長い1年になりそうですね」


†††


生徒達が必死に混乱薬を調合している様子を教室内を歩きつつ見守ります。
沢山の大鍋が一気に火をかけられていることもあり、いつもは肌寒い地下牢教室も暖かく感じます。

ゆっくりと歩いて2周程したあと、私は1番前の教卓の所にいるスネイプ先生の近くに寄ります。彼は生徒達の調合を眺めながら、提出用の試験管を人数分用意していました。
スネイプ先生は戻ってきた私を鋭く睨みつけます。

「余計な手入れをしてきていないだろうな」
「貴方にとっても怒られるのであまりしてきてませんよ」
「あまり、か」

じぃと私を睨み続けているスネイプ先生に、私はにっこりと笑みを返します。彼は私が生徒の手助けをすることを良しとしていないのです。
スネイプ先生は私の態度もお気に召さないようで、苛立ちを吐き出すように鼻で笑いました。

「君は生徒に甘すぎる」
「気を付けまーす」

軽く返事をすると、スネイプ先生の溜息。
彼は既に私が動じないことを悟っているのでしょう。

ふふと笑って彼の教卓に置かれた時計を見ます。もう少しで授業が終わる時間です。生徒達の魔法薬もそろそろ出来上がり始める頃でしょう。

「調合が出来た者から試験管を取りに来るように」

スネイプ先生のいつもの言葉を聞きながら、私は1番初めに試験管を取りに来た子ににっこりと笑顔を向けました。
再び聞こえたスネイプ先生の溜息はあえて無視をします。

そして終業の鐘が鳴る頃には生徒達はいそいそと教科書や大鍋を片付けていました。
学生の頃の私のように、残って何かをしようとする生徒はいません。少しするとすぐに教室は静かになりました。

私は提出されている試験管をきちんとアルファベット順に並べかえます。中にはうまく濃くならなかったものや、逆に固形化してしまっているものもありました。
苦笑を浮かべながらカラコロと音を立てる試験管を揺らしていると、隣に立ったスネイプ先生が私の手元を覗き込みました。

「それでは点数は差し上げられませんな」
「次のレポートに期待、ですね」

彼の横顔を見つめて微笑むと、スネイプ先生はあからさまに顔をしかめます。

「君に採点は任せられない」
「では大人しく試験管を洗うことにします」
「正しい判断だ」

短く笑ったスネイプ先生にクスクスと笑っていると、突然、地下牢教室の扉が開きました。


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