驚いてびくりと肩を震わせた私ですが、生徒が忘れ物をしたのだと思って視線を上げます。
「突然で申し訳ない。お2方とお話をしたいと思ってね!」
ですが、現れたのはロックハート先生でした。
スネイプ先生があからさまに嫌な顔をしたのを、むうと口を尖らせて制します。流石に一目見て嫌な顔をしてしまっては失礼です。
ロックハート先生はそんなスネイプ先生には気がつかなかったようで、白い歯を輝かせながら私達の所に笑顔で訪れました。
「そろそろ授業が終わった頃だと思いましてね。もしよかったらお茶でも飲みながら魔法薬学のお話をしようかと。
なにせ魔法薬学については、私もそれなりに詳しい」
綺麗なウィンクをしてみせるロックハート先生。スネイプ先生の舌打ちを止める術を、私は持ち合わせてはいませんでした。
生徒から恐ろしい先生と称されているスネイプ先生にもお誘いの声をかけてくださったということは、ロックハート先生は本当に悪気などは一切ないのでしょう。
ただ、その自己意識過剰な性格は、スネイプ先生が最も毛嫌いするものでもありまして。
そして、私も、得意とはしていないわけでして。
「我輩はこれの採点がある」
スネイプ先生は机の上の試験管達を視線で示し、ロックハート先生がこれ以上何か言う前にそう言い切りました。先に1人で逃れてしまうだなんて!
私はスネイプ先生をじぃと見つめます。スネイプ先生は私の視線を避けていましたが、やがて諦めたようにちらりと私を見ました。
「……彼女もだ」
溜息と共に言葉がそう続けて、私はひっそりと安堵の息を零します。
ロックハート先生は見るからに残念そうな表情をして、何故か私の手を取りました。
「いやぁ、なるほどそれは本当に残念だ。また時期を改めてお誘いすることにするよ」
最後、握った私の手の甲にキスをして、ロックハート先生は満面の笑みを浮かべて踵を返しました。
翻ったマントはとても優雅ではありましたが、その時の私はただ目をぱちくりとさせているだけでした。
困惑のまま視線をスネイプ先生へと向ければ、彼は私の疑問を答えることなく、肩を竦めただけでした。
†††
私は3階の廊下の壁に触れて、じっと見つめます。天井を見上げるとそこには配管の入口が見えました。
覚えています。
私は、ここで何が行われるかを覚えています。
今年、会える人のことを覚えています。
忘れられるわけはないのです。彼は私の大切な友人なのですから。
会うかどうかはまでは、未だに悩んでいるんですけれども。
「何をしている?」
声をかけられた私は視線を声の方へと向けます。そこではスネイプ先生が怪訝そうな顔をして、私をじっと見つめていました。
私は壁から手を離して小さくはにかみます。
スネイプ先生は一瞬目を細めたあと、無言のまま私に手を差し出しました。
伸ばされた手に目を瞬かせて驚く私。ですが次にはにっこりと笑顔を浮かべて、彼に駆け寄って手を取りました。
手を重ねるとスネイプ先生はエスコートするようにゆっくりと私に合わせて歩き出します。向かう先は大広間でした。
これからハロウィンパーティーがあるのです。
ハグリッドさんが育てた大きなかぼちゃがジャックオーランタンとして飾られ、天井には生きた蝙蝠が飛んでいます。
今回はダンブルドア校長先生が『骸骨舞踏団』の方々をお呼びしたようで、バイオリンの音が遠く聞こえてきます。
走って大広間に向かう生徒を見つけた時、スネイプ先生はいつのまにか私の手を離していました。
それでも私は幸せでした。