今日は今シーズン初の、グリフィンドール対スリザリンのクィディッチ試合が行われる日でした。
スネイプ先生は図書館に本を返してから行くとのことで、私1人、先に観客席に向かっていました。
外は生憎の大雨で、視界がいいとは言えません。観客席に向かうまでの道でもう濡れ鼠状態になった私は表情をしかめながらようやく教職員用の席へと着きました。
そして、やっぱりスネイプ先生と来るべきでしたと、後悔をしていました。
「私は幼い頃から運動神経にも長けてましてね。今でもプロのクィディッチチームからお誘いがひっきりなしに来るんですよ」
「そ、そうなんですか。凄いですね」
右隣をスネイプ先生のために取っておいたのはいいのですが、ロックハート先生は私が1人なのを見つけると、いつものような輝く笑顔で私の隣へと座ったのです。
助けを求めるようにマクゴナガル先生を見ますが、彼女は苦笑を零したあとに視線を逸らしてしまいます。ひどいです。
「女性チーム、ホリヘッド・ハーピーズの中にも私のファンがいまして。毎年毎年、シーズンになるとクィディッチの観戦チケットを送ってくれるんです。
今年の分のチケットももう送ってくれているんですよ。もちろんA級の特等席をね。
だからリク先生、次のクィディッチの試合を2人で見に行きませんか?」
「えっ?」
「ええ! そうです! 2人で!」
意識の半分以上を、まだ姿の見えないスネイプ先生に割いていた私は、いつの間にかロックハート先生からお誘いを受けていることに気づきます。
いつの間にか両手を取られて見つめられています。あたりは土砂降り。生徒達の悪態が遠く聞こえました。
何と言ってお断りしようかと頭を悩ませていると、私の隣に座った不機嫌そうなスネイプ先生が目に入りました。
「探したが?」
「さ、探されてましたーっ」
スネイプ先生の登場に私の表情がほころびます。彼が私を見つけてくださったことに心から感謝しつつ、私は肩を落としながら何故か硬い笑顔を浮かべているロックハート先生に躊躇いつつお返事をします。
「あの…、すみません。私、プロのクィディッチにはあまり興味がなくて…、私よりもマダム・フーチをお誘いしていただいた方がきっと喜ばれると思います」
「あ、あぁ…。そうだろう。確かに彼女はクィディッチが好きそうだ…。なんせ試合監督だもの。
では試合が終わったら声をかけてみるよ、ははは…」
乾いた笑いを零すロックハート先生が立ち上がって、少し離れた席に座り直していました。
彼の気を悪くしたかな、と不安げにスネイプ先生をちらりと見上げると、スネイプ先生は鼻で笑っていました。
「デートの誘いに他の女性を紹介するとはな」
「ええっ?」
私から素っ頓狂な声が出ます。
「あれってデートのお誘いだったんですか?」
「そこからか」
心底呆れたように言うスネイプ先生に、私は自分の両頬を押さえます。
全然予想もしていなかったので、デートのお誘いだとも気が付いきませんでした。
と、その時、目に入ったものを凝視しました。
「どうした?」
「ブラッジャーが」
雨で視界が悪い中、私は1つのブラッジャーがハリーだけを追いかけているのに気がつきました。
ブラッジャーは選手をランダムで襲うようになっているはずです。それがハリーだけを狙うなんてことは普通ではありえないのです。
「ブラッジャーの1つに呪いがかけられています。
このままではハリーが怪我をしてしまいます。試合を中断してもらわないと」
立ち上がった時、スネイプ先生の表情が険しくなりました。
彼の視線を追うと、右腕をだらんとさせているハリーが目に入りました。ブラッジャーがハリーに当たったのです!
突如、ハリーが急加速をはじめました。ハリーの箒の先にはドラコくんが驚きの表情を浮かべて、固まっていました。
そしてハリーの数センチ先、ドラコくんのすぐそばにあるスニッチが見えました。
私は思わず動きを止めてハリーとスニッチを見つめます。ドラコくんは未だ気づいていません。
ついにハリーがスニッチを捉えた瞬間、箒がぐしゃりと地面に落ちていきました。
悲鳴を噛み殺した私がすぐに観客席から飛び出します。駆け下りながら私はスネイプ先生に振り返りました。
「ロックハート先生を止めておいてください!」
「何故」
「どうしてもです!」
それだけを伝えて、また走ります。グリフィンドールが勝ったということで歓声を上げる生徒達の間を抜け、グラウンドまで降りていきます。
地面のぬかるみに足を取られかけますが、それでもハリーに駆け寄ると、ハリーは右腕を骨折していました。
「ハリー! 心配するな。私が君の腕を治してやろう」
声に振り返ると、そこにはロックハート先生がいました。驚きの表情を向けるとスネイプ先生が私達に近寄ってきていました。
彼は私が睨みつけているのを気にもせずに肩を竦めます。
私はハリーのすぐ傍らに膝をついたロックハート先生の腕を掴みました。
「ロックハート先生。このまま何もしないでマダム・ポンフリーに診て頂かないといけません。
彼を医務室へ」
「何、心配はいらない。簡単な呪文ですよ、リク先生」
「僕、医務室に行かせてもらえませんか」
「ほら、みんな、下がって」
私とハリーの制止を振り切って、杖を構えるロックハート先生。むすと頬を膨らませた私は、腰元に手を伸ばして杖を抜きます。
それはとっても失礼なことではありましたが、私はロックハート先生がうまくハリーの腕を治せないことを知っていました。
杖を振るおうとした瞬間、私の腕を引いたのはスネイプ先生でした。
「暴発させる気か」
「でも」
険しい顔をして私を止めるスネイプ先生に、小さく反論の声を上げた瞬間。ロックハート先生が「あっ」と短い声を上げていました。
バッとハリーの方へ視線を向けます。深く深く黙り込む私の少し前で、ロックハート先生は若干慌てたような声で言葉を続けていました。
「そう、まあね。時にはこんなことも起こりますね。でも要するにもう骨は折れてない」
私はハリーのすぐそばにしゃがみこんで、彼の右手を握ります。ローブから覗くその手はゴムのように変質してしまっていました。
ロックハート先生はハリーの骨折を治す、というよりも右手すべての骨を抜き取ってしまったのです。
「私はマダム・ポンフリーにお願いするように言いました」
静かにそう言って、ゴム状になってしまったハリーの腕を静かに握ります。骨折だけだったらすぐに治せたはずです。
ハリーは自分自身の右側を見て、酷く青ざめた表情を浮かべていました。私は静かに言葉を続けます。
「言いましたよね?」
ロックハート先生は私の顔を見ておどおどとしていました。そしてすぐに言葉を紡ぎます。
「で、では私が責任を持って彼を医務室へと連れて行きましょう」
「当然です」
短く返して、ハリーを連れていくロックハート先生の背中を見つめます。ロンとハーマイオニーが不安げな顔をしてハリーについて行きました。
試合には勝ちましたが、骨を元通りにするのは一苦労なのです。
ぷくと頬を膨らませていると、私に降り注いでいた雨が急に遮られました。
「珍しい」
私のすぐ後ろに立ったスネイプ先生が、杖を空に向けて傘を作り出し、私を傘の中に入れてくださっていました。
私は首を傾げて彼を見上げます。
「なんです?」
「君が怒るとは、珍しい。
…生徒が怯えるのでは?」
そう言われて私ははたと気付いて頬を抑えます。そんなに怖い顔をしてたのでしょうか?
ふるふると小さく首を振った私は、大きく深呼吸します。
「………じゃあちょっと、落ち着きます。
怖い先生は貴方だけで十分ですもの」
「傘は自分でさしたまえ」
あっさりとそう言われてあろう事か私の上から傘が消えます。
悲鳴を上げて彼に近寄って傘の中に戻り、苦笑とともに謝罪した私は、早くお城に戻ることを提案したのです。