クィディッチの試合が終わったその日の深夜。
グリフィンドール寮生のコリン・クリービーくんが、ミセス・ノリスと同じように石化して発見されました。
こっそりと寮を抜け出し、病室にいたハリーのお見舞いに行こうとしていた時に襲われたようでした。

再び現れた犠牲者に、生徒達も不安そうな表情を浮かべていました。
秘密の部屋の伝承も同じく噂として流れていたため、特にマグル出身の子達は1人で行動するのを控え、グループで固まって行動するようになっていました。

生徒達には教えられてはいませんでしたが、教師陣にだけはダンブルドア校長先生から、秘密の部屋が開かれたと言うことは聞かされていました。

秘密の部屋の伝承は事実なのです。
ダンブルドア校長先生のお話によると、50年ほど前にも1度部屋が開かれ、犠牲者が出たというのです。

50年前は死者が1人出て、そして犯人と思われる生き物が見つかり、1人の生徒が表彰されたのを境に犠牲者は出なくなったのだといいます。

表彰された生徒の名前はトム・マールヴォロ・リドル。
後にヴォルデモート卿と名乗るその人でした。

ダンブルドア校長先生は私達教師陣に今まで以上に用心するように言い、私達も夜の見回りの強化することにしました。

ホグワーツは、じわじわとした不安に包まれていました。


†††


私はホグワーツの長い廊下を、壁に手をつきながら歩きます。
残念ながら私に見つけられるとは思いません。
私にはその声を聞き分けることは出来ませんし、それは非常にうまく潜伏しています。

それでも神経を研ぎ澄まし、静かに歩いていると、ふと廊下の先に燃える赤毛を見つけました。
自然と近寄って、私は彼女に声をかけます。彼女はこの混乱しつつあるホグワーツの中を1人で歩いていました。

「こんにちは」

驚きに肩を震わせてゆっくりと振り返ったのは、ロンの妹のジニーちゃんでした。

「こんにちは、リク先生…」

元気のない彼女に私は微笑みかけます。そこではたと思い出した私はたまたま持っていた板チョコを取り出しました。

「これをどうぞ、私のお気に入りなんです」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして?」
「なんだか元気がなかったから…。悩み事です?」

私が静かにそう言うとジニーちゃんは強がるように微笑み返します。

「なんでもありません」

言葉に私は内心の心配を隠して、にっこりと笑顔を浮かべて、授業へと向かう彼女に手を振りました。



今日の2年生の授業はふくれ薬の調合でした。

どうしても薄くなってしまったロングボトムくんのふくれ薬に、私はスネイプ先生の目を盗んでフロバーワームの粘液を1滴加えて少しだけ手直しをします。

「また4行目から同じことをしてみて下さい」
「あ、ありがとうございます」

こそりと囁くとスネイプ先生はちらりと私を睨みました。私は素知らぬ顔をしてロングボトムくんから離れます。手直しなんてしてませーん。
スネイプ先生が私を睨んでいましたが、私は頑なに素知らぬ顔。

その時突然、爆発音と共にふくれ薬の滴が降り注ぎました。
近くにいた生徒に咄嗟に『プロテゴ(守れ)』をかけますが、流石に全員を守りきれません。クラス中に悲鳴が溢れました。

「静まれ! 静まらんか!」

パニックになる生徒達に、スネイプ先生の声が響きます。
少しするとふくれ薬を浴びた生徒が、腕や鼻や足を膨らませた状態で声を上げつつも落ち着きはじめました。

「薬を浴びた者は『ぺしゃんこ薬』をやるからここへ来い。誰の仕業か判明した暁には…」

スネイプ先生の言葉が途中で消えていきます。彼の視線は大きく膨らんだ私の腕に移されていました。
咄嗟に生徒に『プロテゴ(守れ)』を掛けたため、自身が疎かになっていたのです。

「……君も浴びたのか」
「てへへ」

途端呆れた顔をするスネイプ先生に、私は照れたようにはにかみます。だって、浴びてしまったものは仕方がありませんもの。
スネイプ先生は杖を振るい、奥の薬品棚から『ぺしゃんこ薬』を呼び寄せて、私に手渡しました。私はお礼を言ってにこりと笑顔を向けます。

「私が配りますね。貴方は鍋を見てください」

無事である腕で、杖を振るい、小瓶に『ぺちゃんこ薬』をわけていきます。スネイプ先生はふんと鼻を鳴らして、爆発したゴイルくんの鍋へと向かいました。
みんなが解毒剤を飲んで、膨れが治った時にスネイプ先生がゴイルくんの大鍋から花火の燃えカスが見つかりました。

急にクラス中が静かになりました。

「これを投げ入れたものが誰かわかった暁には、我輩が間違いなく退学にさせてやる」

怖いことを言っているスネイプ先生ですが、今回ばかりは私も生徒達を擁護してはあげられません。
ホグワーツでの授業は巫山戯ながら受けると深刻な怪我をしてしまうのです。

ですが、苛々と生徒を見回しているスネイプ先生に、私も怒られているような気分になってしまいます。
薬を飲み終えて、膨れを治した私もしょんぼりと肩を落としていると、スネイプ先生は短く鼻を鳴らしていつものように生徒達の試験管を回収し始めました。

授業が終わると、生徒達はすぐに教室から飛び出していきます。
私は苦笑を浮かべてその様子を見送り、そして、中身がとっても少なくなってしまった『ぺしゃんこ薬』の瓶を指先でつつきました。

「新しいぺしゃんこ薬を作らなくてはいけませんね」
「ポッターが犯人だ」

ばっと言い切るスネイプ先生に私は苦笑を浮かべます。本当にハリーが嫌いなんですから。

「証拠はないんですから、あまりハリーを虐めては可哀想ですよ」

声をかけるとスネイプ先生はふんと鼻を鳴らしました。彼のハリー嫌いはどうやら治りそうにありません。
私は変わらず苦笑を浮かべたまま、早速『ぺしゃんこ薬』の補充を作ろうと、大鍋を呼び寄せました。


†††


頭が酷く痛みます。急に訪れた頭痛に私は長い息を吐いて、以前予め作っておいた頭痛薬を飲み込みました。
薬の効果がではじめるまで私はまた数瞬、瞳を閉じます。そして自嘲のような笑みを零しました。

相も変わらず『何か』は私が未来を変えようとすることに厳しいようです。

それでも私はもう1度、彼の命を助けないと。

そこで不意に見上げた扉辺りにスネイプ先生が立っているのが見えて、私はびくりと肩を震わせました。
いつからそこにいたのでしょう。なんの興味もなく私を見ている様子のスネイプ先生に私は誤魔化すような笑みを浮かべました。

「びっくりしました。いたのならば声をかけてくださいよ…」
「別に用事はない」

用事がないからこそ、声をかけない。それはわかるのですが、静かに立たれると私の心臓に悪いです。
短く息を吐いた私は笑顔を浮かべて、持っていた頭痛薬を隠すように鞄へとしまい込みました。

「では、紅茶を淹れるので是非ご一緒に」

先生は何も言いませんでした。微笑みながら紅茶のポットを掲げると、彼は2つのカップを用意してくださいました。
紅茶とお茶菓子も準備して、私は生徒用の椅子をスネイプ先生の教卓の近くへと持っていきます。

少し遅めのティータイムです。

そこで私はふと、彼に伝えなくては、と思っていたことを口にしました。

「そういえば先程、ロックハート先生から明日の『決闘クラブ』のお手伝いに来て欲しいとお願いがありました」
「断っておいたかね」
「『お手伝いします』とお返事しましたのでそのつもりで」

にっこりと笑みを返すと、スネイプ先生の苦い顔。
私は肩を竦ませながら微笑みを零して、ハニーデューク製のクッキーに手を伸ばしました。

「いいじゃないですか。放っておくと参加するまで誘われるような気がして」
「……一理ある」

深い溜息をついたスネイプ先生に、私はクスクスと微笑みかけたのでした。


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